第263話 英雄達。
時間が過ぎて昼休み。
ここは悠李達が通う高校。
その校舎の一つの教室では。
悠李は開かれた歴史の教本を前に、難しい表情をしていた。
プロリア計画は……。
アメトリス合衆国、ケーナベラル空軍基地の四十四番発射台にて発射の予行演習中、配線から発火した火災が燃え広がり、宇宙飛行士六人と作業員数人が犠牲に。
ユーリィ・ガートリン。
シルヴィス・クライアン。
ロジャンヌ・フェリアル。
ガル・グリソム。
サリー・クリステン。
彼等の犠牲によって、プロリア計画は中止が発表された。
「ふーん、大体記憶通り」
いつの間にか横に立っていた涼花が。
「ねぇ、どうしたの? 難しい顔して……何が記憶通りなの?」
「あ、いやなんでもない」
「そう? なら、ご飯食べよ?」
涼花が膨らんだ巾着袋を見せた。
横目で僻み嫉みの視線を向けてきている男子へと見て。渋い表情を浮かべ口を開く。
「えー女の友達と食べろよ。戦いには勝てそうだが、呪われるのはもう勘弁だ……。それにお前みたいな人気者が近づいてくると、モブの俺は視線を浴びて、生きづらいんだけど」
「何を言っているの? いいじゃん。ほら、早く立って。行くよ」
悠李は涼花に引っ張られる形で、連れ出されたのだった。
ここは屋上。
ベンチに悠李と涼花が並んで座っていた。
涼花は首を傾げて。
「なんで、お弁当あったのに。メロンパンも買った訳?」
涼花の指摘通り、悠李の膝の上には弁当箱と顔ほど大きいメロンパンがあった。
悠李は苦笑いを浮かべ。
「……癖だ。これは安くて腹に溜まったんだ」
「癖? 悠李、いつも弁当だったじゃない?」
「そう……だな。いつも弁当だったな」
「それじゃあ、食べよう? 昼休みが終わっちゃうよ?」
「あぁ、そうだな」
悠李と涼花とは弁当を食べ始めた。
悠李は小さなハンバーグを口に運び。
「あん……うまい」
涼花は弁当箱の中のちょっと黒焦げた卵焼きを指して。
「あ、卵焼き食べる? 私が作ったんだよ?」
「ええぇ」
「むう、嫌そうな顔。これでも、上手くなったんだよ? 練習しているし」
「卵焼きなんて練習しないでも……」
「なに? 悪かったわね。料理が下手で」
「毒味はしているのか?」
「大丈夫よ。お父さんが食べているし」
「親父さん。可哀想に……あ」
悠李は視線を流した。何か思い出し、どこか悲し気な表情を浮かべた。
ボソッと誰にも聞こえないほどに小さく。
「……こんな会話を前にしたな。その時は食べることはできなかったっけ」
「? どうしたの?」
「いや、一つ貰おうかな?」
「ふふ、そんなに食べたいならあげる。ほら」
涼花が箸で卵焼きを掴んで、悠李の前に。
悠李は躊躇して。
「いや、あの。俺の弁当の上においてくれたらいいんだけど……」
「はい。あーん」
「……いや、あの」
「はい。あーん」
「……いただきます」
悠李は躊躇しながらも、涼花の卵焼きを食べた。
咀嚼しながら。
「にゃむにゃむ、若干ジャリッと殻があるのは気になるが、悪くない。昔の酷かった時を思うと美味しくなったと思うよ。うん」
「本当に良かったぁ。ふふ」
「しかし、凄く恥ずかしいんだが」
「そう? 幼馴染みなんだからいいでしょう」
「そうかな? そうかな? んー……まぁいいや」
「いいの。いいの」
「……あ」
「何? どうしたの?」
「そうそう、英語教えてくれない? 涼花得意だったろ?」
「え? 悠李が英語の勉強? あんなに嫌っていたのに……明日は雨かしら?」
「すごく……すごく英語が嫌なのは変わらないが。ちょっといろいろ困ることがあってな」
「そうでしょ? 英語はある程度できないと困るでしょ?」
「うん。凄く困った」
「分かった。教えてあげよう。しかし、次の休みに一緒に出掛けよう? 隣町にケーキの美味しい喫茶店が出来たんだって。それから……悠李の服も買いに行きましょう?」
「喫茶店は良いとして。なんで、俺の服まで?」
「体格があまり変わらないからと言って、中学の時に買った服をずっと着ているのはどうかと思うよ」
「……その服を選んだのはお前だが」
「どうせ、その時から服買ってないんでしょ? まったく」
「そうだが……いや、そもそも、休みはバイトが」
「え、悠李、いつバイト始めたの? おじさんから許可もらえたの?」
涼花の言葉に、悠李はポケットに入っていたスマホを取り出して履歴を確認した。
眉間に皺を寄せて。
ない。バイトのシフトに関する連絡メールが。
いや、そもそも、電話帳に登録すらない。
両親が生きているから、バイトをする必要なくなったと言うことか。
しかし、なんだか……。
悠李は考えている途中であったが、涼花が。
「ねぇ、いいでしょう? 高校に入ってからなかなか一緒に出掛けられなかったし」
「……いや。毎朝、一緒に登校しているだろう」
「それは出掛けているけど、そう言うことじゃない。それは幼馴染みだから当然なの」
「当然じゃないと思うが……分かったよ」
涼花は出掛ける約束を取り付け、機嫌がよく。
「やった。ふふ、詳細はゆっくり決めよ」
悠李はちょっと心配になったのか、胸ポケットに入った財布を取り出して。
財布には諭吉さんが六人ほど居座っている。
「連絡してくれ。お金は……入っているな」
「じゃあ、高いケーキ頼んじゃおー」
「まぁいいけど。服も買うんだろ? 手加減してくれよ」
「ふふ」
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