第83話 六畳一間。


「私は男が苦手なのです」


「あ、そういえば……そんなことを言っていたな。悪い」


「離れて話すのです……そこの座椅子に座るのです」


「あぁ」


 ニールはカトレアの指示に従って、使い古されたように見える座椅子へと座った。少しの間の後で、カトレアは気を落ち着かせるようにふーっと息を吐く。


「ふうー先に言っておくのですが。ここは地球の日本ではないのです」


「……じゃあ、ここはなんなんだ?」


「ここはオラクル……【ソフィアの扉】の中に作られた異空間だと思われるのです」


「オラクル? 【ソフィアの扉】? 異空間?」


「オラクルを知らない……貴方はまだどこの国家にも属していないのです?」


「国に属す? 何のことだ?」


「まずは貴方の疑問を一つ一つに答えるのです。まずオラクル……私も聞いた限りの説明になってしまうのですが。文字通り天命呼ばれる神に授けられる……この異世界で選ばれた人間が発現する力のことなのです。オラクルの発現するのは……五十万人に一人と言わる稀有な力なのです。ただし、別世界からの転生者は前世の記憶と共にオラクルを持って生まれてくると言われているらしいのです」


「……別世界からの転生者は前世の記憶と共にオラクルを持って生まれてくる?」


「何か心当たりはないのですか?」


「んーまったくないな」


「そうなのですか? 声を聞いたことはないのです?」


「声を? 分からん」


「嘘ではないのです? 腹を割って話すために私のオラクルを見せたのですよ? ……隠すのはフェアな話ができないのですよ?」


「フェアじゃないと言われても……分からんものは分からないんだ」


「……そうなのですか。そういう事もあるのですかね? この問答は埒があかないのです。とりあえず話を進めるのです。次は私のオラクル【ソフィアの扉】について軽く説明するのです。私はどこでも壁に扉を出現させられ、あの扉はこの異空間を作り出すのです。ちなみにこの異空間は私の前世で住んでいたアパートの一室が再現されているのです」


「前世の部屋が再現されているのか? 何か理由があるのかな?」


「あまり見ないで欲しいのですが。なぜ、前世で住んでいたアパートの一室が再現されているのかは私にもわからなのです。ただ、前世で死んだ時、働き詰めで家に帰りたいと強く願っていたからかもとか勝手に思っています」


「なるほど。ちなみに、この場所にあるモノはそのオラクルによるものなの? 本物にしか見えないけど」


 ニールはアパートの一室を見回し、最後に自身が座っている座椅子に視線を向けた。


 座椅子のクッション部分をポンポンと軽く叩く。叩かれたクッションは柔らかくニールの手を跳ね返す。


「ここにあるモノは……もともとあったものなのでよくわかりません。外からモノをこの部屋の中にモノを持ち込むことは可能なのです。ただ、この部屋にあるモノは外に持ち出すことはできないのです」


「まぁ、魔法がある世界だから……こういうのもあるのかな」


「そうなのです。魔法同様にオラクルには説明できないことが多くあるそうなのです」


「いや、しかしすごい能力だな異空間を自在に出現させる能力とは……しかも、物が運び入れることが出来て……移動とかも便利か。くっ、俺にもそんな力が欲しかった……と。それで俺が聞きたいことは少し収まった。今度は俺に話を聞きたいことがあるんでは?」


「いえ、貴方がどこかの組織属しているようなら、そこでの話を聞きたかったのですが」


「つまり、用済みになった?」


「いえ、そういう訳ではないのです。逆にどこにも属していない貴方は『呪術』に縛られていないということになるのです」

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