第339話 話が変わって。

 話が変わって……ニールがジェミニの地下大迷宮へと飛ばされ、一年と九カ月。ここはロージアン王国の辺境にある峡谷に作られた遺跡。


 カランカラン。


 遺跡の中で鐘の音が響いた。


「あちゃーしまったな。やっぱりリリアの言った通り、皆と合流した後に入ればよかったなぁ」


 遺跡の中ではリリアと出会い旅をしている少女……エマが走っていた。


 後ろ、エマの後を追うように走るリリアが顔を出す。


「しまった……ってどういうこと?」


 ちなみにエマとリリアが出会って二カ月。


 いくつかの国通って、路銀を稼ぐために遺跡などに入っての冒険を経て、互いに冗談を言うくらいには打ち解けていた。


 エマは難しい表情になって。


「おかしい。どうやら遺跡の扉の開錠方法を間違えたみたい。あ、ちなみにこの鐘の音は魔物を引き寄せる」


「魔物を引き寄せるって……危ないんじゃ。シャロン達ともはぐれちゃったし」


「生命の危機だね。ただ……」


 エマが頷き答えた。


 ダーリラムの鞄となっていた服のポケットに手を突っ込むと、回転式拳銃(リボルバー)のような魔導具を取り出す。


「大丈夫。【遠い先の未来】は朝まで見えていたから」


 走りつつ、目を瞑って拳銃を顔の前に。


 少しの間の後で、カッと目を開ける。


「オラクル発動【フィジャの時計】、【少し先の未来】」


 エマの胸の辺りに古ぼけた懐中時計が現れた。懐中時計の蓋がパカッと開いて、輝きだすと……針が動き出す。


 エマは何もない進行方向へと、拳銃を向けて引き金を引く。


 タンッと何かが破裂するような音とも、銃身から……銃弾が飛び出した。


 その銃弾は丁度前方に姿を表した魔物の右目を撃ち抜く。


 リリアはエマが倒した魔物を飛び越えて、苦笑する。


「相変わらず。すごいよね。けど、あまり無理しないでよ?」


「うん。リリアは五数えた後に魔法を前方へ大きめの【ファイアーボール】二」


 エマがリリアに指示を出しつつ、拳銃を後方へと向けて、引き金を引いた。


 銃弾が打ち出されて、今度は後方に現れた魔物の右目を撃ち抜く。


 リリアは右手を前に向ける。


「……その魔導具すごいよね。魔法よりも早いし、マナも消費しない……私も作りたい」


「いや、事前準備が面倒だし。一発撃つのにお金がかかる……費用対効果があまりよくないんだ。特にフィロッタが渋い顔をしている。リリアなら護身用に一丁くらいならって感じ?」


 エマが拳銃を魔物へ、魔物の右目を撃ち抜いていった。


 拳銃の弾数が無くなったところで、ポケットにしまって、新しい銃弾の入った拳銃を取り出す。


 リリアは渋い表情のフィロッタが思い浮かべて苦笑する。


 エマとリリアは通路を抜けて、広い場所に出ると、背中合わせで集まってきた魔物へと向く。


 エマは周りを見回す。


「これは多いね」


 リリアは若干疲れた様子で。


「ほんとうに」


「銃弾足りなさそう。またフィロッタが渋い顔するなぁ」


「ふふ。シャロン達がこちらに気付いて、助けに来てくれるまで踏ん張らないとだ」


「んーん。戦いつつ隠れる場所も探しておいた方がいいかも」


「なんか嫌な未来でも見えたの?」


「いや。未来予知とかではなく。少なくとも明日まで来ないんじゃないかなぁ。フィロッタ、方向音痴だし」


「シャロンやロザリーが居るから大丈夫だと思うけど……」


「とりあえず、数をある程度減らせるまで頑張ろう」


 エマが拳銃を連射していった。雑に撃っているように見えるが全弾、魔物の右目を貫いていく。


 リリアは手を前に突き出す。


「それしかないけど……ちょっと寒くなるよ。【氷兎(アイスラビット)】」


 周囲に白い冷気がバッと広がった。


 リリアの手の前には氷が集まっていき、三体の氷と雪で構成された、まん丸兎(うさぎ)を成していく。


 パンと手を叩くと、三体の氷の兎はまん丸の体型に似合わず、素早くぴょんぴょんと魔物達へと向かっていく。


 エマはリリアをフォローするように、リリアへと向かってくる魔物の右目を撃ち抜く。


「ずいぶん、魔法発動が早くなったよね?」


 リリアは苦笑して。


「アレだけ使っていたらねぇ」


 この魔法、【氷兎】は魔物と継続的に戦うにはどうしたらいいか、リリアが考えた末に編み出した自己流の魔法であった。


 ちなみにイメージは前に屋敷近くで、雪の中を飛び跳ねていた兎である。


 白い兎は素早く動き、向かってくる魔物の顔面に張り付く。


 張り付かれた場所は凍っていく。


 魔物の顔の形にもよるが、顔面に張り付かれた魔物は眼球が凍って視界を失い、次いで息を吸い込もうとすると肺まで凍らせ……魔物達を倒していった。


「私の銃より使い勝手が良さそうに思えるけど……。あと、大量にマナがあるのはやっぱり羨ましい」


「そうかなぁ。私には未来が見れる方が」


「ハハ、そうかな?」


 エマが苦笑を溢した。


 引き金を引き、火薬が弾ける音に合わせ……ボソッと呟く。


「未来がいいモノとは限らないんだけどね」


そうそう。近況ノートで少し話していた官能小説……書籍化することになりました。

ペンネームを変えていますし、この小説には関係ないところで報告するか迷いましたが。

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