第95話 稼ぎ。
ニールは晴れた空を見上げていた。
……疲れた。
疲れた。
疲れた。
そして、本当に人が多かった。
はぁ、初日から食材が残らなく、稼げてよかったんだが……ヘトヘトで動けない。
ほんと……。
贅沢かも知れんがここまでは望んでいなかった。
え? 次の休息日にもコレをやるのか?
いや、次は今回に比べたら客はもしかしたら減るかも知れない。
しんどいな。
もう少し楽ができると思ったんだけど……。
いや、もう少し楽にお金を稼ぎたい。
……って考えていることがクズ過ぎるな。
にしても、楽か。
正直なところ……料理を作るのは苦ではないんだが、接客がなぁ。
今日は何とかもったけど、人が多くなると気持ち悪くなっちゃって……。
せめて、接客は誰かやってくれんかなぁ。
接客してくれる従業員を雇う?
それが出来たら、もう一個寸胴鍋を買って売っている最中にシチューを追加で俺が作ることもできて……売り上げも上がるだろうに。
いや、それは冒険者ギルドで俺がパーティーを組めない理由と同じで……七日に一度じゃなぁ。
誰かに相談してみるか?
「だいぶ体力も回復したし。売るモノもないし……帰るか」
ニールはしばらく横になりながら考えを巡らせていたが、長く息を吐いて体を起こして立ち上がった。
帰ろうと立ち上がったニールへと声が掛けられる。
「ここで売られていたという旅人のスープは売り切れちゃったのかしら?」
「え?」
ニールが声を掛けられた方へと視線を向けると、老婆……オルセイヌ教会に滞在している聖女の一人マルタ・スノーリアが微笑みながら佇んでいた。
マルタが現れたことで、ニールが借りていたスペースの前には人だかりができていく。
集まってきた人の多さにニールは顔を強張らせていた。
マルタはニールと視線を合わせて、笑みを深める。
「あらあら、ずいぶんと可愛らしい店の方ね……貴方は前に会ったかしら?」
「あ、はい。今日はバザーの場所を借りています」
「えっと、貴方が旅人のスープを? それともお留守番かしら?」
「一応、その旅人のスープを俺が作って売っていましたが……どうしました?」
「そうなの? けど……もうないのね」
マルタが残念そうな表情を浮かべて、空になっている寸胴鍋へと視線を向けた。
ニールは申し訳なさそうに頬をポリポリと掻きながら答える。
「あ、売れきれちゃいました」
「そう……残念ね。旅人のスープは昔私の母が作ってくれたスープに似ていて、また飲みたかったの」
「それは申し訳ない」
「あ、ごめんなさいね。責めている訳じゃないの。えっと貴方、明日は来てくれる?」
「いえ、明日は別の仕事をしていますね。おそらく、ここで商売できるのは七日後になると思います」
「そうなの。七日後……分かったわ。それまで楽しみにしておくわ」
マルタはニコリと笑みをその場から去っていく。
マルタを……マルタの周りにいた大勢の人達を見送ったニールは胸を撫でおろして、ふーっと息を吐いた。
びっくりしたぁ。
突然なんだと思ったよ。
え、次はあの人……あの人達が来るのか?
それは困るな。
あんな大勢な人に加えて行列?
無理無理。
なんとか対応する方法を考えおくか? そもそも、マルタ様を行列にならばさせるのか? いや、それは……。
やはり人員を? いや、それだけでは解決しないか? けどけど、人員不足は確かにあるから……。
誰かに土下座して手伝ってもらうか?
それか……一日だけ……一日だけ?
そう……冒険者雇うか?
!? そうだ! その手があった!?
俺はタイミングが合わなくて受けることはなかったが、たまに雑用系のクエストで飲食店の応援するクエストがあった。
詳しくは覚えていないが、報酬は拘束時間次第ではあったはず……一日拘束だったら三十グルドから四十グルドだったかな?
いや、計算とかもできる人を指定する場合は割高になるんだったか? 高くて五十グルドくらいだったかな?
いや、俺の場合は一日という訳ではなく朝から昼過ぎまでだから違うか? 冒険者を雇って稼ぎになるのか?
……えっと、今日稼いだのはいくらだ?
ニールはその場に胡坐をかいて座った。
パンパンに膨れ上がった巾着袋、さらに巾着袋が一杯になったのでポケットに入れていた大銅貨を取り出し、大銅貨の枚数を数えていく。
「……七十……七十一……七十二かな?」
大銅貨の枚数を数え終わったニールは顎に手を当てて難しい表情を浮かべる。
売り上げは七百二十グルド?
えっと、食材と薪代などなどが全部で三百五十グルドだったから……人件費は俺だから一旦考えないとして……利益は三百七十グルド?
冒険者ギルドで指名クエスト一、二回分? 半日で?
仮に冒険者を雇っていたら五十グルドだから? 三百二十グルド?
これは十分な稼ぎになるな。
次が今日ほど多く売れなかったとしても、一日単位で雇える冒険者ならば再考することもできる。
まぁ、次は今日のことを鑑みて冒険者を一人……二人雇ってしまおう。
「そうと決まったら……帰りに、冒険者ギルドに寄るか」
ニールはてきぱきと帰り支度を整えて、バザー会場であるオルセイヌ教会を後にしたのであった。
◆
本日も小説を読んでいただき感謝感激です。
少し……少しでもこの小説が面白いなぁと思っていただけたら、小説の★レビューとフォローを頂けると作者のやる気が上がりますので……どうか、どうかよろしくお願いします。
作者より╰(*´︶`*)╯
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます