第96話 噂話。
ここは冒険者ギルド会館。
ニールは商売道具を預けて、冒険者ギルド会館の中に入っていく。
冒険者ギルド会館の中に入ると、フワッと爽やかな甘い香りが鼻孔をくすぐる。
「なんだ? この甘い香り」
ニールはスンスンと鼻を動かしながら冒険者ギルド会館のロビーを歩きだした。
ニールが冒険者ギルドに顔を出すと、敏感な冒険者がすぐに反応する。
「ん? アレはシーザーの連中を一掃した」
「なんの話だよ? あのガキがどうしたんだよ?」
「知らねーのかよ。可愛がりをやろうとしたシーザーの連中を逆に一掃して……更には冒険者ギルドから追放したんだよ」
「シーザー……そういえば、うるさいバイナスのヤツが居なくて快適だと思ったがそういう理由があったのか。今度、奢ってやるかな?」
「関わらないほうがいいぞ?」
「? 何かあるのか?」
「どうやら、なんかやべー毒を盛ったんじゃねーかって話だぞ?」
「マジかよ。可愛い顔してこえー」
先日襲ってきた十五人の冒険者パーティーを俺が壊滅させて、追放したことが噂になっているようだな。
俺は助太刀してもらったことで冒険者達を拘束したと証言したのに……噂に尾ひれがついて俺一人で十五人の冒険者パーティーを壊滅させたことにされてしまっているようだ。
本当は間違っていないから、否定しづらい。
まぁ……悪意を向けられていた以前よりかは大分マシかも知れないが。
渋い表情を浮かべたニールは、ロビーを抜けると受付カウンターに並んでいた冒険者の列の最後尾に並んだ。
「俺、犬か猫を飼おうかな?」
「なんだ突然……一生独り身でいることをもう決めたのか?」
「何、言っているんだよ。討伐クエストで魔物の領域に入った時に動物の嗅覚は役に立つだろう?」
「それは……役に立つと思うが。別れた彼女の躾(しつけ)もできないお前に動物の躾とかってできるのか?」
「彼女のことは余計だが……躾か、難しいのか?」
「難しいんじゃない。……そういえば他国にはテイマーっていう動物の調教を生業としている連中がいると聞いたことがあるくらいだ」
「素人には難しいか」
「だろうな。お手とか待てとかくらいが限界じゃないか?」
「そうか……」
「あ、一つ心当たりがあるぞ?」
「なんだよ?」
「アレだよ。前に噂になったじゃねーか。リンガリアムの森にはしゃべる動物の噂。会話できるなら、躾も幾分か楽になるんじゃねーか?」
「その噂、本当なのか?」
「くく、どうだろうな。確かめてみてくれよ」
しゃ……しゃべる動物だと。
この異世界にはそんな知能が発達した動物がいるのか?
どんなのだろう?
やっぱり猿とかだろうか?
猿は芸を教え込んだりされて、元の世界でも知能は高かいイメージがあったから。ありえなくもない?
それから、犬か?
麻薬探査犬や警察犬、盲導犬などなどをやれるだけの知能を持っているんなら……ありえるか?
なんにしても気になるな。リンガリアムの森と言えば……ルイス先輩が拠点としていたはずだから。今度会った時に聞いてみよう。
「はぁ」
「どうしたんだよ。キモいぞ?」
「キモいは余計だ」
「また、なんだったか? そう、パン屋のエミーちゃんの話か? 脈ないだろ?」
「……」
「ど、どうした? 急に暗い顔」
「フラれた……」
「ん? なんて?」
「だから、四日前にフラれたんだよ」
「あぁ、やっぱり?」
「ちっ、うるせーよ」
「しかし、その割になんだったんだ? あの腑抜けたキモい顔……」
「俺は次の恋に目覚めたのだ」
「そう……なら、立ち直り早過ぎね?」
「ふ、恋によって、傷が埋められたんだよ」
「そうかい、今度は誰なんだ? え?」
「アイカシア王国の第四王女……ララシャータ様だよ」
「バ、バカ……お前、何を言っているんだよ。どこまでバカなんだよ」
「俺だって、分かっている。天地がひっくり返っても無理なのは……遠くから眺めるくらいは許されるだろう?」
「……お前、キモいな」
……そういや。
アイカシア王国の王族がこの国に来ているんだったか?
パレードの時、薬師の婆さんが出てきたから……まだ見ることができていないな。
聞いた話では王子と王女が来ているだとか?
王族か、どんな奴らだろう? やはり……一度見てみたくもあるな。
いや、どうせ面倒な奴らか。そもそも俺なんかが会えるような立場の人間じゃないか。
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