第305話 虫眼鏡。


「どうする?」


 ニールの問いかけに、ボルトは眉間に皺を寄せる。


 腰に仕舞っていたナイフに手を当てて。


「……凄い速さで近づいているな」


「俺としてもこの船が壊されるのは困るんだが。海、泳ぐのはキツイ。お互いにこのまま戦うのはメリットが低いと思うけど?」


「一時休戦だ。ただ、後で必ず倒す」


「本当か。それは良かった。ただ、こんなやり込められると思わないでよ? 装備が無くて、戦い辛かったんだ」


 ニールとボルトの間で火花が散ったように見えた。




「えっと、鈍と血吸……それから荷物はどこかなぁ」


 ニールが船内を探索していた。


 大きな扉の前にまでたどり着く。


「ん? なんか偉い人の部屋っぽいな」


 ニールが何の躊躇もなく扉を開けようとしたが、鍵がかかっていた。


「ジン達が居てくれたら、こんな扉簡単に開けてくれるのになぁ」と呟きつつ青い炎で扉に穴を空けて入っていく。


 ニールは室内入ると、キョロキョロと視線を向ける。


 室内にはデスク、ソファ、大量の剣や槍などの武器、手錠、足枷などが置かれている棚が置かれ……壁には髑髏(どくろ)の絵が描かれた趣味の悪い旗が貼り付けられていた。


「なんだか、物騒な部屋だな……。床の黒い染みは血の跡とかじゃないよな?」


 スタスタと武器が並ぶ棚に近付く、武器の中から鈍、血吸……そして、荷物の入っていたダーリラムの鞄を見つけて、安堵の表情を浮かべる。


「おーあった。あった」


 鈍、血吸を手に取り腰に吊るした。ダーリラムの鞄を覗き込んで、ついで鞄の中に手を入れる。


 鞄の中からはいくつもの財宝……金、宝石、剣、その他いろいろが出てくる。


「これは……これはわざわざ財宝までパンパンに詰めてくれて。感謝感激雨あられだな」


『ん? その古い虫眼鏡……』


 カルディアの声が頭の中に響いてきた。


 ニールは頷き、虫眼鏡を持ち上げて、覗き見る。


「カルディアも気付いたか。気配がある。何かの魔導具だろうか?」


『なんか怪しいな。なんか怪しいな。あんまり触らない方がいいぞ? お前、呪われやすい体質なんだから』


「呪われやすい体質ってどういうこと?」


『そのままの意味だが。今はないが奴隷の首輪、死の呪い、シルビア』


「シルビアを呪い枠に入れるのはどうかと思うけど……まぁ……おっとと」


 船が大きく傾いて、ニールがこけそうに。


 後ろ……固定されていたデスクに手をつく。


『さっきのリーゼントが戦っているんじゃないか?』


「あぁ。頑張っているな」


『アイツ、強いとは言え。今近付いてきているのは、戦いに集中していても気付く……化け物だろう?』


「んーヤバいね。白いドラゴンほどじゃないにしても……この辺りの海のヌシかな? 俺を補助してくれるジン達が居ないのが痛い」


『それに……あのリーゼントどうするんだ?』


「どうしようか? 何かいい手段ないかな? カルディア、何か思い付かない?」


『んーん。船を壊していいなら』


「陸まで泳げと?」


『植物を生やすヤツで……イカダとか作れないのか? 最近、ちょっとコツを掴んできたとか言っていただろ?』


「できなくもないが……イカダで海出るとか、いかれたバカのすることだろう」


『そんな漫画があった気がするけど。手が伸びるヤツが主人公の』


「アレは何の参考にもならんでしょう。巨大な渦潮に巻き込まれたら、普通死ぬし」


『あぁ最新刊が読みたい』


「あのーもっとまじめに考えてくれると嬉しいんだけど。ちなみに俺も最新刊は読みたいが」


 ニールは船の揺れが一旦収まったところで、ため息を溢した。


「はぁ。さて、そろそろいきますか」


 部屋の外へと歩きだした。


 カルディアが小さく笑いつつ。


『何かいい考えが?』


「……特にないなぁ。ちなみに俺のマナはどのくらい残っている?」


『中規模くらいのだったら、あと三回分くらいかな?』


「三回かぁ。ボルトと戦いは荷物が戻ってきたから引き分けに持ち込めるだろうけど……今、外に居るのは化け物なんだよなぁ」


『小人達なら連携が組めるだろうが、即席ではやれることは限られる事前に攻めとサポートを分けておいた方がいい』


「あっ……じゃあ、ボルトに攻めを任せよ」


『お前、サポートとかできたか?』


「ちょっと面白そうなことが思い浮かんだ」


 カルディアの問いに……ニールは笑みを深めたのだった。



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