第151話 何気ない雑談。
ニール達がウィンズ子爵領へと向かい始め、五日目。
夏に訪れたよりも、雪に道を阻まれ遅れたもののウィンズ子爵領のクレッセンの街を望める小高い丘まで馬車がたどり着いていた。
クレッセンの街にも雪が降り、街全体がうっすらと積り、雪化粧され……白く神聖な美しさがあった。
「凄い綺麗だ」
ニールが馬車の荷台の小窓から、クレッセンの街を見ながら顔を綻ばせていた。その様子を目にしたシャロンは訝し気な表情を浮かべて問いかける。
「そんなに綺麗か?」
「ええ、お金が大量にあったらここに家を建てたいと思うくらいに」
「ん? こんな街から離れていて不便な丘にか? 変わっているな」
「この眺めには変えられないでしょう」
「変わっているな……そういえば、シノ湖の街とは反対側の畔の近くに家を建てて暮らす変人と呼ばれるお婆さんがいたか」
「湖のほとりなんていい場所じゃないですか」
「シノ湖は広いんだぞ? 街へ行くのも一苦労だろうよ」
「そうかも知れませんが……っと」
ニールは窓から離れて、椅子に座り直した。そして、馬車の荷台に視線を向けた。
馬車の荷台にいる護衛達は一様に疲れ……疲労困憊っといった表情を浮かべていた。
隣同士で、起こし合っていなくては……今にも眠ってしまいそうな状況の者が多くいた。
「疲れましたよね」
「そうだな。雪が、例年に比べて本当に早く降り始めて、量も多かった」
「護衛の数……いや、雪かき要員があと五、六人欲しかったよな」
「それは言えているな。ウィンズ子爵家は慢性的な人材不足なんだ」
「なんで、もっといなんですかねぇ」
「……領地を持ち、更には王宮からお館様の手腕が認められて役職も与えられているから、大変なんだ」
「……そうなんですか。へぇー」
「このことは、前にも話したと思うがな」
「え、そうでしたか?」
「そうなんですね。大変ですねぇ。お館様、元気ないのに」
「興味なんだな。まぁ、お前には関係ないからいいか」
「そうです。そうです」
「……」
「……」
「……んっ」
「本格的に寝るなよ?」
シャロンが瞼を閉じたままのニールを揺らした。
「ん? なんですか?」
「本格的に寝るなよ? って言ったんだ」
「いや、今のは少し瞼の裏を観察していただけで、寝てはいませんよ?」
「瞼の裏の観察ってなんだ?」
「瞼の裏は真っ暗ですが……微かに外の光が入ってくるんです。しばらく、瞼の裏を見ているすーっと体の力が抜けていって……周りの音も聞こえなくなっていって」
「それはつまり寝ていたんだろ?」
「えーなんのことだか、わかりません」
「はぁ」
「それにしても眠たいですね。シャロンさん、少し話してもいいですか?」
「なんだ、いきなり」
「シャロンさんのことをいろいろ聞きたいと思って」
「ふ、仕方ないな。なんでも聞け」
「ありがとうございます。ではシャロンさんのお酒での失敗談を教えて欲しい」
「それが聞きたいのか?」
「シャロンさんがお酒に溺れるようになったルーツを知りたいと思いまして」
「……思い出したくない」
「? アレ、さっきなんでも聞けって……」
「いや、忘れたんだ。知らん」
「そうですか。じゃあ、騎士団をクビになった時の話を」
「それ、同じだから!」
「それ、絶対に覚えていて……まぁいいです。じゃ、シャロンさんが騎士団であった時の話を聞いても? 騎士団ってどういう仕事をしているんですか?」
「お、そうだな。まずは何から話すか。クリムゾン王国には白、赤、金、青、緑の五つの騎士団がある」
「五つの騎士団? なんかカッコいい」
「そうか? まぁ皆の憧れではあったな」
ニールのカッコいいという言葉にシャロンはまんざらでもない表情を浮かべて、視線を上げた。
「シャロンさんはどこの騎士団だったんですか?」
「私は金の騎士団に属していた」
「金の騎士団は何をしていたんですか? 五つある騎士団って何が違うんですか? 強さの順列が?」
「質問が多いな。まずはそれぞれの騎士団について軽く。赤の騎士団は攻撃力に特化した対人戦闘能力が高い騎士が属していた。金の騎士団は防御力に特化した護衛などを専門とする騎士が属していた。青の騎士団は魔法力に特化した魔法による対多数を得意とした騎士が属していた。緑の騎士団は支援力に特化した傷の治療や援護攻撃を得意とする騎士が属していた。白の騎士団はとにかく強いヤツらだ。つまり強さの順列は白の騎士団とそれ以外と言った感じだな」
「じゃあ、白の騎士団が一番強いんですか」
「あぁ、白の騎士団は他の騎士団から選抜された者達だからな……」
「なるほど、選抜されているなら強いに決まっていますよね」
「あぁ、私も詳しく知らないが、かなり厳しい選抜条件があるようだ。今は十人しかいなかったかな?」
「十……十人ですか?」
「あぁ、仕方ないだろう。帝国との戦争で二十人近く失ってしまったんだから」
「それでも三十人だったんですか?」
「ふふ、私の師匠も元白の騎士団の一人だと聞いても少ないと思うか?」
シャロンの言葉を耳にしたニールは戸惑いの表情を浮かべる。
「……ミロットさんクラスが三十人……? それはヤバいですね。多すぎると思います」
「ふ、師匠クラスの騎士が三十人もいる訳がないだろう。師匠は白の騎士団でも第三位だったと聞いている」
「びっくりしました。さすがにミロットさんクラスの強さの人が三十人もいないですよね」
「全員が師匠クラスとは言わないものの、十分に強者ぞろいだぞ?」
「どのくらい……いや、シャロンさんが選ばれないほどに強いんですよね」
「私が騎士団を退団したのは五年……もう少しで六年も前の話だからな? 今はその時よりも強くなっているから」
「そうか、お酒で問題を起こしていなければ」
「あん?」
シャロンがムッと表情を浮かべて、鋭い目つきで睨みつけた。ニールはサッと視線を逸らして答える。
「なんでもありません」
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