第405話 龍の尾。
十分後。
ここは城内にある会議室の一つ。
煌びやかな服を着る初老男性の前でジェフィーが跪いていた。
「……以上です。ジョニール陛下」
丁度、白龍のこと、フェリンダから聞き出した白金の英雄のこと……帝国内が危険な状態にあることをジェフィーが初老男性に報告し終えたところであった。
ちなみに目上であるのだろう初老男性に対して普段の粗暴な態度を切り替えて、丁寧且つ敬語を使って。
初老男性は渋い表情で。
「そうか……龍の尾を踏んでしまったと。厄介なことになったな」
「つきましては、陛下には避難を」
「……危機であることは分かる。しかし、国の主である皇帝が民の避難も済んでない状況で簡単に座を退く訳にはいかん」
「ですが……」
陛下と呼ばれた初老男性……ジョニールは頭を抱えて黙った。
少しの間の後で、口を開く。
「………勝てないのか? 我が最強の矛よ」
「英雄の領域に居る者同士の戦いです。私は……負けない自信はあるのですが、勝てるかはどうか答えられないですね。二年前の情報、語り歌の情報でも、十分に強いことは分かります」
「そうか……。いや、待て……もっと数を動員しないのか?」
「そうしたいのはやまやまなのですが……。天眼を持っています。天眼は気配操作術を極めた先で手に入れられる極技の一つです。つまり、気配操作術を使い、逃げ隠れされたら私が不利になるだけなのです」
「お前の考えが被害を最小限にする方策か……」
「そうです。それらの理由で私は陛下に避難して欲しいと考えます。しかし、懸念が……あります。白金の英雄は少数の手勢で、国をとったとか。暴力だけでは、本当の意味で国をとれるとは思えないです。つまり彼の近くに相当頭の切れる軍師が居る可能性が高く。更に言うなら彼の能力は正面から戦うよりも暗殺に向いている。だとすると、今回の目立つ単騎掛けにも何か裏にある可能性が……。残念ながら私は戦うしか能がありませんので、軍師の読み合いには勝てないのです。よって、陛下がこの後どうされるのかは陛下と陛下の部下で頭のいい方にお任せします。ただ、警護にはオリジナルの『神楽(かぐら)』を使ってください」
「……分かった」
「それでは、私は敵との戦いへと向かいたいと思います」
「あぁ。任せるぞ。我が最強の矛……ジェフィー・ファン・フィンガーランド」
「はっ」
ジェフィーが頭を下げた。そして、その場から辞するのだった。
ジェフィーとフェリンダとは会議室を後にして、城内を走っていた。
ジェフィーは何かに気付いたのか、視線を上げた。
「っ! この気配は」
フェリンダは首を傾げて問いかける。
「どうされましたか?」
「この嫌な気配は……アルセーヌのオラクルか。こんな帝都のど真ん中で」
「そうですか。無差別と言う性質はありますが……彼のオラクルならば戦えるでしょう」
「どうだろうな。狐が龍に勝てるだろうか?」
「……急ぎますか」
「そうだな。気配が流れてきたのは……城正面か。一応抑えられてはいるのか」
ジェフィー達は城内を走って、城正面へと向かう。
正面玄関にたどり着いて……城正面につながる扉を開けると、黒煙が。
ジェフィーは口元を押さえて。
「っ! これは……煙幕か。状況は?」
近くに居た兵士を捕まえて、問いかけた。
「はっ! 敵が……煙幕を使ったようで」
「アンドン、キャロニカ、アルセーヌの三人が押さえていると聞いたが?」
「アンドン様、キャロニカ様は敵の毒に倒れ。アルセーヌ様は腕を切り落とされて、負傷……のちにオラクルを使用したようですがなぜか不発に終わり逃走したようです」
「そうか……ハーヴィン少将はどこにいる?」
「申し訳ないです。下っ端の俺……いや私には……ただ、煙幕で敵を見失ったとかで、あちらに上級士官の方に集まっていたのがもしかしたら」
「わかった」
「いえ……部隊長が呼んでいますので失礼します」
「あぁ」
兵士はペコリと頭を下げた。その後にジェフィーの横を歩いていく。
ジェフィーは背筋に寒いモノが走った。
腰から吊るしていた剣を引き抜いて、兵士へ振るう。
兵士も剣を引き抜いて、ジェフィーの剣を受ける。
ガキンッと重い金属音が響いた。
兵士は動揺した様子で。
「え、えっと。突然に何なんですか?」
「お前か……」
ジェフィーが兵士を睨みつけた。
兵士は口角を上げて。
「この変装は結構完璧だと思っていたんだが。何の確信をもって……分かったのかな? リック爺さんもそうだが。一定以上の実力者には特別な察知能力でもあるのだろうか?」
兵士とジェフィーとが剣と剣とをギリギリと合わせていた。
ただ兵士の単純な腕力では、負けていて剣が押し込まれる。
兵士は後方に……城内の広い正面玄関へと飛んだ。
唐突に始まった兵士とジェフィーとの戦いに、辺りは騒然となった。
ジェフィーと一緒に居たフェリンダが、周りの兵士達にこの場から離れるように命令を出していった。
ジェフィーは正面玄関に、剣の剣先を兵士へと向けた。
「お前が、ニール・アロームスだな」
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