第287話 もしかして……。
夜。
正確にはニールの夢の中。
白い空間で、ニールとカルディアが互いに武器を持って戦っている。
「はっ!」
カルディアが大剣を斜め上に振り抜いた。それは強烈で、ニールを……持っていた鈍ごと後方へ弾き飛ばす。
「ぐあっ!」
カルディアは大剣の切っ先をニールの喉元に突き立てる。
「気配操作術に頼らなくても、接近戦がだいぶ良くなってきたな」
「っ! はぁーまた負けた……まだまだカルディアには敵わないがな」
「ふん。俺がどれだけ戦っていると思っているんだ? 付け焼刃に近いお前に負ける訳がない」
「そうかい」
カルディアは大剣を引くと、大剣を消し……。少し離れて、胡坐をかいて座る。
「次は魔法を組み込んだ戦いだな」
「魔法か……。やっぱりカルディアの制御がないとなぁ。しかし、魔法制御に取り掛かるのは数年先の予定じゃなかった?」
「付け焼刃とは言え、剣術がまぁまぁになったからな」
「んーん」
「少しずつでも慣れておいた方がいい」
「ふーん」
ニールがゴロンと横になった。そこで何か思いだしたのか、すぐに上半身を起こす。
「あ……そうだ。カルディア、前に主導権がどうこうって話はどうする? 明日は暇だが」
「本当にいいのか?」
「いいよ。俺はさっき軽く見て回ったし、カルディアには世話になっているからな。ただし、犯罪はしないで。面倒だから」
「分かった。そうと分かったら、今日はここまでだな」
「……」
カルディアの高まるテンションに、ニールは若干の不安を感じつつも……意識を落とすのだった。
翌々日。つまり、カルディアに体を貸した翌日。
ジェミニの地下大迷宮から出て三日。
「んっ……んん」
宿屋のベッドで、ニールが目を覚ました。
ノソノソと体を起こす。
「おはようございます」
近くで待機していたと思われるシルビアが声を掛けた。
「んっおはよう」
「ではお湯を貰ってきますね」
シルビアが部屋から出て行こうとした。
ニールは外からの光に顔を顰めて。
「昨日はどうだった? 何かあった?」
シルビアは一度立ち止まって、小首を傾げる。
「えっと、昨日はカルディアさんに言われてスリープモードで待機していましたので」
「そっか。まぁいいや」
ニールが眠たげな眼を擦りつつ、頷いた。お湯を取りに部屋から出て行くシルビアを見送って……ベッドから抜け出すと、隣のベッドに近付く。
ニールは声を狭めて。
「ジン起きているか?」
隣のベッドの毛布がモゾモゾと動き、ジンが少し顔を出す。
「うーん」
「大丈夫か?」
「このベッド最高過ぎるな」
「それは良かった。今日は必要なモノを買いに行こうと思うが、リストはできたか?」
「あー何とか。できた。できた」
「あとで聞かせてもらおうかな。そうそう……チューズからの報告はあった?」
「あぁ。どうやら尾行者は……二人のチームが三組ある」
「つまり、六人いるのか。予想よりも多いな。ちなみにそいつ等は宿内での様子もうかがっているか?」
「どうやら、少し離れたところからこちらを窺っているようだ。ちなみに昨日、ニール……カルディアが出掛けた時、三組はそれぞれ連携をとって離れたところから尾行していたそうだ。チューズは、嫌な予感がしたとかであまり深追いしなかったと。そして……俺達の知らない魔法、もしくはオラクルを使用してカルディアの位置を捕捉しているのではと言っていた」
「厄介な。しかし距離を取って、監視していると感じか」
「一定の距離を取って……。これはニールの言っていた通り、ニールが気配操作術に適性が高いことを事前に知っている者から放たれたとみていいかも知れないな」
「そうか。チューズが警戒するほどの凄腕か。これは国家クラスが後ろに居る可能性がかなり高くなったな。しかし、警戒しているから近づいてこない。だから、この部屋……は監視下にはない。お前等のことはまだ知られていない感じか?」
「あぁ。まだ気付かれていないそうだ」
「それは良かった。部屋の中とは言え、隠れて食事する必要はないのはいいな」
ニールと小人達は、シルビアが戻ってきたところで朝食とするのだった
朝食後。
ティスダンの街をニールとシルビアとは並んで歩いていた。
ニールは顔を若干顰めて、視線を左右に振る。
「んーん。こっちに視線が向いている気がするんだが」
シルビアは頬に手を当てて。
「何かあったのでしょうか?」
「まぁ悪意は感じないから、判断に困るところだ」
「……雌豚達の視線が気になりますね」
シルビアが一瞬暗い表情を浮かべて、小さく呟いていた。
ニールは首を傾げて。
「? 何か言ったか?」
「いえ。あちらに生地が売っている屋台があるようですよ」
シルビアが小さな屋台を指さした。ニールは目を細めて。
「そうか? シルビアは目がいいなぁ」
「私は高性能なメイドですので、ズームも可能です」
「へぇーいいな」
ニールとシルビアが話していると、唐突に後ろから声を掛けられる。
「あ、あの……もしかして、ニール様ですか?」
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