第260話 鏡の部屋。
ジェミニの地下大迷宮で探索を始めて百二十四日目。
ここは地下三十階は地下四十階と同様にフロワーは一つしかなく、空中にふわふわと浮かぶ光の球がいくつもあって入り口から全体を見渡すことが出来た。
地下三十階は……地面に薄く水が張られ。その中央には一枚の巨大な鏡が置かれている。
ニールは地下三十階に踏み入っていく。
すでに血吸、鈍を鞘から抜刀している。
ちなみに琥珀一家はペネムの鞄の中で待機。
「なんだ? ロンドニックに話を聞いたところこの階……地下十階、二十階、三十階には……かなりの難関が用意と聞いていたんだが」
警戒しながら……中央の巨大な鏡へと向かって行った。
「っ! 急な悪寒が」
ニールは眉を顰め、ピタリと足を止めた。その瞬間、頭の中にカルディアの声が聞こえてくる。
『ニールっ! その場から、すぐにでも離れろ! 大量のマナがあの鏡に集まっている! この場から離れろ、【青鳥(ブルーバード)】を使え!』
「【青鳥(ブルーバード)】っ!」
ニールの背中に青い翼が現れた。
翼を羽ばたかせて、飛行しようとした。
ただ、そこで……巨大な鏡が輝き、地下三十階全体に広がる水面に円形、星形……大量の幾何学模様が浮き上がってきた。
『この方陣は……』
ニールの体に白い光が覆って。
鏡の中に吸い込まれるような感覚に囚われ、意識が遠のいた。
ここは六畳ほどの広さの部屋で勉強机、大量の本が詰められた本棚、ベッドと……高校生、中学生あたりの部屋だろう。
カーテンから朝の陽ざしが差し込んでいた。
ジリジリッとけたたましい音が鳴る。
「すぅ……ん」
ベッドの上……掛布団が丸く盛り上がった膨らみがモゾモゾと動きだした。
そして、眠っている高校生? ……中学生にも見えるほどの幼い少年の横顔が掛布団の隙間から覗く。
けたたましい音に少年は眉間に皺を寄せた。
「んっ……んっんー」
五分ほどして、少年は寝ぼけた様子で体を起こした。
けたたましく音が鳴る発生源であった枕元に置かれた光る板……スマホへと手を伸ばした。何やらスマホを操作して音を消す。
「ん?」
寝起きでぼやける意識の中、少年はぼさぼさのくせ毛の髪を掻いた。
キョロキョロと周囲に視線を向け……少年の目が徐々に大きく開いていき、戸惑いの表情を浮かべる。
「ここって子供の時に暮らしていた家……えっ?」
少年は持っていたスマホへと視線を落とした。
暗くなったスマホの画面に少年の顔……大空悠李(おおぞらゆうり)の顔が映ったのだった。
「はっ!? どういうこと?」
スマホに顔を近づけていると、スマホの顔認証が作動してスマホのロックが外れる。スマホを操作してカレンダーアプリを開く。
「これは……俺が持っていたスマホだ。今日は、アレ……トラックに轢き殺された日だ。どういうこと? 俺は……ファンタジー世界のダンジョンで探索中だったはずなんだけどな。あの世界でのことはすべて夢だった? いや、なら……あの一人暮らししていた古ぼけたアパートで目覚めないとおかしいだろう」
訳が分からないと言った表情で、首を傾げた。少しの間の後で、ハッと何か思い付いたような表情を浮かべ、右腕を前に出す。
「オラクル発動【カルディア】……【救いの手】」
悠李の体に何も変化は起こらなかった。
「……オラクル発動【カルディア】、【救いの手】」
悠李は再び……オラクル発動を口にするも悠李の体に変化はなかった。
ムッとした表情を浮かべ……視線を下げる。
「っ! 駄目だ! オラクルも使えなくなっている。カルディアも反応しないようだな。はぁ……マジどうしたらいいんだ? 元の世界に戻るように努力するのか? この場合の元の世界って……どこになるのか?」
悠李が重い溜息をもらして、頭を抱え……途方に暮れていた。
途方に暮れていた悠李であったが、とりあえず部屋を出ることを選択する。
「ここは……俺が中学まで暮らしていた家だよな?」
悠李はパジャマ姿のまま部屋の扉を少し開けて、恐る恐る顔を出した。
キョロキョロと部屋の外……廊下を見る。
「なんで? 昔……火事で燃えたはず」
悠李は視線を右下に向けた。
首を傾げる。
「わからん。とりあえず、一階へ降りてみるか。アレ? 人がいる感じがするが……気配とかははっきり分からなくなっているな。この世界ではそりゃそうか? んーん? もうよく分からない」
悠李は懐かしむように視線を向けながら、部屋から出て、廊下を通って、階段を降りていく。
階段の辺りで、ベーコンが焼けるような美味しそうな匂いが漂ってくる。
悠李は早歩きで階段を降り、再び廊下を通って……その先にある扉の前までたどり着いた。
もはや警戒心とかなく、扉を開ける。
扉を開けた先には……三十代後半に見える中年女性が立っていた。
「悠李、やっと起きたの? 早くしないと涼花ちゃんが来ちゃうわよ?」
「っ!」
悠李は目頭が熱くなり、腹の底からこみ上げてくるものを感じていた。
スタスタと中年女性に近付き、抱き着く。
「母さんっ」
「え? きゅ、急にどうしたの?」
「……」
「昔みたいに怖い夢でも見た?」
中年女性……悠李の母親は最初こそ驚きの表情を浮かべていたが、柔らかい笑みを浮かべ悠李の頭を撫でた。
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