第340話 遠い先の未来。


 四時間後。


 リリアとエマは通路を走り、行き止まりへと飛び込んだ。


 エマは拳銃で、魔物の右目を撃ち抜き。


「はぁ……はぁ……リリア」


 リリアはコクンと頷いて、両手を突き出す。


「うん。寒くなっちゃうけど……【氷壁(アイスウォール)】」


 両手から、白い冷気が打ち出された。後ろからきていた魔物を巻き込みつつ、氷の壁を形成させて……リリアとエマの安全を確保する。


 エマはバタンと座り込む。


「あぁ。ちかれたぁー」


 リリアもエマの隣に座る。


「本当に……」


「結局、合流は叶わずだったなぁ。まぁ、トラップありの遺跡だからねぇ。あっちも進むの慎重かぁ」


「ん?」


 リリアが手に当たる違和感に地面を見た。


 地面には何やら文字が書かれている。


 使い切っていた拳銃を取り出していたエマの服を引っ張る。


「ねぇねぇ。エマ、これなんだろう?」


「ん? どうしたの?」


 エマも地面の文字へと視線を向けた。


 目の色を変えて、地面の文字の溝に溜まった砂を掃う。


 地面の文字が露わになったところで、目を細めて口元に手を当てる。


「……」


「ねぇ? この文字なんなの? 古代語……じゃないよね?」


 リリアは見覚えのない文字に首を傾げた。


 エマはリリアの疑問に答えることなく口を開く。


「これ、英雄ユーリィ・ガートリンの書記だわ。さっきの遺跡の扉は罠だったみたい。ここに鍵の一つが封印されているよう。はぁ、ようやく見つけた」


「エマが探しているヤツ?」


「ようやく二つ目だよ……けど」


 エマはユーリィ・ガートリンの書記を避けて、目の前の壁に近付いた。


 壁に触れると、円形の魔法陣のような陣が浮き出して……近づけた手がパチンッと弾き飛ばされる。


 ため息を溢して、呟く。


「けど、この封印解除がめちゃくちゃ大変なんだよ。リリア、ちょっと手伝ってくれる?」


「仕方ないないなぁ。エマの恋人のためなんでしょう? 少しだけだよ?」


「ありがとう。けど、リリアの恋人に悪いなぁ」


「こ、恋人じゃないよ。まだ……」


「けど、リリアに思われているなんて幸せ者だね。リリアはいいお嫁さんになるだろうし」


「もうその話は良いから、早くしよう?」


 エマとリリアは小さく笑った。


 二人、目の前の壁へと手を伸ばすのだった。



 四日後。


 ロージアン王国の辺境にある峡谷に作られた遺跡からリリアとエマ、シャロン、ロザリー、フィロッタの五人が顔を出す。


 エマは安堵したように息を吐く。


「ようやく外だね」


「エマ、もう少し警戒心を持ってください。また落とし穴に落ちますよ」


 エマの後ろに続くフィロッタが声を掛けた。


「もうここは外だから、落とし穴はないって」


「分かりませんよ。ここもまだ魔物の領域なのは変わりませんから」


「はいはい。じゃあ、早く街に戻ろう。体を拭きたい。あと眠い」


 リリア達は足早に遺跡近くの街へと戻っていった。


 街に戻ると、その日は皆蓄積していた疲労から食事をとると宿で眠ってしまった。


 翌朝、リリア達は揃って食事をとっていると。


 いち早く食事を終えたフィロッタがテーブルに茶色い地図を広げる。


「旅費は一旦溜まりました。予定では大国ロージアン共和国に入って抜けるよう話していました。ただ、先ほど知らせがきてロージアン共和国では軍部に動きがあるとか」


「軍部に動き? 戦争?」


「それ以外ないでしょうね」


「それは外したいね。けど遠回りになるな。ここまで来て、予知から外れる者が余計なことを……」


 エマが難しい表情を浮かべて頭を押さえた。口元を布で拭いていたリリアが口を開く。


「え、エマの予知って外れるの?」


「あれ? 言ってなかったかな? 外れるよ」


 エマが言葉を切って視線をフィロッタへと向けた。フィロッタは「聞き耳を立てている者はいませんよ」と頷く。


「外れることはあるよ。これはあくまで仮説なんだけどね。オラクルにもクラスがあるようなの。【フィジャの時計】は上位に近い位置にあるオラクルではあるみたいなんだけど……。残念ながら、同じか、それ以上のオラクルを所有している者もしくはそれに等しい何かを持って居る者の【遠い先の未来】は見えないの。まぁ【少し先の未来】は一応見えるから完全に使えない訳でもないんだけど」


「へぇー。その【遠い先の未来】は見えない人って、結構居るの?」


「いるよ。私の知る限りだと……まずナンバーズクラスの魔物でしょう。龍の都で暮らす上位種。エルフの大賢者。セックリー魔導国の筆頭魔導士。私の師匠とアリス、シャーリー。勇者とか……そして、貴女だよ。リリア」


 エマがリリアをまっすぐに見据えた。


 リリアは目を見開く。少しの間の後で首を傾げる。


「私? 私はオラクル使えないよ?」


「さぁ。まだ目覚めていないのか? 知らずに使っているか? それとも……他に何かあるのかな?」


 エマが椅子から立ち上がった。視線を外へと向けて、笑う。


「私にも分からないねぇ。ハハ」



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