第84話 呪術。
「呪術?」
「私は古代魔法の一種と言われる呪術……その呪術によってどこにいるのか監視されているのです」
「……じゃ、ここにいることも?」
「いや、ここにいることは分からないみたいなのです。ただ、【ソフィアの扉】は瞬間移動的な能力は備わってないのです」
「そうか……監視を外して行動することができないのか。けど、なんで……わざわざそんな呪術とやらを受けたんだ?」
「仕方ないのです。今よりも子供の頃なのです。それにそんなモノがあるとは思わないのです。そして、気になるのはその呪術とやらが監視するためだけのモノではない可能性があるという事なのです」
カトレアが悔し気な表情で、ベッドのシーツをキュッと握りしめた。
ニールは少しの間をおいて……納得したように頷く。
「……なるほどな。それで、呪術で監視されていない俺に何かあるんだな?」
「いくら力ある者を野放しに出来ないからと言って……他人に命を握られているのは気持ち悪いのです。どうにか解除方法を探したいのです」
「何か当てがあるのか?」
「当ては……ないのです」
「なんだよ」
「仕方ないのです。私に呪術を施したクリムゾン王国の筆頭魔導士モーリス・ファン・ダールシャが戦争で死んでしまったのですから」
「モーリス? どこかで聞いたな。んー……思い出せない。しかし、その呪術というのはかけた奴が死んでも残るのか?」
「……残っているのです」
カトレアは右袖を捲って見せた。カトレアの右肩の辺りに円形と星形、幾何学模様の入れ墨が施されていた。
「それが呪術?」
「ええ」
「……」
ニールが身を乗り出して……カトレアの肩にあった入れ墨を見つめた。
近付いてきたニールにカトレアは少し距離を取って問いかける。
「ど、どうしたのです」
「なんか似た感じの入れ墨が俺の背中にあるんだけど……気のせいかな?」
「え?」
「いや、気のせいだと思うんだけど……」
「ちょ、ちょっと何を言っているのですか? どういう事なのです? ちょっと見せるのです」
「……わかった」
ニールがメイド服のボタン外して、背中を見せる。
カトレアの入れ墨と似た円と星の図形……幾何学模様の入れ墨がニールの背中に刻まれていた。
カトレアはニールの背中を目にして……顔を引き攣らせる。
「ヒッ! 男の背中」
「あのね。アンタが見せろと言った癖にヒッて言うのは……失礼過ぎるでしょ」
「ご、ごめんなさいなのです。けど、なんだか違うように見えるのですよ? 確かに似てはいるのですが」
「そうか? 俺のは背中にあっては鏡越しにしか見えないからよくわからないんだ……しかし、背中のはヤバいヤツだったのかなぁ? どんな効果なんだろう? 怖いなぁ。マジかー……」
服を着直していたニールは言葉を切った。
少し考えを巡らせていたニールであったが何かひらめいたのか……ポンと手を叩く。
「あ。そういえば……俺の入れ墨を見た時にリリアお嬢様が気になることを言っていたな」
「お、お姉様が?」
「……なんだったかな? そうどっかの禁書を読んだ時に似たようなモノを見た覚えがあると言っていたな」
「どっかの禁書とは……どこなのですか!?」
「どこだったか? ずいぶん前のことだからなぁ……図書館だったか? リリアお嬢様が行く図書館とすると王都マタール内の図書館か? ウィンズ子爵領内の図書館か?」
「図書館なのです?」
「そういっていた。しかし、どこのだったかな? リリアお嬢様にもう一度聞いてみるか?」
「やめておくのです。お姉様をあまり巻き込みたくないのです。私は王都マタール内の図書館を当たってみるのです。いくら監視されているとはいえ、図書館くらいは問題なくいけるので……。貴方はウィンズ子爵領内の図書館を当たってほしいのです」
「ウィンズ子爵領の図書館はそんな大きくなかったから確かめるのには時間はかからないかも知れないけど……なかなかへ行く機会はそんなにないな。とりあえず冬まで行かない」
「それでも監視されている私よりも行けるのです」
「なら、分かった」
「ふうーしかしながら、さすがはお姉様なのです。博識なのです」
カトレアが頬を赤らめて、うっとりした表情を浮かべていた。
ニールは怪訝そうにして見据える。
まさに少女が恋しているような……。
女同士か?
そういえば……よくよく見るとこの部屋……カトレアの前世での部屋と言っていたが。
女性アイドルのポスター?
いや、女性アイドルのファンに女性が多くいるは聞いたことがあるけど。
女性アイドルの抱き枕があるもんなのか? しかも、作りから見て自作?
カトレアって……男嫌いの女好き?
エミリアさんと同じ?
いや、エミリアさんは男があまり得意じゃないというレベルで、普通に喋ったり、触るくらいのことはできる。
エミリアさんからかなり悪化している感じの人?
それは……生き辛いだろなぁ。
考えを巡らせていたニールであったがハッとした表情を浮かべた。
「って……要らんことを考えている場合じゃないわ。そろそろリリアお嬢様の護衛に戻らないと……シャロンさんに怒られる」
「そ、そうなのですね」
「ここを出るのは、入ってきた扉から出ることができるのか?」
「そうなのですよ。あと、そっちの窓から出ても同じなのです」
「なるほど、外に出る行動自体が……」
「あ、あの最後に今後も定期的に情報交換をしたいのです。監視させている私がウィンズ子爵家に行くのは……お姉様を巻き込みたくないので。貴方が来てほしいのです」
「あぁ、それは分かった」
「ち、ちなみに……私に会いに来るときは女性の恰好でお願いするのです」
「ええ……」
「男の姿では会えないのです。気持ち悪いのです」
「はぁーそうですか」
ヤレヤレと言った表情を浮かべたニールは座椅子から立ち上がる。そして、カトレアと共にその場を後にして……リリア達のもとに戻るのであった。
それから、舞踏会は何もなく?
いや、リリアをダンスに誘う男が集まって喧嘩になりそうになったり、女装しているニールに声を掛ける男がいたりしたものの舞踏会は閉幕したのであった。
◆
ニールが男に交際を迫られる話……需要ある? んー。
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