第78話 七カ月。
悠李がニールの体に転生して七カ月。
ここはリリアの自室。
魔法学園から帰ってきたリリアが本を読みながらソファに座ってくつろいでいた。そして、ニールが紅茶の準備をしている。
不意にリリアが本からニールへと視線を向けて口を開く。
「ねぇ、ニール」
「はい。なんでしょう?」
「……ニール、メイド服を着てくれる?」
「……ん?」
「メイド服を着て欲しいの」
「んん?」
「実は今度ね。魔法学園で舞踏会があるんだけど。ちょうどエミリアの休息日と被っていたのよ」
「いや、えーっとメイド服を着る必要はないのでは? この見習い執事の服とかではダメなのですか? この見習い執事服がちょっと着古しているのを気になるのなら、新しいのを買ってきますが?」
「ニールがメイド服を着る必要があるの」
「……」
「それがね。アーレスパーティーの後にお父様に表で男性であるニールと一緒にいることは禁じられてしまって。じゃ、ニールを女の子に見せるしかないじゃない?」
ニールは紅茶の準備をしながらも、返事できずに黙ってしまった。
なぜ?
いや、お館様が男である俺がリリアお嬢様と一緒にいることは嫌っているのは以前からわかっていたが。
それで、メイド服を着ることになるのか……。
え? ちょっと待って?
ん?
表に出る時?
んん?
リリアお嬢様と一緒に?
んんん?
何かに気づいてしまったニールが紅茶を準備する手を止めた。そしてリリアへと視線を向ける。
「え、ちょっと待ってください。表に出る時? リリアお嬢様と? つまりはアーレスパーティーとか護衛の時にもずっとメイド服を着ることに?」
「そういう言うことにことなるかなぁー」
「そ、そんなぁ」
「ちょっと待って……普段から可愛い服とかを着て、いざという時にボロが出ないようにした方がいいかしら?」
「え? ずっとメイド服? いや、ずっと女装? ずっとスカート? それはさすがにやめません?」
「そう? 私、ニールのメイド姿も好きよ? すごーく可愛いわ。私ね? ニールを弟みたいに思っていて……弟が出来て嬉しかった。けど可愛い妹も欲しいと思っていたの」
リリアが上目遣いでニールを見上げた。
リリアの目を見たニールは「うぐっ」と小さく声を漏らした。そして、『その上目遣いは卑怯ですよ』と心の中で思いながら大きくため息を吐く。
「分かりましたよ。ただ、普段は男の恰好をしますから」
「ほんと? 今度、可愛いメイド服を含めて可愛い服とウイッグをいっぱい買いに行きましょう」
こうして、ニールが渋々メイド服を着ること了承したことで……その日からエミリア監修のもと女性の所作や言葉遣いについて学ぶことになるのだった。
翌々日。
ここはエミリアの自室であった。
エミリアにメイド服を着させながらニールはため息をこぼす。
「はぁーまさか、俺が再びメイド服を着ることになるとは」
「ニール……何度も言いますが俺ではなく私でお願いします」
「分かりました。すみません」
「ちょっとまっすぐ鏡の前に立っていただけますか?」
「……はい」
ニールが鏡の前に立つと、その鏡には見事なまでの美少女メイドが映り出されていた。
もともと可愛らしい女顔よりの中性的な顔立ちであるのだが、軽く化粧され……。
少したれ目ながら、ぱっちりとした大きな瞳。
ぷっくりとした柔らかげな軽く紅をさされた唇。
ここまでは前にメイド服に着替えた時と同じだが……今回はそれだけではない。
ニールの髪はもともと珍しい白に近い金髪。
それに合わて、買われた背中に付くほどに長いウイッグがふわりと揺れて美しく輝き……女性らしさをより際立たせていた。
それは……まさしく可憐な美少女そのものであった。
エミリアはニールの後ろに立つと、指示を出していく。
「内股がいいですね。少しだけ猫背がいいですね」
「はい」
「もう少し柔らかく笑みを浮かべてみてください」
「はい」
「あ。胸。まぁ、胸がなくても私は好きですが……女性の価値は胸の大きさがすべてとほざくクズな男もいると聞きます。多少あった方が問題はないかと。今度、胸のパットを買いに行きましょう」
「胸か……はい」
「うん、いいですね。うん、すごく可愛いですね」
エミリアはニコリと笑みを浮かべて、鏡に映っているもはや女の子と言ってもいいであろうニールの姿を見ていた。
対してニールはどこか苦々しい表情で自身の姿を見ながら口を開く。
「それはどうも……ありがとうございます?」
「……」
「えっと」
唐突に黙ったエミリアにどうしたのだろうと首を傾げたところで。
ニールの姿を目にしていたエミリアの顔が徐々に赤みを帯びていく。そして、唐突にガバッとニールを背後から抱きしめ、頬ずりを始める。
「あぁ……ニール。あぁニール。本当に可愛いわ」
「な、どうし……はう……やめ……ひゃう」
ニールがどうにも情けない声を上げた。
それはなぜか?
エミリアの手がメイド服の中に滑りこんでいって、ニールの体を弄り始めていた。
ただエミリアの手は……シャロンによって鍛えられ固い筋肉へと成長していたニールの肉体に触れたところでピタリと止まった。
エミリアはあからさまに残念そうな表情を浮かべる。
「本当……ニールは女の子に生まれてこればよかったのに……」
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