第264話 おかしいほどに何もなかった。


 放課後。


 ここは学校近くのファミリーレストラン。


 四人席で、悠李と涼花が向かい合って座って教科書を広げ、勉強していた。


 涼花は楽しそうにシャーペンを持って。


「そこの文法違うよ。それとここの単語間違っている」


「ぐくぁwせdrftgyふじこlp」


 悠李がテーブルの上に突っ伏した。


「もう、へばったの? まだ二時間もやってないよ?」


「はぁーやっぱり、俺には向いてないな。英語」


「いや、向いてないとかではないと思うんだけど?」


「ダメダメ、今日はダメ。涼花、ありがとう。本当に感謝している」


 コップに注がれていたメロンソーダを飲みつつ、涼花がヤレヤレと言った感じで。


「早いなぁー。まぁ、しょうがないなぁ。明日も付き合ってあげるよ」


「感謝。感謝。ケーキ三個まで可」


「大丈夫。私は高いの一つでいいよぉー」


「高いの? ん? 二……三千円までにしてね」


「ふふ」


「その笑みが怖いんだけど……お手柔らかにね」


「んー今日はここまでかな。久しぶりにおじさん帰ってくるんでしょ?」


「あーそのようだ」


「私も一緒していいかな?」


「良いんじゃない? ……俺よりも涼花の方が気に入られていただろう?」


「そうだけど……やっぱりやめ。明日にするわ。せっかくの家族の団欒を邪魔するほど野暮じゃないよ」


 悠李は苦笑して。


「ずいぶんと難しい言い回しだな。いや、別に気にしないけど」


「野暮だよ。野暮……まぁ、明日は幼馴染み権限で一緒するけど」


「幼馴染みってそんな権限があるの? 知らなかった」


「ふっふっ。あるに決まっているでしょ?」


 悠李は「ふーん。そういうもんか」と、あまり気にすることなく、ジンジャエールをストローでズルズルと飲んだ。


 涼花は目を細めて。


「今日……昨日? 何かあった?」


「ん?」


「なんか、あったんじゃないの?」


 悠李は涼花から視線を外し。


「いや、何もなかった。おかしいほどに何もなかった。うん……」


「じゃあ? どうしたの? おかしいじゃない?」


「おかしい……か。しかし、本当のことを言って笑われるんじゃないかって内容なんだけど」


「ん? そんな話なの?」


「うん。笑われる……っと帰りながら話そうかな」


 悠李は伝票を取って立ち上がった。


 ファミリーレストランから出て、悠李と涼花は並び歩き。悠李は涼花に異世界での話を夢という形で話した。


 涼花は手を口元に当てて。


「フハハ、何それ……アニメの見過ぎじゃない?」


 悠李はジト目で。


「ほら、やっぱり笑った」


「ごめん。ごめん。けど夢で二年間過ごしたってこと? 走馬灯みたいな感じ?」


「結構、真面目に二年間だった気がするんだけど……んーまぁよく分からない」


「ふーん、けどさ。黒色火薬とか作って登場する魔物を吹き飛ばせばよかったのに」


「いや、あの黒色火薬の配合なんて、知らんがな」


「黒色火薬は木炭と硫黄、硝石……を混ぜる。硫黄は火山に行けばあると思うけど。硝石を手に入れるのが難しいかな? 土地によるか。糞尿から作れるんだけど、時間が掛かるか。んーん」


「へー木炭は木を燃やせばいい。硫黄は……温泉行けばあるか? 硝石……硝酸かな? 硝酸ってどうやって手に入れる?」


「硝石は……糞尿から作る硝石丘法だったかな? 今度調べてみたら?」


「まぁ、その知識をどこで使うのかって話だけど……お前、なんでそんな詳しいの?」


「昔、自由研究で調べたから。銃のことを歴史から作り方まで、いろいろと」


「ふーん。ずいぶんと危ない自由研究やっていたんだな。……もし、お前がその世界に行ったら、銃をぶっ放してそう」


「ふふ、そうね。けど、銃を使うより魔法を使った方が早い気がする」


「確かに。けど、一般人だったら持てるだろ?」


「そうだけど、お金がかかるであろうから……どうだろうね?」


「あーお金はかかりそうだな。弾とか」


「それに科学分野があまりだったら、精度も残念……暴発しそうで怖くて銃は使えない。火薬を爆弾として、魔法の鞄とかに入れて持ち歩いた方がいいかも」


「そっか。現代知識があっても難しいところがあるな」


「……けど、なんで、その夢に幼馴染みである私は出てこない訳? 幼馴染みよ?」


「いや、なんでもかんでも、幼馴染みは登場しないよ? 普通」


「根性で登場させなさいよ。私を」


「根性って……そういうモノじゃないと思うんだけど」


 悠李が小さく笑った。


 視線を流して。


 んーあの世界で幼馴染みは居たのかな? よく分からないけど、奴隷スタートだったんだよなぁ。


 考えたことはなかったが、俺が自我を持つ前のニール・アロームスはどういった環境で生活していたのか? そこら辺の記憶があいまいなんだよな。


 ソンル村だったか?


 もうないようなことを聞いたが……。生き残りも本当に居ないのだろうか?


 そこら辺も考えて、行動すればよかったな。


 今となってはどうにもならない……のかな?


 なんだか……。


 悠李が黙って考えていると、襟を引っ張られた。


 がはっ! っと息を吐く。襟を引っ張った張本人である涼花へ苦情を言おうとしたが、目の前を大型トラックが勢いよく通り、阻まれる。


 涼花はヤレヤレと言った様子で。


「死にたいのかな?」


 悠李は去っていく大型トラックを見送って。


「悪い……ありがとう」


「ぼーっと歩いて、危ないわよ? 世の中には危険がいっぱいなんだから」


「そうだな。気を付けよう。本当に……」


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