第281話 軍略。
片腕を負傷しているシルバーがニールへ声を掛ける。
「ニール、準備できたようやで!」
「そうか……っ!」
ニールは安堵……それは一瞬の隙だった。
「ギャアアアァ!!」
ハインが頭部の角を輝かせて、白い冷気を纏った右手を突き上げるように振るった。
ニールは一瞬の隙……鋭利な氷の山が右足に突き刺さる。
「が! クソっ!」
右足に刺さった鋭利な氷の山を鈍で切って、ハインから離れるべく青い翼を羽ばたかせた。
残念ながら、ハインはニールを逃すつもりはないようで。
「ギャアアアアアァ!!」
ハインが左手を振り下ろした。
すると鋭い氷の刃が飛び、ニールの青い翼を切り裂く。
「痛っ!」
青い翼を切り裂かれたニールには体を切り裂かれるような激痛が走った。
その時、ニールの頭にカルディアの声が響く。
『っ! 痛いな。真面目に避けろよ。青鳥はしばらく使えないぞ』
青い翼が消えたニールは自由落下する。
「……」
『おい。意識を飛ばすなよ? 死ぬぞ』
「っ……悪い」
ニールが痛みとマナの枯渇により意識を飛びそうとなって、唇の端を噛んだ。
『大丈夫か? どうする?』
「一気に逃げる」
『どうやって』
「ちょっと命を削ることになるかも知れないが。オラクル発動【カルディア】……【龍の尻尾】」
ニールの尻の辺りに十二メートルほどの白い尻尾が生えた。
白い尻尾がとぐろを巻き、着地するタイミングで地面を叩く……弾かれるようにニールの入ってきた扉の方へ飛んでいった。
ニールはハインから逃げることが出来たものの、着地など考えていない……地面に叩きつけられるように倒れる。
「ぐっ!」
「「「ニールを運びますよ。えいしょっと!」」」
倒れ……意識を失ったニールは小人達の手によって回収されて、扉を隠すように巨大な氷の砦の中へと引き入れた。
ニールが砦の中に入ると、魔物の甲羅で砦の穴を塞ぐ。
入れ替わるようにジンが盾を持った護衛と共に砦の横にあった小さな扉から出てきた。
「ニール、よくやってくれた」
ニールを迫ってきたハインに対し、ジンは笑みを深めて。
「……築城の計」
そこにあったのは巨大な氷の砦。
扉を覆い隠す半円筒形の高さ二十メートル、幅三十メートル。
五メートルを超える分厚い氷で覆われていて、強固なモノとなっていた、
「君の攻撃パターンは氷……冷気を扱う。では、マナを含んだ強力な冷気を活用して作った強固な氷、それに加えて魔法の影響を遮断する効果のある魔法薬、衝撃を吸収する効果のあった魔物の体液、耐火性のあった魔物の体液を何層にも塗布している」
ジンは腰に吊るしていた剣を鞘から引き抜いて、剣を振るう。
「……この城を落とすことは難しいぞ? 放て!」
ジンの命令で、氷の砦の小人がギリギリ通れる無数の穴から現れた小人達が大量の白い球と火矢がハインへ放たれた。
ニールが意識を失って、眠りにつく中……ハインと小人達の戦いが始まるのであった。
ジェミニの地下大迷宮で探索を始めて百七十三日目。
昼前。
氷の砦内にて、氷で区切られているだけだが、四畳ほどのスペースがあった。
「んー」
包帯がぐるぐると巻かれたニールが目を覚ました。
「結構寝たか?」
まだ寝ぼけた様子のニールが上半身を起こそうとすると……鋭い痛みが全身から走る。
痛みに苦悶の表情を浮かべて。
「ぐぅ体が痛い」
痛みを我慢しつつ、ゆっくり上半身を起こした。
そこで上半身に何かがぶつかったような軽い衝撃がある。
「うぅお」
ぼやける視界で、一瞬状況が呑み込めなかったものの、ぶつかった……いや抱き付いてきたシルビアに声を掛ける。
「いてて……シルビアどうした?」
シルビアは謝罪を口にしつつ、ニールから離れる。
「あぁ、申し訳ありません」
「良いんだけど。どうした?」
「どうしたではございません。全身傷だらけで、両手両足の軽い凍傷、骨も肋骨を二本ほど折れ、左足にヒビが入っていました……傷だらけで運ばれてきたご主人様が運び込まれたのを目にした私は心臓が飛び出るかと思いましたよ」
「心臓飛び出るって……お前は心臓があるのか?」
「ありますよ。もちろん機械ですが」
「そっか。それはすごい……人工心臓ってヤツか?」
「そうです。私は人間の体内の構造を限りなく再現した作りですので……って今は私の話ではなくてですね。ご主人様、これだけ傷つくならば私は全力で止めましたよ」
「いや、実際に戦ってみて思ったんだが。このくらいならまだいい方だった」
「うう、やはり止めておくべきでした」
「まぁ止められても、他に方法はなかったろうな……」
ニールが天井を見上げた。渋い表情を浮かべて、ブツブツと呟く。
「何よりも面倒なのは【青鳥】の状態だと、あのドラゴンの攻撃速度が速すぎて翼の操作に意識が向いて、気配操作する余裕がないこと……。かと言って、地面でも氷で動き辛いし。そもそも冷気が襲ってくるからどうしようもない。よくよく考えると、圧倒的に強い上に俺の長所をいい感じで潰してくるとか……ハハ」
苦笑しつつ、痛み軋む体を起こした。
立ち上がろうとしたところでシルビアに手を借りて、立ち上がる。
「イタタ」
「ご主人様、無理は良くないかと」
「体が痛いだけで、マナは回復したから……そろそろ、次の作戦に入るだろう」
ニールはシルビアに肩を借りつつ、左足に力を入れないよう歩きだした。
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