第400話 お邪魔しますよ。
十日後。
時刻としては昼頃。
ここはトーザラニア帝国で最大の都市である帝都ドペルゴン。
広大な敷地のある帝都を囲む城壁。
四方に巨大な扉があって、その西側にある扉前では数名の兵士達が門番として立っていた。
扉の向こうよりやってきた兵士達が門番をやっていた兵士達に話しかける。
「交代の時間だ」
門番の兵士達は一様に顔を綻ばせた。
「お。ありがてぇ。腹減ったぁ」
「何か引継ぎは?」
「いつも通りだ。何かあったら。こんなのんびりしてないだろ。暇すぎる。こんなことなら功績を上げるために、クリムゾン王国で起こった反乱鎮圧に志願すりゃよかったかなぁ」
「やめとけ。やめとけ。わざわざ危険なところに行く必要ないだろう」
「危険な訳ないだろう。クリムゾン王国なんて弱小国だぞ?」
「馬鹿だな。兵数で言ったらそうだが。何度かの戦争を経て、クリムゾン王国の兵一人一人は手強いと聞くぞ」
「はん。戦争は数だろう」
門番の交代しようとしたところだった。遠くの空で、青く光った。
青い光に気付いた門番の一人が眉を顰めた。
「なんだ? アレ?」
彼の疑問に答える者はいなかった。ただ、周りも気になったのか、彼の視線の先……青い光へと視線を向けた。
「なんだろう? 青い……どっかの魔法使いが馬鹿な事をやっているのか?」
「ハハ、ありえそう。この前もどっかの魔法使いが家を爆破していたっけか?」
「とんでもねぇな。て、なんか大きくなってないか?」
「ほんとだ……近づいてきているんじゃ?」
「そんなバカな。確かに大きくなっているが……」
門番達が青い光に注目して、口々に話していた。
青い光は大きく、上空に差し掛かったところでフッと消える。
黒い点が現れた。
その黒い点は大きくなって、門番達の前に落下した。
ドンと重たい音が響いて、地面にクレーターができ……辺りに砂埃が舞った。
門番達は突然のことに戸惑いながらも、訓練通り……大盾構えた者を前列に、他がそれぞれ武器を構えていた。
砂埃が晴れたところで現れたのは、マントを羽織ったニールであった。
マントを脱ぎ去る。
「戦線布告。今からトーザラニア帝国に攻め込むことを宣言する」
脱いだマントを軽く投げて、地面に落ちた。
ただ、マントで隠れた一瞬でニールの姿が消える。
大盾の隙間から様子を窺っていた兵士達はニールの姿が忽然と消えたことに目を見開いた。
「ど、どこだ?」
「消えた?」
「おう。亡霊か?」
兵士達に動揺が広がった。
地鳴りのような音と共に城壁にいた一般人が集まってきた。
「なんだ。なんだ。地震かぁ?」
「さて、なんだろうねぇ」
「ん? 見ない顔だなぁ。坊主」
「そう? 旅人をやっていてね」
「そうかい。じゃあ、ここには観光かい?」
「いや……」
ニールが言葉を切った。
話していた一般人の肩を叩いて。
帝都へと鋭い目つきで睨み、笑みを深めた。
「ちょっと教訓を与えに」
腰から下げていた鈍を引き抜く。
刃先が地面に触れて、カランカランと音が聞こえた。
刀身に青い炎が纏わり付いていく。
剣を抜いたニールに、周りの一般人はギョッとした表情を浮かべた。
「お、おい」
「一番偉い人はどこにいるかなぁ」
ニールが一言呟くと、集まりだした人々の間をすり抜けて大きな扉へと歩いていく。
いくら気配を消していても、青い炎を纏った剣を持った少年が歩いていれば注目も浴びるモノで……。
兵士達がニールの元に集まってくる。
「少年、そこで何をしようとしている」
「その剣はなんだ!」
「止まれ!」
兵士達としては、ニールの持っている青い炎に燃える剣はどう見ても危険だ。しかし、ニール自身は子供にしか見えないので対応に困っているように見えた。
それでも、危険人物は危険人物で拘束しようと動き出す。
ニールの進路を阻むように剣、槍を構えた。
対して、ニールは笑みを浮かべた。
「じゃあ。止めてみるといいよ」
歩みも止めなかった。
それは剣と槍を突き付けられても。
ただ目の前で、ニールの姿が揺らぎ……青い炎で燃え上がる形で消えた。
「【火影(ほかげ)】」
兵士達は一様に驚き。次いで先ほどのこと……空から降ってきた者が忽然と消えたことを思い出した。
彼等は何らかの魔法であると結論付けて次はどこ行ったのかと、きょろきょろと視線を巡らせた。
当のニールはと言うと、大きな扉の前に立っていた。
青い炎を纏った鈍の剣先を扉に突き立てる。
扉は赤く熱せられた。
一度鈍を引いた。
鈍を構えて、斜め上に振り抜いた。
扉の一部が、溶解されつつ切り裂かれて……重々しい音を響かせて倒れた。
ニールは青い炎を消して、鈍を鞘にしまった。
「お邪魔しますよ」と軽く会釈して扉を通って入っていってしまった。
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