第282話 爆炎。



 気配を辿って、ジンのところに移動すると。


 伝令に命令を出して忙しそうに働くジンに声を掛ける。


「おー働いてるな。ジン」


 目の下に隈を作ったジンがニカッと笑って答える。


「おー元気になったか。ニール」


「体中が傷だらけで、軋んでいる感じがあるぞ」


「こっちも寝てなくて、倒れそうだぞ」


「しかし、あのドラゴンを相手に踏ん張れたもんだよ」


「ギリギリな。ただ、こちらから攻撃しているが、相手にダメージはほぼない。おそらくニールが加えたダメージも回復されている」


「だろうな」


 ニールが答えた。ジンの前で、胡坐をかいて座って続ける。


「しかし……ここまでがお前の作戦通りだろう?」


「まぁな。ただ残念なことが一つ」


「予想以上に強い……か?」


「あぁ自分で立案した作戦ながら不安しかないな」


「試行錯誤するしかないだろう。しかし、ここまでやって効かなかったら……士気が落ちるだろうな」


「籠城戦は士気が命だから、困るな」


 ジンが腕を組んで、小さくため息を吐いた。


 対してニールは笑みを深めて。


「……とりあえず、マナが溜まったから、一発やっておくか」




 ここは氷の砦の上層にて。


 距離を取って小人達が控える中で、ニールが長く息を吐いた。


「すーふーさて、行くか」


 銀のブレスレットを嵌めた右の手首を握る。


 脅威……青い炎の存在を感じ取ったのか、ハイン・ホワイトワイバーンがニールの方へと向かってくる。


 銀のブレスレットが輝いて……。


 ニールの周囲から青い炎が噴き出した。


 氷の砦は寒い。


 氷の中なので当たり前ではあるのだが、徐々に……一℃、二℃、四℃、八℃、十六℃と気温が上がっていった。


 砦の氷が溶けて、雨が降るように雫が落ち始めて。


 周りにいる小人達にも、若干汗が流れる。


 青い炎が大きくなっていき……集まって青い炎の塊となっていった。


 青い炎の塊が大きく直径二十メートルほどに大きくなったところで、逆に小さく青が色濃くなっていく。


 青い炎の塊が、色濃く群青色、直径一メートルほどになったところで。


「できた」


 ニールの短い言葉を受けて。ジンが命令する。


「今だ。破壊しろ」


 ジンの命令を受けた小人達が天井……氷の壁から出ていたピンを引っこ抜く。すると小さな爆発と共に氷の砦の上部が、ニール達に被害がないように壊れる。


 ニールは目をカッと見開き。


「いく……エクス……【爆炎(エクスプロージョン)】」


 ニールの頭上にあった青い炎の塊が動きだし、割れた部分から氷の砦から飛び出していく。


 ハインはニールの居る氷の砦から距離を取った。


 それは脅威性を感じ取ったのか?


 それとも本能か?


 なんなのか、分からない。


 ニールは笑みを深める。


「魔物なら突っ込んでくるとも思ったが……やはり知能指数が高いかた警戒してくれたのか? 分からんがラッキーだ」


 青い炎の塊は……ハインへと、向かうことはなかった。


 地下二十階の真ん中あたりに……。


 氷の地面にぶつかって、さく裂するように大爆発する。


 大爆発の衝撃で、青い炎が全方向に……氷の砦に届くほどに飛び散った。


 青い炎は氷の上でも燃え続けて、地下二十階内のマナを帯びた溶けにくい氷も溶ける。


 それはすごい勢いで、氷が水へと変わっていく。


 それこそ、ハインが乗る氷塊と耐火性のある魔物の体液を塗布された氷の砦以外ほとんど残らないほどに。


「ニールを奥に連れて行け」


 ジンが伝令に命令を出して、倒れそうになったところで、小人達に引っ張られて氷の砦に連れ込まれた。


 周りの状況を探り『予想以上だ。これは作戦をやや変更してもいいかも知れない。いや、それより今は……』と思考して。


 近くに居たチューズに声を掛ける。


「準備はできたか?」


「もちろんでやんす」


「やれ。ニールの頑張りを無駄にはできない……まずは相手の地の利を奪う」


 ジンの命令が下されて、次の作戦が……。


 それと同時にロープ……命綱をした五十もの小人達が氷の砦から水の中に飛び込んでいく。


 水に飛び込んだ小人達は、ハインの角が輝いたところで氷の砦の中に慌てて戻る。


 端的を言うなら、ニールが【爆炎】で氷を解かす、溶かした水の中に小人達が飛び込む。


 それを繰り返した。


 ちなみに……溶かした水の中に飛び込んでいた小人達が何をしていたのか、それはダーリラムの鞄に水を仕舞っていた。


 最初はなんの変化もないように見えた。


 しかし、四日繰り返したところで地下二十階の氷はほとんど消えてなくなっていた。


 更に四日、ニールが青い炎を打ち込み続けたところで……。


 地下二十階内は青い炎に埋め尽くされ、その中で倒れるハイン・ホワイトワイバーンの姿があった。




 ジェミニの地下大迷宮で探索を始めて百八十三日目。


 昼過ぎ。


 ハイン・ホワイトワイバーンが倒れて二日……地下二十階のほぼ溶けてしまった氷の砦に護衛を連れたニールとジンが並んで立っていた。


 ニールは遠くで倒れているハイン・ホワイトワイバーンを見据えて。


「まさか、本当に勝てるとは思わなかったな」


 ジンは腕を組んで頷き、考察を話し始める。


「予想以上に青い炎が有効的だった。そうでなくては……無理だった。ちまちまダメージを負わせることはできても、ドラゴンの自己修復力の方が上回っていた」


「だな。青い炎が無かったら……おそらく俺が命を賭ける必要があったし。お前等も死亡五では済まなかっただろう?」


「俺は切り札で、一番の戦力であるニールを危ない賭けに出す選択はしないよ」


「ふーん。では、上手くいかなかったらどうしていた?」


「逃げの計。撤退して、勝てるようになるまで準備する。


「ハハ、逃げも兵法の一手か」


「ただ、年単位の時間が掛かっていただろうが」


「そうだろうな。さて、あのドラゴンはもう動かないが、解体はしないの?」


「迷宮内の換気がまだ追い付いてない……か。まだ、地下二十階内に入ってあのドラゴンを解体するのは無理かも知れないな。お前の言うところの二酸化炭素? というヤツがまだしばらく充満しているだろう」


「そっか。しかし、このジェミニの地下大迷宮って場所は不思議だな。どうやって喚起しているのか。やはり管理者がいろいろ操作しているのか」


「おそらくな。さて、そろそろ食事の時間だろう」


 ジンに促されたニールはその場を離れるのだった。


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