第283話 最後の扉。

 ジェミニの地下大迷宮で探索を始めて三百十七日目。


 ちなみにニールは知る由もない事だが、ニールがジェミニの地下大迷宮に飛ばされて五百二日目。


 地下二十階のハイン・ホワイトワイバーンを討伐して以降、ハインに匹敵するほどの難敵はほとんど居なかった。


 ただ、ニール達はハイン・ホワイトワイバーンとの戦闘でカルディアの翼が傷つき飛行できなくなったため、攻略自体は時間が掛かってしまったのだが。


 それでも、たどり着いていた。


 地下一階……いや、正確に言うならば……ジェミニの地下大迷宮、その出口前。


 目の前には重厚で巨大な扉。


 小人達……普段はニールのペネムの鞄の中にいる小人も外に出てきて、感慨深い表情を浮かべて扉を見上げていた。


 シルビアを連れたニールが……小人達から少し離れたところにいたジンに声をかける。


「おーなんだ? 扉をジーっと見上げて」


 ジンはニールへと視線を向けて。


「いや、少しな。まさか、ここまでたどり着けるなんて思わなくてな」


「際どい博打に勝ち続けたおかげだな」


「クク、博打か。確かにな……さて」


 ジンは扉に視線を向けて、腰に手を当てる。


「そろそろ、ここから出て行くか」


「感慨深い感じはもういいのか?」


「俺はもういい。それよりも、外の世界を見てみたい」


「そう。ただ扉の向こうに人が居るかも知れないから、念の為に鞄の中に隠れておいた方が……」


「人間とは適度に距離を取った方がいいと思っているよ」


「そういやぁ……あの話は本気なのか?」


「あの話?」


「ほら、前に話していた。俺について来るって話だ」


「俺は……いや、皆の総意だ」


「本当に俺がお前らの崇める英雄様……プロリアの月(moon)の後継者やであると思っているのか? 俺に英雄と呼ばれるだけの器はないと思うがな」


「これは何度も言っているだろ? 俺達が勝手に思っていることだから」


「頑なだな。まぁ、俺としては……お前等は強く。役に立ってくれるからいいんだが。それに鞄があれば移動速度も合わせられるし」


 ニールは苦笑した。


 扉へと視線を向けて、続ける。


「ただ俺は結構な不幸体質で付いてきたら、いろいろ苦労するぞ?」


「クク、その辺はこれまでの付き合いで十分わかっている」


「そうかよ。さて、そろそろこんな悪臭漂う大迷宮なんて出て行くか。他に鞄の中に入るように命令してくれ」


「分かった」


 ジンの命令で、小人達はニールのペネムの鞄に入っていき。


 その場にニールとシルビアだけになったところで。


 ニールは扉へと近付いて、手を伸ばし……触れた。


 握り拳を作って。


「長かった……ようやく、出られる」




 ニールはシルビアと力を合わせて、ジェミニの地下大迷宮の出入り口である扉はさび付いていた。腕力にモノを言わせて、無理矢理にこじ開ける。


 扉の先は少しの洞窟があって……そして外の光が差し込んでいるのが見えた。


「っ!」


 ニールが歩を早めた。それに続くようにシルビアが斜め後ろに続く。


 洞窟を抜けて、外にたどり着き。


 若干外の明るさに顔を顰めながら、周りを見回す。


 ニールは呆気にとられたような表情を浮かべて。


「なんだ? これ」


 対してシルビアはいつも通り淡々と。


「壁ですね。それから、壁の覗き穴から兵士達がこちらの様子を窺っているようです」


「確かに人の気配が……ずいぶんと警戒されている」


 ニールが渋い表情を浮かべた。


 少し考える仕草をみせて。


「なんだか面倒だ」


「駆除しますか?」


「それは物騒だな」


「では、どうしますか?」


「……壁を越えよう」


「ご主人様の翼の傷は癒えたのですか?」


「いや、まだ六割らしい。カルディア曰く、翼の再生は時間が掛かるんだと」


「では私がご主人様を抱えて、壁を抜けますか?」


「それはすごく格好悪いからやめておこう。飛べない俺にも壁を登る方法ならある」


 ニールは目を細めながら、高い壁を見上げたのだった。


 軽くストレッチの後で。


「んーっと、行くか。なんかうるさいし」


 ニールの言う通り、どこからか男性の声が大音量にて『武器を捨てて投降しなさい』と繰り返し聞こえてきていた。


 ニールの横に出てきたシルビアが口を開く。


「投降はしないのですね」


「まぁ、そうだな。これはジンとも事前に相談していた。あっちに居る人間がいいヤツとは限らない。投降して希少な小人達をわざわざ危険にさらす必要はないだろう」


「では、行きますか」


「罠があるかも知れないから気を付けろよ。オラクル発動【カルディア】……【地走り】」


 ニールは足を龍化させ、壁に爪を突き立てて走る。


 対してシルビアはカッターナイフのような剣を壁に投げつけた。


 カッターナイフのような剣には柄頭からロープが伸びていて、シルビアの二の腕辺りに仕込まれた回転機で引くことで、壁を登っていく。


 ニールは笑みを深めて。


「地下大迷宮の中にあった罠にくらべたら、分かりやすいし。甘いな……こんなのすぐに逃げ出されるぞ」


 途中、壁から罠……炎の塊や槍、矢、投石を受けながらも、地下大迷宮を登ったニールとシルビアにとっては障害にもならず。


 壁の頂上付近で、鉄の網に覆われても、ニールが青い炎を鈍に纏わせて断ち切った。


 ジェミニの地下大迷宮を囲んでいた壁は魔物が外部にでないよう、ジェミニの地下大迷宮の周辺の国家が国家予算並みの大金を出し合って作ったモノ。


 だが……ニールとシルビアは一刻もかからない内に逃げ出してしまったのだった。




ちなみにここからが物語的には三章ですね。_φ(・_・

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