第82話 天命(オラクル)
舞踏会も半ばに差し掛かった頃。
つまらなさそうにカトレアが一人でダンスホールの壁に背を預けて立っていた。
そんな彼女に向かってスタスタと歩いてくるニールの姿があった。
「俺に話があるんじゃないか?」
突然、ニールに声を掛けられたカトレアはビクンッと体を震わせて、声を掛けられた方へと視線を向ける。
「……わ! ああ、貴方! 突然。気配とかないのですか!」
「気配を絶って近づいているんだから当たり前だろう」
「なんですか? こ、殺し者なのですか?」
「人を殺したことはない。それより……何か話があるんじゃないか? それとも、ダンスを踊りたいという訳じゃないだろう?」
「男とダンスなんて嫌なのです。アレは分かりやすく伝えるためだったのです」
「……ここは人の視線を集めやすいから場所を変えたい」
「分かったのです。ちょっと場所を変えて話をするのです」
カトレアがダンスホールの出入り口へと向かって歩きだした。ニールも視線を一回巡らせるとカトレアの後に続く。
ダンスホールを後にしたカトレアとニールは授業がやっていないため人気のないセントアーベル魔法学園の教室棟を歩いていた。
ニールはどこまで行くんだと内心思いながらきょろきょろと視線を巡らせている。
「……リリアお嬢様の護衛から離れているんだ。手短に済ませたいんだが」
「分かりました。ここまでくれば人の目もないのでしょう」
「ずいぶん前からないけど」
「そうなのですか? まぁ……いろいろ話を聞きたいので私も秘密を見せるのです。慎重にならないと駄目なのです」
カトレアは壁の前で立ち止まった。
そして、どこから出したのか? 金色の鍵を取り出した。
その金色の鍵は十センチくらいの長さで、手持ち部分がハートのような形、鍵の先端部分はアルファベットのEの形をしている鍵であった。
カトレアが不意に持っていた鍵を壁に突き刺した。
「オラクル発動……【ソフィアの扉】」
壁には鍵穴などなかったのだが、壁に鍵を突き刺した瞬間……何もなかったはずの壁に扉が出現した。
突然現れた扉にニールは驚きの表情を浮かべる。
「……っ!」
驚きの表情を浮かべるニールを気にすることなく、カトレアは鍵を回して……カチャカチャと音を鳴らし、出現した扉を開く。
鍵を鍵穴から引き抜いて、扉のノブを握ってニールへと視線を向ける。
「さあ、中に入るのです」
カトレアが扉の中へと入ることを促した。しかし、ニールは状況を呑み込めずに固まっていた。
「……」
「誰かが来たら困るのです。さっさと入るのです」
ニールはカトレアに促されて、扉の中へと入っていった。
「ここは」
ニールはカトレアが出現させた扉の向こうに入ると、驚きの表情を浮かべた。
ニールの目の前には誰の部屋なのか分からないものの、日本では一般的なアパートの一室が広がっていた。
小さな玄関で靴を脱ぐと手狭なキッチンスペース、ユニットバスが両脇にある短い廊下をスタスタと歩いていき、六畳の部屋へと中へと入っていった。
六畳の部屋には必要最小限の家具、目を引く壁に貼られたニールにも見覚えがあった女性アイドルの大きなポスター、本棚には漫画やCDが並び、ベッドには等身大と思われる女性アイドルの抱き枕が置かれていた。
ニールが六畳の部屋をキョロキョロと見回した。ニールの後から入ってきたカトレアがニールへと声を掛ける。
「どうなのですか?」
「こ、ここは日本なのか?」
「分かるのですね。お姉様は貴方からヒントをもらって【ファリスの氷剣】を完成させたと言っていましたが……元地球人で。しかも、日本人なのですね?」
「そうなことより! あの扉は……地球に繋がっているのか?!」
ニールは振り返ってカトレアへと近づき……カトレアの肩をガシッと掴んで声を荒げた。
ただ、カトレアは顔を青くしていき、体をよろめかせる。
「う、見た目は完璧に女の子だから……アイツより大丈夫かと思ったのですが……やっぱり男……離れて欲しいのです」
「あ、悪い」
ニールがカトレアの肩を離した。カトレアは後ずさるようにしてベッドへとちょこんと座った。
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