第253話 小人の戦い。


「ブッ……ゴオオォォォオ!」


 ジンは眉間に皺を寄せたまま、一歩前に出た。


「飛翔部隊は一旦退避。地上部隊は飛矢、投げ槍だ」


 ジンの命令で弓矢と槍を構えた小人達が一斉に矢と槍をドズン・ライノスへと投げた。


 雨のように矢と槍が降り注ぎ、ドズン・ライノスへと突き刺さった。矢と槍の先端が爆発して……固く分厚いドズン・ライノスの外皮に傷を付ける。


「固いな。まぁいい。地上部隊は足元から切り崩せ。飛翔部隊は飛び乗って攻撃しつつ、動きを止めろ」


 ジンの命令で小人達は一斉にドズン・ライノスが飛び掛かっていった。


 ニールは小人達の戦いを見守りながら呟く。


「大丈夫、そうだな」


「まぁ、どんな手合いにも油断はできないが。あのドズン・ライノスは群れだ出会ったら相手にするのは難しいが、一体にしてしまえば問題ない」


「なるほど……それにしても、面白そうな武器がある」


「ユーリィ・ガートリンの魔導書を読み。我等にできる範囲、合った形でいろいろ開発していたんだ」


「俺はあまり魔導具のことは詳しくないが、もしかしたら人間よりも魔導具の開発は進んでいるかもな」


「そうなのか? 外のことは分からないが、魔導具の出来は俺達の生活に直結するからな」


「あぁ、技術とは戦いの中で発展する……か」


「ちなみに聞きたいのだが、ニールならどのように戦う?」


「俺?」


「そう。参考までに」


「俺なら……今なら、力でゴリ押すかな? それだけの力があるし。それが一番時間の掛からない方法だ。ただ少し前の俺なら、事前に泥やら毒やらを溜めた深い落とし穴を掘っておいて、後はチューズのように一匹誘い出すかな」


「お、それもいいな」


「ただ問題点があるとしたら、倒した後に魔物の素材を取り難いところかな」


「ハハ、確かに。それは問題だ」


 ニールとジンが談笑をしていると、ドズン・ライノスが膝を付く。


「ンゴォォォ!!」


 多くの小人に飛び掛かられたドズン・ライノスは外皮を剥がされ、傷だらけで大量の血が流し……ジタバタと動き回ったが力尽き倒れた。


 小人達は急ぎ、集まってドズン・ライノスの解体を始める。



 小人達がドズン・ライノスの解体する様子を見ていたニールが手を叩く。


「いや、すごい戦いぶりだった」


「フフ、だろう?」


 ジンは小さく笑った。


「あの魔物は強い。人間の軍……一万を用意しても勝てるかどうか。つまり、数の少なさと腕力の低さを魔導具の性能と数で補っているんだな」


「ニールのいうところの人間の軍がどのようものか見たことないから、何とも言えんが。少数の我々がこの過酷な環境でも生きていく術を探求していく必要があった」


「なるほど、環境か。それにしても兵士全員に魔導具を持たせるなんて……しかも、その魔導具が小さいにも関わらず威力も十分にあるように見える」


「魔導具は我等にとって生命線である。ちなみにだが……大人間より魔導具作りが秀でているのは必然でもある」


「ん? 何か特別なことがあるのか?」


「いや特別なことではない。大人間に比べて我々は小さいだろ? それゆえに、魔導具を作る際に水晶に魔法式を大人間より、細かく刻むこと……。さらに魔石を魔晶石に加工するのも、より細かく上質な魔晶石を作ることが出来る」


「あぁー細かい作業をより細かくできるということか」


「そういう事だな」


「……」


 ニールは黙って、顎に手を当てた。


 ん? アレ?


 俺がもし彼等を外へと連れだしたら、魔導具はより小型化、高性能にできる。


 それって産業革命が起こるのでは?


 イグナルの魔導具を目にした時から、なんかすごいのではと思っていたんだ。


 特にあのカブという魔導具……アレを大きく……量産出来たら馬車の馬が必要なくなって……物流にも大きな影響が。


 パッと頭に浮かぶところで産業、軍事、物流に革命が起こる?


 ニールはジンへと視線を向ける。


「……あの兵士達が持っている魔導具って俺サイズに作れたりしないか? あの飛翔部隊が腕に付けている魔導具とか。すごく便利そうだ」


「飛翔機は扱いが難しいぞ? 実際に才能ありと判断した連中も扱えるようになるまで五年はかかっている。そして、飛翔部隊になるのは約十年かかる」


「そんなにかかるのか?」


「あぁ。でなければ、我が軍の根幹である飛翔部隊が二十人と少ない訳がない」


「それもそうか」


「あ。そもそも、今魔導具開発部隊はダーリラムの鞄の製作で忙しそうだからな。検討できても、その後だろうな」


「魔法袋……ダーリラムの鞄は最優先だな。もうリヤカーを押すのは勘弁だからな。いい筋トレになったって? もういいだろう?」


 ジンは怪訝な表情でニールへと視線を向ける。


「ん? どうした?」


「カルディア……いや、なんでもない。ところで魔物が近づいてきているから、ここを早めに撤収した方がいいかな?」


 ニールがジンとの会話の途中で、眉間に皺を寄せて顔を上げた。


 ニールの言葉を聞いたジンは眉を顰める。


 数秒の間の後で、小人が息を切らして近づいてきた。


「伝令、伝令、周囲警戒していた諜報部隊の斥候より、魔物がこちらに近付いていると報告が」


「分かっている。全軍撤退準備だ。急げ!」


 ジンの命令で、ドズン・ライノスの解体をしていた小人達が慌ただしく撤退準備を始めた。


「せっかく狩った魔物をほっぽっていくの?」


「あぁ、こういうのは引き際が重要だからな」


「そうか。では、俺がその魔物を引き付けておこうか?」


「一人でか?」


「? まぁ引き付けるくらいなら」


「……そうか。では、頼まれてくれるか」


「分かった」


 ニールは一瞥すると、森の中に入っていった。ジンがニールを見送っていると、伝令として着ていた小人が口を開く。


「……監視しておきますか?」


「いや、下手な監視を付けても意味がないだろうな。おそらく、あのチューズ以上に気配を察知する能力を有している。お前が近づいて来ていたのにも気付いていただろう」


「じゃあ、隠れずに堂々と見に行けばいいということやな」

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