第267話 デート。

 翌日。


 ここは隣町の駅。


 人が行き交う中で、悠李が一人歩いていた。


 少し歩いたところで、端によって息を吐く。


「ふう、人混みは嫌いだが、吐き気を催さないのはいいな。うん」


 吐き気は催さないと言いつつ、悠李の顔色はあまりよくないが。


「待ち合わせまで、時間があるか」


 スマホで時間を確認して、壁にもたれる形で休む。


 ボーっと、周りを行き交う人達を見ていると、スーツを着た女性が盛大にこけた。


「きゃっ!」


 スーツを着た女性は悲鳴を上げて、持っていた鞄を落とし。鞄に入っていたモノが地面に落ちてしまう。


 ただ、周りを歩く人達は避けるだけで助けることない。


 悠李は自分の足元に転がってきたペンを手に取ると、座り込んでいたスーツを着た女性に近付く。


「大丈夫ですか?」


「いたた。ありが……ひっ!」


 スーツを着た女性は悠李を見るや、小さく悲鳴を上げて、後ろに。


 善意に対して、ここまで拒否反応を示されるとは思わず、若干顔を引きつらせる。


「す、すみません」


 スーツを着た女性は悠李の待っていたペンを奪うように取ると。鞄を抱えるようにして、急ぎ小走りで行ってしまった。


「ふうーなんだったんだ? ん?」


 悠李は渋い表情を浮かべ、スーツを着た女性を見送った。


 そこで、足元にカードケースがあるのに気づく。


「これは? 免許証か……花吹千里さんね」


 悠李がカードケースを手に取ると。


 一度、スマホを確認して、ため息を吐く。


「無いと困るか。まだ時間があるし、交番に届けようか……ここが日本でよかったな」




 悠李はカードケースを交番に届け、ちょっと焦った様子で小走りしていた。


 金の時計台に行きつくと、涼花が待っていた。


 涼花は悠李を見つけると、パッと顔を明るくするも、すぐに不満げな表情に。


「もう遅いよ。何回ナンパとスカウトに会ったか」


「悪い悪い。けど時間通りだと思うが」


「こういう待ち合わせは女の子を待たせないためにも、男は早く来るもんでしょ?」


「それなら、家が近いんだから、どっちかの家の前で集まればいいと思うが……ここで口論をしていても仕方ない、行こうか?」


「そうね。けど、次からは早く来るのよ?」


「分かった。分かった。それで? まずはどこに行く?」


「まずは……悠李の服を見に行きましょうか?」


 悠李と涼花とが並んで、人が行き交う通りを歩きだした。


 少し歩いたところで涼花はチラチラと視線を送った後、悠李の手を取る。


「……」


 悠李は首を傾げて。


「ん? 恥ずかしいんだが」


「迷子になるでしょ? だから、手を握るの」


「まったく、高校生に対して子供扱いか?」


「ふーん。じゃあ、女の子の服装について気の利いたセリフはないの?」


 悠李は涼花を見る。


「そんな高等な技術を高校生が持っているのか?」


「あるわよ。ほらどう?」


 涼花が悠李の手を若干引いた。


 刺繡の入った白いシャツに、深青色のハイウエストのロングスカート。


 長く黒い髪が風に揺れ、普段はあまりしない化粧を……。


 清楚で、いつもよりも大人びた印象がある。


 悠李は少し黙って、視線を外し。


「似合っているんじゃないか?」


「そう? 可愛い?」


「あぁ。ナンパとスカウトされるのも分かるな。それにしても、ずいぶんと気合いが入っているが、何かあったか?」


 悠李の問いに対して、涼花はガクンと肩を落としてため息を吐く。


「はぁー。この程度では無理なことはずいぶん前から分かっていたけどね」


「どうしたんだ? 急に」


「もういいわ。早く行きましょう?」


 不満そうな涼花が悠李の手を引く形で歩きだした。対して、悠李は急に涼花の機嫌が悪くなったことに戸惑いつつ、歩きだしたのだった。


 美容室。それからショッピングセンターに入り、何件かの服屋連れまわされ、悠李は涼花と店員の着せ替え人形かされていた。


 疲労感漂う悠李はショッピングセンターのベンチで、グデーと座っている。


「ぐはー疲れたぁー」


 隣に座る涼花はヤレヤレと呆れた様子で。


「どうしたの? 鍛えるんじゃないの?」


「いや。こういうことの為に鍛えている訳じゃ……ない。てか、美容室に行くなんて聞いてないな」


「ふふ。けど、格好よくなった」


「そうか? まぁ髪と服と……それぞれのプロがやってくれたんだ。ある程度よくなってくれないと困るか」


「そういう事じゃないけど。あ、私、お花摘みに行ってくるよ」


「じゃあ、少し待っている」


 涼花はトイレへと向かって行った。


 涼花を見送り、悠李が休んでいると周りの声が聞こえてくる。


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