第307話 燎火。



「ギャアアアアアアアァッ!」


 トゥワイ・リヴァイア・サンは水面を蹴って、飛び上がるとボルトへ。


 ボルトは木を蹴って、近くまで来ていた枝に飛び乗る。


「こっちに乗れということか……ほいとっ」


 枝の移動速度では逃れきれないと、枝の上を走りだした。


 トゥワイ・リヴァイア・サンの落下点から逃れたものの、次いで激しい水しぶきが津波となって襲い来る。


 天高く伸びていた枝に、捕まることでボルトは難を逃れる。


 息を切らして。


「はぁ……はぁ……存在が天災だな」


 ボルトから海を見下ろすと、海面にニョロニョロと八の字を描くように動く魚影。


 海面からヒョコっとトゥワイ・リヴァイア・サンの頭二つを出して、上……ボルトへと視線を向ける。


 トゥワイ・リヴァイア・サンの頭二つが同時に咆哮する。


「「ギャアアアアアアアァッ!」」


「そろそろ、二百経つがまだかねって……俺も一矢報いなければ」


 ボルトが捕まっていた枝を離して、枝を蹴った。


 トゥワイ・リヴァイア・サンへ。


 大剣を天へ向けて構える。


「【渾身】……」


 ボルトは筋肉が服を破るほどに膨張。


 全身に痛みが走って、奥歯をギリギリと噛みしめる。


 トゥワイ・リヴァイア・サンの間合いに入ったところで……。


「【山割り】」


 構えていた剣が消えた……いや一般人には視認することもできないほどに早い剣速で振り下ろした。


 トゥワイ・リヴァイア・サンの二つに分かれた頭の継ぎ目辺りが深く切り裂く。


「「キィイイイイイイイイイイ!!」」


 トゥワイ・リヴァイア・サンからは鼓膜が破れそうなほどの叫び声が聞こえてきた。


 深い傷であったが、それでも傷口はシュウウッと再生していく。


 ボルトは片耳を押さえつつ、トゥワイ・リヴァイア・サンの体を蹴って離れる。


「ちっ再生能力持ちか」


 海面から生えていた木に飛び乗った。


 ここで枝が素早く動きだした。


 トゥワイ・リヴァイア・サンの体に巻き付き、再生途中であった傷口に突き刺さる。




 視点が変わって、トゥワイ・リヴァイア・サンから離れた位置にある船にて。


「【緑龍制止】……準備が整った。中規模魔法二回分マナ消費したが」


 ニールが小さく笑った。パンと手を叩く。


 ちなみにニールは周りでは草木、花が生い茂って、船の上ながらちょっとした森が出来上がっている。


 ニールは草木が邪魔だなと思いつつ。


「この力は本当に足元に草木が生えるのが残念だな。まぁ、焼けばいいんだが」


 銀のブレスレットが輝いて、青い炎が発生した。


 周りの草木、花に燃え移っていく。


『お前の前世界にいた偽善者が環境破壊とか騒がれそうな発想だな』


 ニールの頭の中にはカルディアの声が聞こえてきた。


「確かに」


『それで……木の枝を伸ばしてあの蛇を拘束したが、すぐに解かれるだろう。これからどうするんだ? 焼き払うのも……今のお前のマナ量では足りないぞ』


 カルディアの問いに、ニールは笑みを深める。


「火力が足りないなら、足せばいいだろう。【高……いや、【燎火(ウォームフォイヤ)】としようか」


 手を前に突き出すと、青い炎の塊が打ち出された。


 その青い炎はトゥワイ・リヴァイア・サンではなく、手前の木の枝に着弾する。


『何を……』


「カイカイブキの木。植物辞典では油の木と言われるほどに、可燃性の高い木。度々、自然発火して山火事の原因とも言われる。管理している森や林では見つけた際に根まで抜き取ることが言われるほどだとか……その木に対して、青い炎を放つとどうなるか」


 カイカイブキの木は凄まじい速度で青い炎を燃え広げていく。


 ちなみにボルトは枝がトゥワイ・リヴァイア・サンを捕らえた時点で海の飛び込み、全力で逃げることが約束事だった。


 トゥワイ・リヴァイア・サンの周りを囲み、海中に仕込まれていたカイカイブキの木々まで青い炎が燃え広がる。


 青い炎は海にあっても衰えはなく、大炎と成って海中から燃え上がる異様な光景となっていた。


 もちろん、トゥワイ・リヴァイア・サンを飲み込んだ。


 炎の向こうでトゥワイ・リヴァイア・サンがどうなっているのか、視認は難しいものの、のたうつように動き……気配が弱くなるのを感じた。


 カルディアは小さく笑う。


『燎火(りょうか)なんて、生易しい技じゃないな』


 ニールにはマナの枯渇状態に鋭い頭痛が襲う。額に手を当てて口を開く。


「あいたた……あぁこれは想像以上だった。【爆炎】に比べて火力と貫通力は低いものの。得られる火力に対してのマナの使用効率は満足だな。ただ、使う場所に困る技だ。何より、魔物に使ったら、素材が激しく焼けて売れるか微妙だな」


『確かにあそこまで強い火力だとほとんど焼けてしまいそうだ。……ところ焼けるで思い出すのは、あのリーゼントは死んだんじゃないか?』


「あーえっと気配は消えてないから生きている」


『そうか。あの火炎から逃げられるとは大したモノだ』


「あの人、厄介だよね。人間との戦い……魔物とは違うな」


『アイツのと戦いはいい経験になるかもな』


「はぁ。マナもないし、大丈夫だろうか」


 ニールがため息を吐いた。


 次いで、吊るしていた鈍と血吸を引き抜く。


『あのリーゼントもマナは残ってないようだし。今回は流れるだろう……』


「それはどうだろうか」


 そこでボルトがバシャンッと水しぶきを上げて海面から飛び出した。


 大剣を上に構えて、ニールへと振り下ろす。


 対してニールは手に持っていた鈍と血吸とで、大剣を受け止める。


 ガキンッと鈍い金属音が辺りに響く。


 ボルトは眉間に皺を寄せて怒っている様子であった。


「お前、俺を殺そうとしたな」


 ニールとボルトは互いに弾き飛ぶ。


 ニールは奥歯を噛みしめる。


「いや。殺すつもりはないが」


「嘘つけ、本当に危なかったんだぞ」


「いや。想像以上に燃えただけ、本当にびっくりしたよ」


 ここからニールとボルトの二人は再び戦闘が始まる。


 互いに剣を納めるのに、時間が必要であった。


 それから、ニールは焼け残っていたトゥワイ・リヴァイア・サンの素材を回収し、船で港街ダルマークへ戻ることになった。


 これは少し先の話、多くの船を沈めて船乗り達に海の悪魔と言われていたトゥワイ・リヴァイア・サンを討伐した事は、クレティア王国内でも『白銀の英雄』の名は広まることになる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る