第289話 昨日の出来事。



 昼前。


 ここは宿屋でニールが借りている部屋。


 部屋の中では小人達がそれぞれ仕事をする中で、ニールはベッドの上で胡坐をかいて座っていた。


 ちなみに、シルビアは人に囲まれてしまうニールに代わって買い出しに出ている。


 ニールは視線を上げて、一人呟く。


「おい。カルディア君。カルディア君」


 ニールの呟きに答えるようにカルディアの声がニールの頭の中に聞こえてくる。


『? 呼んだか?』


「呼んだかじゃないんだけど。昨日、何をしたの? 街に出たら、人がめっちゃ集まって来たんだけど」


『そうか? 特に何をしたと言うことはない。言われていた悪い事もしていない。もちろん、人を殺したりしてない』


「とりあえず、昨日何があったか話してくれよ」


『昨日か? 昨日は……朝、街に出て、屋台を回って食い物を食べ歩いた。そうそう、美味い豚の屋台があったから後で行ってみろよ。豚の丸焼きが絶品だった』


「豚の丸焼き……美味そう。しかし、今のところ何も問題はなさそうだが」


『食べ歩いて、腹がパンパンになったから。街を見て回って、そして小高い丘に登って、原っぱで横になった』


「んー全然問題ない。今のところ、盗賊やら人さらいは一切登場しないな」


『強いて言うなら。この後か? その原っぱで昼寝……次に起きた時は手と足をロープで縛られて、馬車に乗せられていた』


 ニールは顎に手を当てて。


「なるほど……人さらいにあったのか?」


『そのようだな。俺にロープ程度の拘束が効く訳ないだろ? ロープを解いて、ついでに周りにいた奴らの縄も解いてやった……。そこで腰に下げていた鈍がどこかに行ってしまったのに気付いた。鈍を探していたら、偉そうな男が現れて切り掛かって。その男に剣を止めて、拳で腹を軽く当てて倒した』


「んーん。仕方なく巻き込まれた感じか。盗賊は?」


『鈍を探していると……粗暴な男達が現れた。そいつ等は奴隷を逃がしたとか言って、襲ってきた。その粗暴な男達の中で長髪の男が鈍を持っていたので、ブッ飛ばして鈍を返してもらった』


 ニールは頭を抱える。


「それかー。盗賊。しかし、それはどうしようもないか」


『だろう? 俺は悪くない』


「ただ、強いていうなら。人さらいにあったことにも気付かないほどに、外でぐっすりと昼寝していたのには驚きだが」


『それは、今後気を付けようと思うが。俺はお前ほど、バカ器用に気配を察知することはできないからな』


「そっか……まぁ分かった。仕方ないな。仕方ない。別にカルディアは悪いことしてないしな。むしろ、人助けをしている。全然、攻められない。……しかし、街では凄い騒ぎになっていて、どうしたものか。人混みの中では気持ち悪くなっちゃうんだけど……これはやはりさっさと街を出るしかないかな」


 ニールの言葉通り。


 翌日の早朝には冒険者ギルドにてギルドカードを受け取ると……冒険者ギルドからの引き留めを受けるものの拒否して、ティスダンの街を足早に出て行ったのだった。


 これはニールがまだ知らぬことだが。


 今回の人さらい、盗賊を倒した一連の出来事は……。


 後に吟遊詩人の歌い手によって世界に広まることになる英雄譚『白金の英雄(しろがねのえいゆう)』の始まりの物語となるのであった。


短いから投稿した。


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