第102話 強い魔物の気配。

 ◆


「んーん。オーガの群れに襲われたっていう冒険者や衛兵って何人くらいいたんだっけ?」


 ニールが岩場の道中シャロンが連れていた馬に跨って、きょろきょろと荒野を見渡していた。


 ブリトニーがニールの問に答える。


「冒険者の数は不明だが、衛兵は二百人くらいだと聞いている」


「二百人? そんな数の人間の気配はどこにもないよ? 確かにパラパラと気配があるが魔物の気配だよなぁ」


「やはり洞窟などに籠っているか」


「さっき話していた地下洞窟ってどこら辺かな?」


「あっち。あそこに見える大木……ギールの大木がある方向だ」


「ギールの大木……確かココの実がなっているんだっけ?」


「あぁ、そうだ」


「なるほど……ギールの大木へ向かう道中に襲われたのか? んーん、やっぱり人間らしい気配は感じ取れなかった……けど」


「けど、なんだ?」


「けど……あっちから、すごく強い魔物気配が一つ感じるような?」


「すごく強いとはどのくらいだ?」


「どのくらい? 気配の感じる位置からして、おそらく地下洞窟の中……何とも言えない」


「そうか。しかし、この荒野で冒険者や衛兵の気配が感じられないということは……地下洞窟に立てこもっているか。もしくはここ以外の場所に逃げ込んでいるか……とりあえず、地下洞窟の内部を確かめてからだな」


「地下洞窟の内部を確かめる?」


 ブリトニーの言葉を耳にしたニールが微妙な表情を浮かべ、視線を下げた。


「当たり前だろう。なんのためにここまで来たんだ」


「どのくらい強いか分からないけど、一つだけ分かることがあるよ」


「なんだ、分かることがあるなら早く言わんか」


「この五人では勝てない」


 ニールの言葉を耳にしてブリトニー……だけではない、その場に居たシャロン、ボニーズ、アグネーゼの三人も表情を強張らせた。


 ニールは小さく笑う。


「あぁ、そういえば、今回は勝つことが目的じゃなかったね」


「え?」


 アグネーゼがニールへと視線を向けた。


「魔物の気配を読んで……魔物から見つからないように忍んで、オーガの群れに襲われた冒険者や衛兵を見つけて……救出する。できると思う? アグネーゼ」


「ど、どうだろう? けど、ニールの気配読みは信頼に値する」


「信頼、それはプレッシャーだ」


 ニールは苦笑を漏らした。


 乗っていた馬に鞭を入れて、馬を三歩進めた。


 ニールは振り返り、ブリトニー達へ視線を向けて問い掛ける。


「……何にしても、助けられたらラッキーくらいの感覚で行ってみるしかないよね?」




 地下洞窟へと向かうため、荒野を進んでいる道中。


「ニール、お前の気配読みの範囲……広がってないか?」


 シャロンが自身の後ろで馬に跨っていたニールへと視線を送ることなく問いかけた。


 ニールは視線を下げて、答える。


「……そうですね。気配過敏症の再発傾向にあるんですかね?」


「どうだろうな。気配過敏症のことを深く知る者は少ない。ただ、気配過敏症を繰り返すことで……超人と成りえると聞く」


「俺、別に超人なんて物騒なモノに成りたくはないんですが」


「お前の才能は欠点があるものの、それが霞むほどの利点かある。さらに希少で望んだからと言って必ずしも手に入る訳ではない。今後、生きていくのにも役立つだろう。大切にするんだな」


「はぁーそう考える他ないですね。ただ、もし再発したらリリアお嬢様の世話係は少しの間やれないですね。いや、それ以前に人が多くいる王都内に入れないかもしれないですか?」


「分かった……お嬢様に怒られるだろうな。私が」


「リリアお嬢様の世話係がやれないのも残念……更に次の休息日にいろいろと約束も」


「じゃ、根性で再発を抑え込むんだな」


「ハハ……根性でどうにかなるものなのですかね」


 ニールは苦笑を浮かべた。


 二十分ほど荒野を進んだところに、地下洞窟に続くという穴があった。


 地下洞窟へと続く穴は直径十から十五メートルほどで大型の魔物も入れるほどの大きさであった。その穴は辺にぼこぼこと複数開いていた。


「どの穴に入ればいいと思う? その前に気配はどうだ? ニール」


 ブリトニーは辺りを見回しながら、ニールに問いかける。


 ニールはその場にしゃがみこんで、地面に触れて、目を瞑る。そして、ゆっくりと目を開ける。


「……人間の気配は感じないな。近づいたけど、やはり地下洞窟……遮蔽物が多すぎて感じとることができないのか。魔物の気配も感じとることができない」


「……さっき言っていた強い魔物の気配はどうだ?」


「アレ? おかしいな。さっき感じた強い魔物の気配が感じとることができなくなった……え、ええ? どうして?」


「気配を感じ取れなくなる状況はどんな時だ?」


「寝ている? もしくは気配を消した? それくらいかな?」


「長年、冒険者をしているが、気配を消すことができる魔物が居るなんて聞いたことはないぞ?」


「そう? 人間にも気配の消せる人が居るんだから、魔物にもいると思ったんだけど……じゃ寝ている可能性が高いのかな?」


「今がチャンスと言う事か……」


 ブリトニーは口元に手を当てて、考えを巡らせ始めた。丁度、その時周囲を見回っていたボニーズから声が上がる。


「ねぇねぇ、一番小さい穴の近くに靴が落ちていたよ?」


「本当か」


「うん、ほら」


 ボニーズは泥に汚れた靴を持って、ブリトニーに近づいてきた。


「目印に置いて行った可能性があるか」


「それで? 地下洞窟には入っちゃうの?」


「……ここ以外、探す当てがある訳でもない。十分に警戒しつつ地下洞窟の捜索をすることにしよう。異論はあるか?」


 ブリトニーは決断を口にすると、辺りにいたローズミラーのメンバー、シャロン、ニールへと視線を送った。


 少し間を開けて、異論がなかったことを確認したブリトニーは頷く。


「では、少しの休憩の後で地下洞窟の捜索に入ろう」

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