第79話 きっかけ。

 微かに顔を赤くしたニールはふうーっと長く息を吐いた。


 そして、平常心……平常心……と小さく呟いた後で自身の体をまさぐっていたエミリアへと口を開く。


「な、なんなんですか。まったく。突然体をまさぐって、突然がっかりして」


「すみません。見た目があまりに可愛い女の子だったので取り乱しました」


「エミリアさんの女性好きは知っていますが……すごく気を付けた方がいいですよ? 仮に女性同士だろうと襲うのは犯罪ですので」


「はい……」


「それで離してもらってもいいですかね?」


「そ、そうですね」


 ニールの体に抱き付いていたエミリアはニールから離れて、少し距離を取った。


 ニールは乱れたメイド服を整え始め……すると鏡を通して自分の状態を直視することになる。


 はぁーこうしてまじまじとみると、本当に綺麗な女の子である。


 ていうか、全くの別人だろう……これ。


 化粧によるものか?


 昔、雑誌で付き合い始めた女性が化粧を落とすと、別人過ぎてびっくりしたなんて内容を読んだことがあるけど。


 納得だな。化粧は人を化けさせる。


 男が女になれるくらいなんだから。


 いや、化粧の力という訳ではないか?


 もともと女顔よりの中性的な顔立ちだった。


 思えば……顔の作りは変わったものの前世でも女顔だったんだよな?


 ずっとそうだ。


 イケメンなどとまで贅沢は言わないが……どうせ、生まれ変わるのならもっと猛々しい男っぽい顔に生まれ変わりたかった。


 ……女顔の所為で前世……小学生の時にイジメられていた時期があった。


 小学生のイジメだ。


 教科書や体操着、靴を隠されたり、落書きされたり……SNSで書き込んだりする程度の可愛いものだった。


 まぁ、その時……俺ではなく涼花の方がキレて、イジメの証拠を学校ではなく、警察に突き出し社会的に抹殺してしまったが。


 懐かしい。懐かしいな。


 そう……だ。


 その時からだったな。


 周りの目を気にして生活するようになったのは……。


 ニールは鏡に手をついて、視線を下げた。


 ニールの様子がおかしいことに気づいたエミリアが声を掛ける。


「どうかしましたか?」


「いえ、なんでもないです」


 ニールは付いていた鏡から手を放した。そして、エミリアへと視線を向け首を横に振った。


「そうですか? では、他の可愛い服も試してみましょう」


「え?」


「他にもっと似合う服があるかも知れませんよ」


「ええ……まだやります?」


 その後……ニールはエミリアに着せ替え人形にされたのであった。

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