第404話 ジェフィー・ファン・フィンガーランド。

 少し時間が遡る。


 ここはトーザラニア帝国の帝都ドペルゴン中央にある城内。


 長い廊下を赤髪の女性が部下を連れて歩いていた。


 彼女は帝国最強と歌われる『赤髪』の二つ名持つジェフィー・ファン・フィンガーランド。


 左目にやけどを負っていて、眼帯を付けながらも……鋭い目つきの美人であった。


 後ろに居た部下が歩速を速めて、話しかける。


「ご苦労様です。次はヘブリニッジ王国との同盟に関する検討会となっています」


「はぁ。休暇明けから忙しいな」


「休暇中に溜まった仕事です」


 部下が資料をジェフィーに手渡した。


 ジェフィーは渋い表情を浮かべて資料を捲る。


「そうか……。ヘブリニッジ王国と言えば……俺が休暇前に何か動きがあったんだったか?」


「あぁ。アレはヘブリニッジ王国が人探しに軍を動員していたので密偵が勘違いしていたようです」


「ハハ。人探しに軍を動員しただと? どういうことだよ?」


「ヘブリニッジ王国の国王は娘……王女達を溺愛しているのは有名ですが。それで盗賊に攫われそうになった第二王女を助けた者を探していたのだとか」


「なんだよ。それで軍を動かすのか?」


「そうですね。これはあまりにアレな噂なので、確かな情報と言う訳ではないのですが。どうやら、その第二女王が助けた者に一目惚れしたとかなんとか?」


「それで国王様に泣きついたか? もしそうだとしたら……男親は辛いなぁ」


「ハハ。その人探しも見つける為じゃなく。暗殺の為かも知れないですね」


「しかし、名乗り出たりしてないのか? あからさまな玉の輿だろう」


「どうやら、名乗り出ないようですね。密偵からはそういった報告を聞きませんでした」


「そうか。あ……今度、ヘブリニッジ王国のテリッジ将軍殿と会合があったよな? その時にでも聞いてみようか」


「そうですか。その時はぜひ私も参加したいですね」


「お。フェリンダも興味があるのか?」


「ええ。なんせ、それを成したのが最近語り歌として出回っている『白金の英雄』殿という噂なんで」


 ジェフィーは一瞬顔を強張らせた。


「……へぇ。そうなのか。その白金の英雄について詳しく……ん?」


 ジェフィーは何か気になったことがあったのか立ち止まった。


 唐突に立ち止まってジェフィーに対して、後ろを歩く部下達は戸惑いながらも立ち止まった。


「どうされたのですか?」


「いや、今日は外が騒がしいな」


 ジェフィーが窓に近づき、窓を開けた。


 扉を開けると兵士達の声が微かに聞こえてくる。


「何か聞いているか?」


「あぁ。どうやら侵略者が現れたようですよ」


 部下の言葉に険しい表情を浮かべて、窓の外へ鋭い視線を向けた。


「は? 何を呑気に……」


「ハーヴィン少将が動いているそうですね。それに……腕は立つと聞きましたが、十代と思われる少年が一人で現れたようで」


「十代の少年が一人で……。それなのに、まだ制圧できてないのか?」


「えっと、確かに時間が掛かっているようですね」


「………ちなみに聞きたいんだが、その少年の髪色は?」


「え? えっと……少年の髪色ですか? え、えっと、この辺りでは珍しい白金の髪であったとか?」


 ジェフィーは目を見開いた。ガンッと窓の縁に手を置いた。


「待て……待て。待て。待て。聞いていたよりもずいぶんと早いじゃないか?」


 ジェフィーの普通では見せない様子に、部下達は一様に怪訝な表情となった。


 部下の一人が一歩前に出て。


「あの。その侵略者に心当たりが?」


「こうなるかも知れないと……聞いていた」


「聞いていた? 今回の襲撃をですか?」


「あぁ……どうやら、俺達は龍の尾を踏んだようだ」


「え?」


「フェリンダ。陛下の今の予定はどうなっていた?」


 部下の一人……フェリンダは唐突な質問に「え? えっと……今は……」と戸惑いながらも、メモ帳をペラペラと捲った。


 メモ帳の文面をなぞって、口を開く。


「えっと、はい。今は……財務卿と今期予算の打ち合わせだったかと」


「予算打合せなら、会議室を使っているか……。よかった。城内に居るんだな」


 ジェフィーが一度頷くと、足早に歩き出した。


 部下達は慌てて、ジェフィーの後ろについて歩きだす。


 フェリンダはメモ帳を仕舞って、問いかける。


「あの……この後どうされるのですか?」


「陛下の避難を勧める」


「え? ええ?!」


「驚くのもわかるが……。奴は以前トーザラニア帝国の大隊を一人で打ち滅ぼしたことがある男だぞ?」


「!」


「そんな男が帝都のど真ん中に攻め込んできたんだ。今がどれだけ危険な状態かわかるだろう?」


「待ってください。少年一人に大隊が壊滅させられたことなど一度も」


「……あるだろう。四年前に」


 フェリンダは視線を下げて「四年前」と呟き考えを巡らせた。少しの間の後でハッとした表情を浮かべる。


「まさか、白龍ですか?」


 白龍と言う言葉に他の部下達は顔を強張らせる。


 ジェフィーは肯定するように頷いた。


「そう。休暇中に知り合いから聞いた。白龍に成るのは彼のオラクルだそうだ……これ以上は後で話そう。超災害級の厄災が訪れたと思え。私に付くのはフェリンダだけでいい。他は将軍共に働きかけて、民の避難のために全力で動け。強引にでもすすめてくれ、私が許可を出す」


「「「「「はっ!」」」」」


 フェリンダを除く部下達がジェフィーの命令を受けて、立ち止まって敬礼した。


 次いで慌ただしく動き始める。


 ジェフィーとフェリンダは足早に城内を歩きだす。


「それで?」


 ジェフィーの脈絡のない問いかけに、フェリンダは素っ頓狂な声を上げて答えた。


「へ? なんですか?」


「白金の英雄について詳しく」


「え? あぁ。今ですか?」


「その白金の英雄が攻めてきているんだから、聞くに決まっているだろう!」


「え……えええぇ!!」


 フェリンダの驚きの声が城内の廊下に響き渡ったのであった。


◼️

そうそう、今日から長期休みですな。四日まで更新しますよ^ ^

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る