第285話 噂話。
ニールとシルビアはジェミニの地下大迷宮近くで、たまたま見つけた街……ティスダンを訪れていた。
ティスダンは人口三百人ほどで、かなり小規模であった。
ただ周辺のほとんどを低級から中級の魔物がいる領域に囲まれていて、狩場には困らずに中堅辺りの冒険者が比較的に多く暮らしている。
言わば冒険者の街であった。
よって、街にはあまり人が居ない印象があるものの、冒険者ギルド、そして冒険者ギルド近くに併設されている飲み屋は賑わいがあった。
ニールとシルビアはニールの苦手な人混みを避けつつ、冒険者ギルドに入っていく。
ちなみにニールは鈍と血吸を鞄の中に仕舞って、ゴブリンが持っていた寂びたナイフを腰に吊るし。シルビアはメイド服を隠すためローブを着ていた。
冒険者ギルドは木造の二階建ての建物で、二十畳ほどの広さの一階に冒険者の受付カウンターが四つ、買い取りカウンターが一つ、クエストの紙がたくさん貼られた掲示板と冒険者ギルドにあるべき機能がギュッと詰まったような作りであった。
二人がギルドの中に入ると、冒険者の一部が美人なシルビアへと視線を向ける。
シルビアに視線が集まるのを感じながら、ニールはキョロキョロと周りを見回して歩きだす。
「なんだか、全体的にワイルドな感じだね。シルビアお姉ちゃん」
シルビアは目をカッと開いて。
「ええ。私はお姉ちゃんです。うん、なんだかいい響きですね」
「控えめな感じで頼むぞ? 少なくとも駆除するとか言ってくれるなよ?」
「もちろん。私、ご主人様のお姉ちゃんを完璧にこなしてみせますよ」
「本当に分かっているのかな? 本当、マジで頼むよ?」
「はい。分かっています」
「本当に分かっているのかな……」
ニールとシルビアは冒険者ギルドに入るとすぐにある掲示板の横を通って冒険者の受付カウンターと買い取りカウンターが正面にある。
ニールは受付カウンターの前にある冒険者の行列へと視線を向ける。
四つの行列の内、一つだけ極端に短い行列があった。
首を傾げながらも、内心であまり人のいるところに居たくなかったので短い行列へと並んだ。
ニールとシルビアとが行列に並んで待っていると、周りから噂話が聞こえてくる。
「おー勇気のある新人だな。旦那の列」
「見ない顔だよな? それにしても美人だ。姉ちゃんか?」
「あとで声を掛けようぜ?」
「お前は受付のキャロットちゃん狙いじゃなかったのかよ?」
「それは……そうだがお前、挑戦できる相手は多い方が可能性高いだろう?」
「はん。お前じゃ両方とも無理だけどな」
「なんだと? こら」
こちらに視線を感じるな。シルビア、大人気だな。うん。
「聞いたか? バイロニーのヤツが笑う病気にかかったみたいだぞ?」
「マジかよ。最近、多いよな……その話」
「アレって感染するのかな? 俺、ちょっと前に酒場で飲んだんだけど」
「さぁ。俺は実際にかかったヤツを知らないから分からんよ。しかし、笑うだけならいいじゃねぇーか? 楽しそうで」
「いや、そうじゃねぇーんだ。確かに最初笑っていて楽しそうなんだが……それが数十日続くと怒り狂ったり、酩酊したりして……最後には廃人のようになって死んじまうだと」
「……マジかよ」
「? なんだよ? なんで俺から距離を取った?」
「いや、なんとなく」
「あ、まさか俺が笑う病気にかかったと勘ぐって距離を取ったんだな」
「いや、そういう訳じゃないぞ?」
「じゃあ、なんだよ? 俺に何かあったら、お前にもうつしに行くからなぁ」
「なんでだよ。近づくなよ」
笑う病気? なんだ? ちょっと怖いんだけど……前世でも、クリムゾン王国でも聞いたことのない病気だな。
この地域特有の病気か? 植物的な? 動物……魔物の線もあるか?
「おい。聞いたか? イプ村が盗賊に襲われた話」
「マジか。物騒だな……イプ村はめっちゃ近いじゃんよ」
「あぁ。その村出身の奴らが集まって盗賊を討伐しに行こうとしているそうだ。ここからが本題なんだが、更に知り合いにも声を掛けている。もちろん、冒険者ギルドは通してないが報酬も出るそうだがどうだ?」
「いくら?」
「報酬は銀貨二枚。盗賊一人を捕まえるもしくは殺すことで追加銀貨一枚。盗賊の頭を捕まえるもしくは殺すことで追加銀板三枚」
「ふーん。悪くないな。盗賊の頭をぶっ殺したら銀板三枚か。当分は遊んでいられるな」
「どうする? 俺は行くが」
「もちろん行く」
んー盗賊とは物騒だ。関りたくない。
そんなことよりも銀板って何?
クリムゾン王国で硬貨は銅貨、大銅貨、小銀貨、銀貨、大銀貨、小金貨、金貨、大金貨と呼んでいた……。単位はグルド。
ここでは、別の通貨があるのか? ちょっと後でギルド職員の人に聞いてみよう。
村から出てきたばかりの無知な少年のフリをすれば教えてくれるだろう。
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