第306話 トゥワイ・リヴァイア・サン。
ニールは甲板に出ると……ギョッと見開く。
「っ!」
ダッと床を蹴って走りだした。遠くから飛んできたボルトの体を受け止める。
「ぐっ」
「はぎゃっ!」
ニールが壁にぶつかりながらも、受け止めた。
ボルトは眉間に皺を寄せ、膝を付く。
「悪い……」
ニールはボルトの肩に手を置いて。
「大丈夫か?」
「あぁ。化け物だ。アレ……SS級の魔物トゥワイ・リヴァイア・サンだ。この辺りの海域のヌシだ」
「化け物なのはわかる」
ニールがボルトの飛んできた方、トゥワイ・リヴァイア・サンへと視線を向けた。
二つの頭を持つ、大海蛇であった。
体長は四十メートル程。
鋭い牙、角。全身を綺麗な水色の鱗で覆われている。
二つの頭が海面から出して、ニール達を見えていた。ニール達の乗っていた船がグラッと揺れる。
トゥワイ・リヴァイア・サンを中心に渦潮が発生し……船を引き寄せる。
ニールは眉間に皺を寄せて。
「っ! あの蛇……船を海中に引きずり込もうとしている?」
ボルトは長剣を杖にして、立ち上がる。頷き答える。
「どうやら、そのようだな」
「どうする? 逃げるか? 俺とお前だけなら逃げられると思うが?」
「この船の次はもう一つの船員や海賊、奴隷を乗せた船を襲うだろう。それは避けたい」
ニールは鞄に手を入れて。
「じゃあ、倒すしかないな」
「何か手立てがあるのか?」
「普通では無理だが……お前が時間を稼いでくれるなら手がなくはない」
鞄から、一本の木の枝を取り出した。
ボルトは怪訝な表情で。
「カイカイブキの木の枝? ただ良く燃える木の枝を何に使うんだ?」
ニールはカイカイブキの木の枝をブンッと振る。
「ふふ。最近、植物にはそれぞれ個性があることが分かって。中でもカイカイブキの木は言う事をよく聞いてくれるんだよね」
「言うことを?」
「あぁ。言うことを……【緑龍解放】」
ニールの【緑龍解放】の言葉とほぼ同時に、全身が若干薄く輝き……。そして、床から草花が次々と生えていく。
「それはオラクルいや……この力は【龍化】? そんな【龍化】種類があるとは聞いたことないが……。お前、そんな力も持っているのか?」
「【龍化】? これはそういう力なのか」
「知らないで使っているとか。信じられんな」
「さて、時間稼ぎを願いたいな。とりあえず……【樹生】」
ピキピキッと音と共に、ニールの持っていたカイカイブキの木の枝がまるで生き物のように動き……太くなっていく。
ボルトは目を細めて。
「植物を操る力か……。凄いが、なんか気持ち悪いな」
「気持ち悪いって……お前にはこの枝を足場に戦ってもらいたんだが」
「え?」
そこから、ニールとボルトと少し話し……作戦会議を終えた後で。
ニールはボルトへと視線を向ける。ちなみにニールの周りは【緑龍解放】の影響で草木が生い茂っている。
「俺の作戦に乗るか?」
「……それが一番勝ち目あるか。失敗したら、ブッ飛ばすから」
「ふん。じゃあ、もっといい作戦をだせ……そろそろやらないと船が海に引きずり込まれるぞ」
ボルトはニールの伸ばした枝の上に飛び乗った。
枝が伸びて、ボルトをトゥワイ・リヴァイア・サンへと向かわせる。
ボルトは顔を綻ばせる。
「おぉ、これは便利だ」
トゥワイ・リヴァイア・サンの二つの頭内、その一つがボルトへと向いて、咆哮する。
それとチューブ状の舌から同時に高圧の水弾がボルトへと放たれる。
ボルトはチッと舌打ちをして、枝から飛び上がった。
ボルトの乗っていた枝が水弾によって砕け散る。
外れた水弾は海面へ水柱が上がって、雨のように辺りに降った。
枝は折れたところから、別の枝が生えて伸びる。枝先がいくつも分かれて、海に入っていく枝、ボルトを追う枝が。
ボルトは枝に着地……枝が再び伸びてトゥワイ・リヴァイア・サンへ向かう。
小さく笑い……トゥワイ・リヴァイア・サンの攻撃を躱しつつ思考をする。
俺の勘は正しい。
初見……気配読みでは一般人と変わらなかった。
腕を鱗で硬化、巨大化させていたものの、それだけで警戒に値しなかった。
この時点では黒ひげの部下かと思っていたが。
今では、どういう人間が測りかねている。
あぁーわからねぇー。
実力がアレだから……普通はいろいろ考えて警戒すんだろうが。
俺は考えるあんまり得意じゃねぇんだが。
面倒だ。
未確認の【龍化】の事を含めて……化け物婆に丸投げすっか?
と言っても、どこにいるか分からんが。
まぁ、何にしても目の前の化け物に勝たんと先がないんだが。
ボルトはペロリと唇を舐めて……巨大魔物用として使っている大剣を構える。
「ただ、相手には悪いが負ける気がしないなぁ。【渾身】」
筋肉がモコモコっと盛り上がって……筋力量が一気に上昇させた。大剣を右手で軽々と構える。
枝をダンと蹴って飛び上がると。
トゥワイ・リヴァイア・サンはチューブ状の舌から水弾が乱発される。
水弾のいくつかがボルトを捕らえる。
「くらっ!」
ボルトが大剣を振るって水弾を弾き飛ばして、トゥワイ・リヴァイア・サンの間合いへと入っていく。
ただ、ここで海中が盛り上がった。
「ギャアアアッ」
トゥワイ・リヴァイア・サンの尻尾がボルトへと振るわれた。
大剣で辛うじて鞭のような尻尾の攻撃を受けるも……弾き飛ばされる。
「ぐうっ」
ボルトが海面に叩きつけられ……そうになった時だった。
海面からニョキっと木が生える。
青々と茂った木はボルトの体を受け止める。
ボルトはニールの得意げに笑う姿を想像して、舌打ちをする。
「ちっ。アイツはどこまでの未来が見えてやがるんだ?」
◆
ストックがなくなった……。どうしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます