第270話 話を戻して。
話を戻して。
ここは地下三十階。
地面に薄く水が張られ。その中央には一枚の巨大な鏡が置かれている。
ニールが巨大な鏡に意識を奪われて、十分が経ち。
ニールの意識を奪い、異変を感じ取って鞄から飛び出した小人達の約半数の意識を奪った鏡、その鏡面部分が白く輝き、背中に翼の生えた女性が姿を表した。
翼の生えた女性は無表情ながら、とにかく美しく……まさに絶世の美女。
どこかリリアに容姿が似ている。
ただ、白く輝いていること、翼が生えていること……そして、身長が四メートル程あって……人間でないのは、すぐに分かった。
ニール……ニールの体の主導権を持っているカルディア、小人達は、気を失った小人を抱えて、翼の生えた女性から離れる。
ジンは戸惑いつつ、意識を失った仲間の小人を背負って。
「何がどうなって……仲間が」
カルディアは翼の生えた女性へ視線を向け。
「そのことを議論している暇はない。小人共、俺に体に掴まりやがれ」
小人達はニールの言葉遣いの変化に、若干の動揺があったものの、ジン達はカルディアの体にしがみ付く。
「……」
翼の生えた女性が手に持った、大鎌を振り上げ……カルディア達へと掬うように振るった。
カルディアはギリギリのところで、背中に翼を生やして飛び上がり逃れる。
ただ、眉間に皺を寄せて苦悶の表情を浮かべ……。少しの間の後、背中に生えていた翼が消えてしまった。
「っ……ニールの意識が完全にないからか? いや、魂が抜けていると言った方がいいのか? だから、ニールの力が使えなくなっている?」
ジンはカルディアの肩に捕まって。
「まさか、あの鏡の影響か? 仲間が意識を失ったのは」
「おそらく、そうだ」
カルディアが眉間に皺を寄せた。
翼の生えた女性から距離を取るべく走りだす。
「しかし、意識を失った者と、失ってない者がいるがどういう……?」
「俺にも分からん。ただ丁度、半数だな……もしかしたら、無作為の可能性もあるか?」
「……ニールは大丈夫なのか? さっきから、様子がおかしいが?」
「あー……なんて言ったらいいかな? 今の俺はニールの別人格? 漫画で言うなら、剣に封印された闇ニール? 二重人格という訳ではないが……アレだ。詳しくは後。今はこの危機を乗り切る。とりあえず、気を失った奴らを鞄の中に放り込め」
ジンが起きている他の小人達に指示を出して、意識のなくなった小人達をペネムの鞄の中に放り込んでいく。
カルディアは鈍を鞘から抜いて、構える。
「おい。どうする。軍師。悪いが……俺の力はずいぶんと落ちている」
ジンは渋い表情を浮かべ。
「作戦を練るための一で撤退はアリだと思うか?」
「どうだろうな。もう一度挑戦した時にまた半数を減らしてしまう可能性はないか?」
「ぐう。しかし、このままだと……」
ジンが視線をバラバラになって、動揺のある部下達へと視線を向けた。そもそも半数が減って指揮系統が不安定である。
カルディアはふーっと息を吐く。
「軍師、時間があればいいか?」
「え、あぁ。落ち着かせて部隊を再構築する。作戦も考える」
「分かった。お前等の精鋭は……飛翔部隊と言ったか……そいつ等を借りるぞ」
カルディアは小人達へ、鈍を掲げる。
「今、起きている。飛翔部隊! 俺に付き合え、時間稼ぎをするぞ!」
飛翔部隊である小人達の左腕の筒……飛翔機がボスンッという音が鳴り、紐の付いたダイヤの形をしたクナイ似た武器が発射される。
十人ほどの飛翔部隊がクナイを服に突き刺さって、カルディアの体に飛び付いていく。
シルバーはカルディアの肩に飛び乗る。
「どう戦うんや?」
問いかけにカルディアは鼻で笑う。
「さぁ。それでも、どうにか足掻くしかねーだろうと言いたいところだが……一つ気になることがある」
「なんや、いつもと雰囲気がちゃうが? 気になること?」
「あの化け物は鏡から出てきた」
「なるほどやな。つまり……」
「そう。鏡をぶっ壊したらどうなるか」
「やけど、ワイらの仲間があの鏡に取り込まれたように感じたんやけど。鏡を壊して大丈夫かいな?」
「……まぁ、試して駄目だったら。謝るよ。ごめんて」
「おい。却下や。却下」
「仕方ない。じゃあ、俺があの化け物と基本戦うから、お前等は化け物の周りをチョロチョロと撹乱し援護を頼む」
「大丈夫なん? 相手……魔物には見えへんが、ごっつ強そうや」
「仕方ないだろう。それぐらいしか今打てる手がない」
「せやな……武運を祈るで」
「そっちこそ。行くぞ。落ちるなよ」
カルディアはシルバー達に声を掛けると、素早く走りだした。
五時間後。
地下三十階。
ニールの体の主導権を持っているカルディアは翼の生えた女性から離れた位置で膝を付く。肩で息して、汗が滴っていて……疲労が隠せていない。
「ぐあっ、やっぱり無理だった。この体のスペック低すぎるだろ」
もちろん、小人達も疲労の色が濃く。更に何人か怪我人も出ていて、治療をしている者達も……。
ちなみに今はシルバー達が翼の生えた女性を引き付けつつ、戦っている。
小人の一人……包帯を頭に巻いたチューズに近付いてくる。
「お疲れやんす。カルディアさん」
「あぁ、怪我は大丈夫か?」
「頭の怪我はちょいと時間が掛かりそうで」
「そうか……。ここらで撤退をするべきかもな」
「そうでやんすね。シルバーから聞きやしたが、手ごたえがないんで?」
「あぁーそうそうまったく攻撃が効いてない気がする。地下三十階は難度が高いと聞いてはいたが……」
カルディアは肩を竦めて「はぁ……まさか、俺が戦うことになるとは思わなかった」と溢した。
チューズが若干言い難そうにしつつも。
「それでカルディアさん、貴方は何者なんで?」
チューズがそう問いかけると、他の小人達も気になっていたのだろう、カルディアに視線を向けていた。
カルディアは大きく息を吐き……少しの間の後で。「後でニールに詳しく聞けばいい」と前置きして、ニールと自身との関係を説明していった。
説明を聞いたチューズは口元に手をあてて。
「にわかには信じられないでやんす。オラクルが意思を持った剣であるなんて」
「正確に言うなら、剣が意思を持ったのではなく。龍が剣になった訳だが……まぁ、そこら辺はどちらでもいいか」
「ニールさんに翼が生えたのも……やはりオラクルの力だったと」
「そうだな。普段は俺が裏で制御してニールは使っている」
「なるほど……。つまりは龍になれると。オラクルはたまに無茶苦茶なモノが稀にあると聞き及んでいやしたが、ニールさんのオラクルはかなり特異でやんすね」
「そうかも……ん?」
カルディアはチューズと会話の途中であったが、異変を感じ取って翼の生えた女性へと視線を向ける。
翼の生えた女性にヒビが入って。そのヒビから光が漏れ出していた。
チューズも翼の生えた女性へと視線を向けて、顔を顰める。
「何があったんでやんすかね?」
「シルバー達が何かやれたとは思えない……となると……もしかしたら、囚われたニールの奴が何かやったか?」
翼の生えた女性は体から光の粒子が漏れ出して崩れていく。続いて、大きな鏡の鏡面からいくつもの光の玉が意識を失っている小人達……。
そして、光の玉の一つがカルディアへと降りかかって。
カルディアは顔に手を当てる。
「ぐっあ」
チューズは状況を確認するためキョロキョロと視線を巡らせ……。カルディアへと問いかける。
「何が……どうしたんでやんすか?」
「……どうやら、体に戻ったようだ」
「戻った? まさか、ニールさんに戻ったんで?」
「……まだ意識が朦朧とするが……戻った。しかし、なんだか体の疲労がヤバいんだけど……あ、あーなるほど、カルディアが動かしていたのか」
「何がどうして戻ってこれたんでやんすか?」
「どういったらいいのか、鏡に囚われている間に試されていたようだ」
ニールは苦虫を潰したような苦い表情を浮かべた。
光が失われた大きな鏡へと目を細める。
続けて、自身の左手……左の薬指には黄色の宝石が埋め込まれた指輪があった。
どこか寂し気な表情で。
「夢にも思えたが、どうやらすべて夢という訳ではないようだ」
ニールはしばらく黙って、指輪を見つめていた。
その後、倒れていた小人達もニール同様に意識を取り戻した。そして、大きな鏡からは力が失われていたので、先に進んだのだった。
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