第268話 イチャイチャ。



「ねぇねぇ、あの人、良くない?」


「モデルかな?」


「ねぇねぇ、美緒可愛いから声かけてみたら?」


「え、そんな無理だよ。だって、さっき可愛い彼女と一緒に居たよ?」


「なんだ、お手付きか」


「それより。由比が持っている太パパを紹介してよ」


「えぇー、美緒に取られるのは困るなぁ」






「あぁ、金がねぇ」


「ロマリアとウルンベルの戦争の所為かね」


「いろいろモノが高くなっているからなぁ」


「そうそう、ツイッルでめっちゃ稼げるバイトが募集されていたぞ?」


「どんな?」


「俺がやったのは、婆さんから受け取った荷物を指定されたコインロッカーに仕舞う仕事だった。たったそれだけで七万」


「マジか?」




 なんか……。


 危ない話が聞こえて気が?


 あまり悪い事をしていると、いつか痛い目を見ると思うのだが。まぁ金がない……貧すれば鈍するということなんだろう。


 あまり歳も変わらなそうだし、十分に気を付けて生きて欲しいものだ。


 ロマリアとウルンベルの戦争か……そういえば、そんなニュースがあったな。


 大変だな。


 この世界には核兵器っていう、馬鹿みたいな兵器があるから……面倒だ。


 悠李が腕を組んで、考えを巡らせていると、小走りで涼花が戻ってくる。


 涼花は首を傾げて。


「どうしたの? 難しい顔して?」


「いや、なんでもない。じゃあ、次は行きたいと言っていた喫茶店に行くか?」


「そうだね。行こう」


 悠李は涼花に手を引かれる形で、喫茶店へと向かうのだった。




 ここは駅近くにあった雰囲気の良い喫茶店。


 悠李は喫茶店の店内を覗き、げんなりした表情を浮かべ。


「うわー、なんだかデート途中のカップルと、女同士しか居ない。なんか、居づらいような」


「何を言っているんだか」


 涼花が渋い表情を浮かべて。悠李の手を引いて喫茶店の中に入っていく。


 店内に入ると。


 ケーキの焼ける、甘く香ばしい香りが漂ってくる。


 店員に案内されて席につくと、メニューから注文していく。


 悠李と涼花は何気ない事を話しつつ談笑をしていた。


 と言っても、涼花が基本的に離す感じで悠李が聞き役に回っていたのだが。


 涼花は先に来た紅茶を一口飲み。


「悠李が休んだ日、ウルンベル人の転校生が私のクラスにきたんだよ」


「そうか。戦争から逃げてきた難民かな?」


「……そうみたいね。けどね。もう少しで戦争も終わるだろと言われているし大丈夫だと思うけどね」


「だと良いけど……どんな子なんだ?」


「えっと、凄くお嬢様でね。送り迎えが高級車だったのには驚いたわ」


「へぇーそんなお嬢様が?」


「うん。お嬢様だけど……話してみたら、気が合って。来週はその子と出かけることが決まっている」


「それはすごいコミュニケーション能力だな。言葉とかは大丈夫だったのか?」


「お互い英語で話している状態。日本語もその子は多少できたんだけど、少し拙くてね」


「それは、それは……。なんで日本に来たのか?」


「親の都合だって」


「なるほど」


 悠李と涼花が雑談していると、店員がケーキを持ってきた。


 テーブルの上に出されたのは、ずいぶんと大きなモンブランとチョコレートケーキであった。周りを見ると、モンブランを食べていることから、この店の名物なのだろう。


 モンブランを前に涼花は顔を綻ばせる。


「凄い。雑誌で紹介されて、見たけど想像以上だわ」


 店員の人がニコリと笑って。


「ありがとうございます。濃厚な栗の味わいと軽いクリームのハーモニーをお楽しみください。では失礼します」


 一礼すると、店員の人は他の客のところへと行ってしまった。


 悠李は圧倒されたように。


「うわー。凄いな」


「でしょ? 悠李も頼まなくてよかったの?」


 悠李は気にする様子もなく、フォークを手に取る。


「いや、俺は久しぶりにチョコレートが食べたい気分だったから」


「ふーん。チョコレートケーキも美味しそうね。一口ちょうだい」


「だと思った。いいよ」


「食べさせて」


「バカップルみたいな……恥ずかしいな。凄く」


「いいじゃん。いいじゃん。私のモンブランもあげるからさ」


「むう」


 悠李は周囲をチラリと見えて渋い表情を浮かべたものの。チョコレートケーキを切り分け、それを涼花へと運ぶのだった。


 悠李と涼花はイチャイチャしながら、ケーキを食べ……過ごした。






 時間が過ぎて、午後五時。


 空はオレンジ色に。


 悠李と涼花は楽し気に雑談しながら二人並んで歩いていた。そして、互いの家が近づき別れ道が目の前にあるところで。


 買い物袋を抱えた悠李は涼花へと視線を向けて。


「涼花、今日は楽しかった。ありがとう。俺は今日という日を一生忘れない」


 涼花は怪訝な表情で。


「何よ? なんか変よ?」


「いや、うん。なんでもないよ。じゃあ、俺はあっちだから……さよなら」


 悠李が別れを告げて、歩きだした。


 一瞬の間の後、涼花は引き留めるように手を伸ばして。


「ちょ……待って」


「ん? まだ何かあった?」


「あーえっと……。また明日ね?」


「うん。そうだな」


「じゃあ、またね」


 涼花と別れて、悠李は立ち止まる。目元に手を置いて。


「……さよなら」


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