第71話 六カ月。
悠李がニールの体に転生して六カ月。
まだ少し残暑があるものの、だいぶ過ごしやすくなってきていた。
季節が秋へと近づいてきているのが実感できる。
ウィンズ子爵領から王都マタールへ帰ってきたニールはリリアのお世話係として働きつつ、休息日には冒険者活動と大変忙しい日々を送っていた。
「トゥートゥトゥトゥトゥトゥトゥトゥルルルル~トゥートゥトゥ~」
この日、ニールは小さく鼻歌を口ずさみながら、王都マタールにあるウィンズ子爵のお屋敷にて廊下をモップで水拭きしていた。
しばらくモップ掛けをしていたニールであったが、モップの動きと鼻歌を止める。そして、まだまだ続く廊下を見据え、思わず息を漏らす。
「……ふう疲れた」
終わる気がしない。
……相変わらず、永遠に続くのではと思うほどに長い廊下である。
一人でやる量じゃない。
ウィンズ子爵領のお屋敷に比べて王都のお屋敷は分館扱いだから人員が少なすぎるよなぁ。
もう少し人員が欲しいなぁ。
……まぁ、人員が多すぎてもいろいろ人間関係が複雑になって面倒か。
「……っと長々と休んでいる時間はない。今日中に終わらなくなってしまう」
首を一度横に振って、廊下のモップ掛けを再開した。
再開しようとした直後、唐突に右腕の筋肉にピキッと鋭い痛みが走り、表情を歪める。
「っ! イタタ……昨日の冒険者活動での疲れが腕にきているな」
ニールはモップの持ち手を変えて、モップ掛けを続行していく。
筋肉痛が酷いな。
アーレスパーティーで長く休んでいた影響で溜まっていた指名クエスト……頑張って消化しているもののまだまだ無くならない。
冒険者ギルド内で聞こえていた変な噂……やれ、不正行為しているわ。やれ、貴族に媚び打っているわ。やれ、女を誑し込んでいるわなどなど。
長く休んでその噂も収まっているようだったのに……冒険者活動を再開したら、また変な噂も聞こえてくるようになってきた。
そんな噂が流れているのに関わらず、パーティーに誘われることは増えてきた。
女性冒険者だけのパーティーに誘われることは前からあったが、悪意を感じる人達からのパーティーに誘われるとこも。
前者は……ハーレムと言うヤツなんだが。
俺にそれを維持など出来る度量はないだろうし。
女だけのパーティーに俺一人加わるのは居づらいだろうし。
ジェシカさんは反対していたし。
後者はおそらく俺が指名クエストをもらっている貴族に取り入られたいとか?
もしくは……何だろう?
金でも奪いたいとか?
それか魔物の領域に置き去りとか?
うわーありえそう。やっぱり妬み嫉みは厄介だからな。
俺は剣の稽古のおかげで……剣術自体は良くなってきているようなのだが。
なんでか、身体能力……特に体力はなかなか向上してくれないんだよな。
筋トレにランニング、剣の稽古など鍛えているんだけど貧弱のままである。
剣の稽古中に何度体力が切れて倒れたか……もはや数えるのをやめている。
つまり、貧弱な俺が魔物の領域に置き去りにされたらどうするか?
考えただけで恐ろしいが……。
人間相手ならともかく、魔物相手で戦えるのか?
魔物……倒されたヤツならたまに冒険者ギルドで見かけるものの、まだ生きているヤツは見たことがないんだよな。
気配と消して、探って地道に魔物の領域からの脱出を試みるのがベターかな?
けど命懸けだなぁ。
そんなくだらないことで命なんて賭けたくない。
んーやっぱり噂が完全に風化するまで……冒険者は休み。
現時点で懇意にされ指名クエストまで定期的に貰えるようになった皆様達には事前に連絡しておかないと……いつまで経っても休めない。
……冒険者を休みにしたら何をしようか?
とりあえず、文字の読み書きくらいはできるように……図書館に籠るのは確定として他は?
どうしようかな?
そう、バザーで何か売り出す? どんな商売をしようか?
◆
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