第101話 二体目の魔物。
ウエートの森に入って七時間。
三体のゴブリンと出会ってから三時間。
ウエートの森は森と言いつつ、広大な面積に山から岩場、荒野、川、湖まである。
ニール達は森から岩場に入っていた。
ちなみに岩場は足場が悪いので馬から降りて進んでいた。
「んー歩きにくい」
足場が悪く、ニールはこけてしまいそうになって、渋い表情を浮かべた。ニールの前をシャロンがチラリとニールへと視線を向ける。
「仕方ないだろう。この岩場が近道なんだ」
「近道って言ても……これだけ大きな岩がゴロゴロしていると……シャロンさんに比べて俺の体小っちゃいんですよ?」
「ふん、でっかい女で悪かったな。ニールも大きくなるんだな」
「大きくなりたいと思って大きくなれるんだったら苦労ないんですけど」
ニールとシャロンが緊張感のない会話をしていると、先頭を歩いていたブリトニーが振り返って睨みつけた。
「お前達、気を抜くなよ」
ただでさえ、鋭い目つきで怖いのに睨みつけられるとさらに恐ろしくニールはビクンと体を揺らした。
ニールがビビッていると、ニールの後ろを歩いていたボニーズが口を開く。
「にしし、リーダー怖いよぉ。ニールに怖がられちゃうよ?」
「うるさい」
「ニール、リーダーは……怒っている訳じゃないよぉ。目つきが悪いだけだから気にしないでいいよぉ」
ボニーズがニールの肩にポンと手を乗せて、ニールへと話を振った。
対してニールは苦笑しながら答える。
「ハハ、この辺り魔物の気配は捕捉できているから」
「じゃ……この先の荒野の気配を感知することはできないか?」
ブリトニーが視線を前に……つまり衛兵と冒険者達が襲われているという荒野の方へと向け、ニールへと問いかけた。
ニールは荒野の方へと視線を向け、集中するように目を細める。少しの間の後で首を横に振る。
「んー……気配はないね。衛兵と冒険者も。その強い魔物のオーガも。まだまだ遠くて気配読みの範囲外なのか……それとも遮蔽物のある洞窟とかの中に籠っているのかな? それともオーガは気配を消すことができるの?」
「……洞窟に籠るのはあり得るな。もし奴らがまだ生き残っているとしたら籠城くらいだろう」
ニールの答えを耳にしてブリトニーが考えを巡らせるように顎に手を当てた。
ボニーズが首を傾げる。
「えぇ、荒野のところに洞窟なんてあったけ?」
「確か……荒野には昔住み着いていたモグラに似た魔物が作った地下洞窟が残っていた」
ボニーズの疑問に対して、最後尾で黙って話を聞いていたアグネーゼが答えた。
アグネーゼの肯定するようにブリトニーが浮かない表情を浮かべて頷く。
「そうだ。……しかし」
ブリトニーは言葉を濁した。……ただ、アグネーゼには思い当たることがあり核心を口にする。
「地下洞窟は今はグリン・アントの巣となっていた」
「……っ」
アグネーゼの言葉を聞き、アグネーゼは唇を噛んだ。
そこで、シャロンとボニーズにもブリトニーが言わんとしていることが理解できたのか声を上げる。
「!? まさか、二つの魔物の群れに襲われている可能性もあるのか!?」
「っ! それ、ヤバいね」
「はぁー、オーガだけでも厄介なのにな」
ブリトニーは小さくため息を吐いて、頷き答えた。
ブリトニーの表情……いや歴戦の冒険者であるローズミラーの三人、そしてシャロンの表情にあきらめの色が覗えた。
そのことを知ってか知らずか、ニールは危機感がないというか……能天気に口を開く。
「へーそっか。二つの魔物が……大変だなぁ。ところでグリン・アントってどんな魔物なの?」
ニールの問いかけにアグネーゼが少しの間の後、グリン・アントの説明をしていく。
「……グリン・アントは蟻の魔物。大きさは……君の持っているナイフくらい? 強靭な顎を持って噛みついてくる。魔物にしては一体一体の強さはそれほどでもない。ただ……基本的に群れで行動して。大量のグリン・アントにまとわりつかれて倒れる冒険者は結構いる」
「アント……あぁそうか。蟻の魔物なんだ。煙とかで駆除できないのかな?」
「どうだろう? 火が苦手。火を掲げたら逃げる場合もある。ただ、仲間が殺されて怒っている奴らには効果ない」
「そっか、アグネーゼさんは物知りだね」
「そ、そ、そんなことないよ。ギルドにある資料を読んだだけだから」
ニールに褒められて、アグネーゼは顔を赤くしながら、ブンブンと首を横に振っていた。
すると、ボニーズが不満げに頬を膨らませて、ニールへと声を掛ける。
「むぅ、私だって知っていたんだからねぇ」
「そうなんだ」
「なんでも聞いてよ」
「え、えっと、なんでも聞いてと言われても……」
気の抜けたような会話をニール、ボニーズ、アグネーゼが話していると、呆れた表情を浮かべたブリトニーが振り返る。
「はぁー緊張感が削がれる会話はそのくらいにしろ。ちょっと急ぐぞ」
ニール達はオーガに襲われているという冒険者や衛兵を助けるために歩を速めるのであった。
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