第396話 クリムゾン王国より。

 ここはクリムゾン王国の北部のあるノリッチ鉱山。


 カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! っと金属音が響いていた。


 鉱山から降りる山道ではやせ細った男女が籠を背負って歩いていた。


 彼等はボロ雑巾のような服を着込んでいた。更に首輪、足枷を付けられている。


 ちなみに背負っている籠には大きさの岩がいくつも入っていた。


「うぅ」


「あぁ」


「重い……」


 歩いている彼等はうめき声をあげながら、汗を流していた。


 その時、馬に跨った男性が下ってきた。


「おらおら。豚共、ちんたら歩いてんじゃねぇ」


 手に持っていた鞭を振るった。籠を背負って男女に鞭を打ち付ける。


「ひいぃ!」


「痛いっ!」


「ごめんなさい」


 馬に跨った男性は鞭を振りながら、嫌らしい笑みを浮かべた。


「ハハハ。働け!」




 ここはクリムゾン王国のグラスタ村。


 グラスタ村は村民百人規模の大きさの村であった。


 クリムゾン王国の王都マタールから離れていた関係で昼までは貧しくも平穏に暮らしていた。


 しかし、夕暮れ頃に、村の様子は一変した。


 村の周囲から大量の矢が放たれた。


 大量の矢に村人は騒然となった。


「な、なんだぁ」


「い、痛い」


「矢が足にっ!」


「誰がこげんなことを!」


 ダダッダダッダダッ地鳴りのような馬の駆ける蹄音が響く。それは村の全方位から聞こえてきていた。


 赤色の鎧を着た騎馬兵が村の中に走り込んできた。


「おらおら。逃げないと殺されるぞぉ!」


 突然現れた騎馬兵に、村人達は逃げ惑う。


「いやー!」


「アレはトーザラニア帝国軍の!」


「逃げろぉ!」


「襲撃だぁ!」


 騎馬兵は村人達を執拗に追って、持っていた槍で首を切り裂いていく。


「おら。一匹」


「ギャアアアッ」


 その騎馬兵から逃れた村人も、別の騎馬兵が剣で刺し殺された。


 そこから始まったのは目を覆いたくなるほどに残虐な……逃げ惑う村人達への一方的な蹂躙であった。


 村に現れた騎馬兵……総勢百は一様に村人の首を切り裂いて、馬に吊るしていった。


 騎馬兵達は首を……戦利品を見せびらかして笑い合う。


 騎馬兵は血濡れた硬貨持って、近くにいた者に声を掛ける。


「おい。こっちの家、ずいぶんとため込んでいたぜ?」


「ほんとだ。いい酒代になるじゃねぇか。まぁ。俺はこのネックレスがあるからいいけど。嫁に渡せる」


「お。いいねぇ。ってお前は女を殺し過ぎじゃねぇ?」


「そうかぁ? たまたま俺の前に来るのが女なんだよ」


「お前なぁ。言われてただろう? 女は後で楽しむために殺すのを待てってよぉ」


「そうか。ヘヘ。今度から気を付けるよ」


「マジだぞ?」


 騎馬兵達が楽し気に下賤な話をしていた。


 そこに別の騎馬兵が近づいてくる。


「ジェラウン隊長より伝令! 女共を捕らえたので村に火を付けて離れるとのこと!」


 伝令を伝えた騎馬兵は、馬に鞭を打ってその場を離れて行った。


 下賤な話をしていた騎馬兵達はニヤリと笑みを深めた。


 懐から陶器の瓶を取り出して、民家に投げた。民家にぶつかった陶器の瓶は割れて、中に入っていた液体が飛び散る。


 騎馬兵達は馬に鞭を入れると、すぐにその場を離れて行った。


 トーザラニア帝国軍の騎馬兵、兵士達がグラスタ村から離れて行くと、火が放たれた。


 村は燃えに燃えて、火が消えた次の日には黒焦げた跡地が残るだけであった。


 そして、離れた場所では犯し尽くされた女性達が……顔面を潰された状態で放置されていた。




 クリムゾン王国の王都マタール。


 ニールが住んでいた二年半前に比べて、現在は活気を失われていた。


 具体的に言うと、街を歩く人々の表情は暗く。


 市場には腐りかけの……品質の悪い野菜や肉が並んでいて。


 やせ細って骨と皮のようになった人が道端に座り込んでいた。


 その時、街の通りを馬車が三台走ってくる。


 馬車は街の中にある大きな屋敷……ウィンズ子爵家が以前管理していた屋敷に入ってくる。


 馬車からは荷台が傾くほどに太った男性が降りてきた。


「ほう。ようやく……奴隷の買い付けも大変なのだ」


 馬車の前には踊り子のようなきわどい服装を着込んだ女性達が集まっていた。


 そんな装いとは違和感のある首輪をつけている。


 彼女達は通路までの間に二列に分けて並んで太った男性を出迎えた。揃って頭を下げる。


「「「「お帰りなさいませ。ご主人様」」」」


 太った男性は嫌らしい笑みを浮かべた。


「ほほほ。帰ったのだ」


 女性の腰に回して抱き寄せた。手をお尻に伸ばして揉みしだいていく。


 女性達は一瞬嫌そうな表情を浮かべるも、愛想笑いを浮かべていた。


 執事服を着た初老の男性が近づいてきた。


「お館様、お帰りなさいませ」


「おぉ。セックトン、帰ったぞ」


「二つの馬車に乗った奴隷はいつも通りに?」


「若くて可愛い女の子は綺麗にして、僕の部屋に連れてきてほしいのだ」


「はぁ。またですか」


「いやぁ、可愛いのが何人かいたのだ」


「お館様……。持ち出した資金はとっくに尽きているのです。もちろん、奴隷を働かせて利益は得ていますが……。このままだと心もとないかと」


「ほほほ。そんなもの。クリムゾン王国の連中の資産を奪ってしまえばいいのだ」


「それもなかなか……拙いかと思いますが」


「そんなことないぞ? クリムゾン王国の連中は我ら栄光あるトーザラニア帝国に恐れをなしているのだ。なんでも許されるのだ」


「……そうならないよう。私の方でも善処します」


 初老の男性……セックトンがぺこりと頭を下げて辞した。


 太った男性は訳が分からないと言った様子だったが、ウンウンと頷いた。


「じゃあ。任せたのだ」


 抱き寄せ……女性達に囲まれながら歩き出した。


「ほら、ベッドにいくぞー」


 太った男性が女性達を連れて、屋敷の中に入っていったのだった。


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