第254話 十二点の必殺技。


「じゃあ、隠れずに堂々と見に行けばいいということやな」


 黒い尖がり帽を被った小人……シルバーが近づいてきた。ジンはシルバーを睨み付ける。


「貴様な。さっきの独断専行……いい加減にしろよ」


「くは、悪かったって。堪忍や」


「はぁ」


「それで? 許可はもらえるんか?」


「……」


「こっちは戦いをみせたんや。あっちの戦いを見ても問題あらへやろ?」


「まぁ……いいだろう。どうせ気付かれる。下手に隠れずにな」


「さすが、ジンさんやん。じゃあ、手空いているヤツで行こうや」


 シルバーが歩きだした。すると、聞き耳をたてていた小人達……十五人ほどが、シルバーの後ろに続く。


 見に行こうとする数が多いことにジンは目を見張る。


「……後ろの奴らもか?」


「クク。命を預けるかも知れない相手なんや。気になるやろ?」


 シルバーが振り返って、答えた。


「く、くれぐれも失礼がないような。それから、魔物には気をつけろよ」


「分かってる。けど、ジンさんは気にならへんのか?」


「俺? 俺は軍略チェスを打ったからな」


「? まぁいいわ。いくで」


 シルバーは他の小人を連れてニールの向かった方へ歩いて行った。






「おっと、こっちだな」


 ニールが森の中を歩いていた。きょろきょろと見回す。


「前から思っていたが……この階層の魔物は他に比べて、少ないな」


 草むらを飛び越えて、何かに気付いたように声を漏らす。


「あ……そうか、小人達が減らしている影響か」


 その時、森の奥の茂みがガサガサと揺れた。


 少しの間の後、黒に近い茶色の虎のような魔物が飛び出してくる。


 冒険者協会が管理する魔物辞典には魔物についてこう書かれていた。


 スカベーン・タイガー。


 三メートル程ある、しなやかな体躯で鋭い牙と爪を持っている。


 S級の魔物。身体的特徴は五メートルある長く尻尾。


 S級の魔物としてはかなり小柄であるものの、姿を見失うほどに素早く動き回る。気付いたら目の前の仲間の首が切り落とされていたなんて報告が多々ある。


 もし出会ったら見た目に騙されず、一縷の望みに賭けて全力で逃げましょう。


「シャァアアアアアア」


「うわぁ、なんか面倒そうなのが出てきたな。これ……時間稼ぎするよりっ!」


 スカベーン・タイガーは……フッと姿を消した。


 一瞬でニールとの距離を詰めて、飛び掛かる。


「ガアアアアアァァ」


 スカベーン・タイガーの鋭い牙がニールの首筋に噛みついた。


 ただ、ニールの姿が……スッと消え、スカベーン・タイガーの口の中には岩が咥えられる。


「【変わり身】……狩った方が早いし。ちょうどいい大きさだし。練習している技もある……狩るか」


 スカベーン・タイガーの右前足の影からニールが姿を表した。


 更に、いつの間にか抜いていた血吸を振り抜き、スカベーン・タイガーの右肩の辺りを切り裂く。


 スカベーン・タイガーの固い体毛に阻まれながらも、傷を負わせた。


 スカベーン・タイガーは怯み、タンっと地面を蹴って後方へと逃れる。


「っ!」


「……ん? 小人達が近づいてきているな」


 スカベーン・タイガーが口にハマった岩を吐いていたところで、ニールは視線を上げ、鈍を抜いた。


 鈍を右手に握り、血吸を左手に持ち直して構える。


「解体でも手伝ってくれるのだろうか? オラクル発動【カルディア】、【地走り】」


 ニールの足が龍化し……地面を強く蹴った。スカベーン・タイガーへ向かって走りだす。




 十分後。


「な、なんやコレ」


 ニールの姿を見つけたシルバーが驚愕の表情を浮かべていた。


 シルバーの面前に広がっていた光景。


 地面が青い炎で燃える中、ニールとスカベーン・タイガーが居た。


 ただ、ニールの鋭く振るった剣によって……スカベーン・タイガーの首が切り裂き、頭が天高く飛んだ。


 シルバーの目の前に落ちて転がる。


 スカベーン・タイガーの首から血飛沫が上がった。


「ふう。もっと早く……刃が光ったと思ったら一瞬で切られている。そんな刹那的な感じだった。それに……それに鋭く……寒気が走るほどに美しい……見惚れるような太刀筋だった。それこそ、すべてを切り裂くんでは? と感じるほどに」


 シルバー達、小人が驚愕する中で、当のニールはどこか不満げな表情を浮かべブツブツと呟いていた。


「全然ダメ……多く見積もって十二点ってところだな」


 短く息を吐いたニールが血に濡れた鈍を振るって、血を払った。


 鈍を鞘に仕舞って、シルバーの方へと視線を向ける。


 シルバーと一緒に小人達は琥珀の一族でも腕が立つ……歴戦の戦士であった。


 ニールからは一切の敵意……それ以前に気配を消している。


 よって人を圧倒するような気配は放たれていない。


 それでも小人達は一様に恐怖していた。


 喉を鳴らして、逃げ出しそうに……いや、動けなかった。


「どうした? そんなところに突っ立って。悪いんだが、解体を手伝ってくれ」


「あ、あぁ」


 言葉で我に返った小人達はニールに近付きスカベーン・タイガーの解体を手伝うことになった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る