第103話 時間を遡る。
少し時間を遡る。
ニール達がちょうど三体のゴブリンと遭遇して倒していた時。
「ぐっ、逃げた先がグリン・アントの巣だったとは……毒で体が動かん」
赤色の鎧を纏った金髪の女性が悔し気な表情を浮かべて地下洞窟の地面に伏していた。ちなみに彼女の周りには鎧を着た兵士達が何人も倒れている。
「ガアアア!!」
「ギャアアアア!」
金髪の女性は毒によって薄れゆく意識の中で視線を上げた。
彼女の視線の先には二体の巨大な魔物がいた。
一体目の魔物は四メートルあるオーガの進化先にある頭部が二つあり、腕が四本あるジヘッド・オーガ。
二体目の魔物は二メートルあるグリン・アントから二段階ほど進化した先にある固そうな黒光りする外皮に、クワガタの角のような長く鋭利な顎を持つリル・アント。
皮肉なことに……両魔物とも、多くの人間を食らったことで大きく成長していた。
その二体の魔物が向かい合い、威嚇していた。
ジヘッド・オーガは四本の腕にそれぞれこん棒を持っていた。
四本の腕が持っていた、こん棒をリル・アントに対して一斉に振り下ろした。
ドオオオオオオオンッ!!!!!
こん棒が叩きつけられたことで重たい音が響き、その衝撃たるや地下洞窟全体が揺らすほどであった。
リル・アントの外皮がミシッとヒビが入るような音が聞こえるものの、何とか耐えて……後方へと飛び、距離を取った。
リル・アントはこん棒を受けた衝撃によって意識が混乱したのか、体をよろめかせて頭を左右に振る。
「ガアアアアアアア!!」
ジヘッド・オーガが咆哮と共にリル・アントに詰め寄った。
ジヘッド・オーガの振るった、こん棒を後方へ下がりながらリル・アントは躱していく。
戦況としては二体の魔物の戦いはリル・アントが押される形でしばらく進んでいって、十分ほどが経っていた
リル・アントの外皮のいたるところに大きな亀裂が入って、八本あった足は二本ほど千切れてその場に落ちていて、一本はプラプラと千切れかけて動いていない。
ジヘッド・オーガがリル・アントの黒い血で染まっている、こん棒を振り下ろそうとした。
ただ、リル・アントは損傷激しく、こん棒から逃れる余力がなかった。
ブンと風を切る音が響き、こん棒が強く叩きつけられた。
大きく砂埃を上げた。
少しの間の後、砂埃が晴れた時に見えたのはジヘッド・オーガの振るった、こん棒がリル・アントから外れて、地面に叩きつけられていた。
なぜ、こん棒が外れたのか。
ジヘッド・オーガの二つの顔や体にグリン・アントが張り付いていた。
視野を広げるとジヘッド・オーガとリル・アントが戦っていた周りに大量のグリン・アントがワラワラと集まっている。
ジヘッド・オーガは二つの顔や体に付いていたグリン・アントを払いのけた。
大量のグリン・アントに囲まれていることに気付いて、きょろきょろと見回す。
ジヘッド・オーガが四本の腕に持った、こん棒を振るうも、周りの集まった大量のグリン・アントをすべて倒すには至らない。
「ガアアァァ……!!」
グリン・アントがジヘッド・オーガの全身を覆って……しばらくジヘッド・オーガは抵抗していたものの動きが鈍くなっていく。
「ギャアァ!」
リル・アントが鳴き声を上げた。
タメをつくるように体を低くさげ……残っていた五本の足で地面を思いっきり蹴った。
リル・アントはジヘッド・オーガへと凄まじい速さで突進する。
グシャ!!
リル・アントの鋭く長い顎先がジヘッド・オーガの体を深々と突き刺さった。
ジヘッド・オーガの胸の辺りに穴が開いて、三分ほどジタジタと暴れるも……バタンと後方に倒れた。
リル・アントは突き刺さったジヘッド・オーガの体を払いのけて、咆哮をあげる。
「ギャアアァァァアア!」
リル・アントの黒い外皮が……白く色を変えていく。
少しの間の後で白くなった外皮を……まさしく脱皮するように外皮を脱ぎ去った。
「な、なんと言う事だ……化け物が」
リル・アントの様子を大量のグリン・アントに埋もれながらも見ていた金色の鎧を纏った金髪の女性はカタカタと震えていた。
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