第65話 血吸。

 女性の店員はブツブツと呟きながらカウンターの奥の部屋へと入って行った。そして何かガサゴソと探す音が聞こえてくる。


「えっと、数打ちのナイフで構わないんだが……」


 しばらくして女性の店員は奥の部屋から、一見なんの変哲もない一本のナイフを持ってきた。そして、ニールの前に突き出した。


 そのナイフは五十センチ前後の長さで、ナイフというには大きく。


 一見なんの数打ちのナイフと特に変わったところはないが……よくよく近くで見ると鞘に二センチほどの穴が開いていたり、塚に龍の掘り込みがうっすらと施されているのが見て取れた。何よりも……。


「これがいいな。これ以外ない」


「このナイフは?」


「それは『血吸』と呼ばれる仕込みナイフ……鞘のここの穴に毒を流し込んでやると、ナイフの刀身全体に毒が程よく染みわたるようになっている。さらにナイフの刀身の方にも細かい細工がされていて……毒が浸透しやすく、保ちやすくなっている」


「ど、毒ですか」


「毒と言ってもいろいろあるだろう。痺れ薬とか睡眠薬とか」


「つまり、鞘に入れるモノを目的に合わせて変えることができると。俺の戦闘スタイル的に言うなら足を切り裂くのに加えて動きを封じることが出る……」


「そう言うこと……ってこんな物騒なナイフをガキに進める私はバカだな」


「確かに」


「うるせ。それで、どうするんだ?」


「どうするって……予算内に入っているの? 高くないの? そのナイフからも微かに気配見えるよ?」


「いや、全然入ってねーが」


「それ、ダメじゃない?」


「疑って悪かったってことで、これに数打ち二本を付けて大銀貨二枚にしてやるよ」


「お姉さん……商売下手くそなの?」


「うっるせ!」


「大丈夫なの? 実はめちゃくちゃ高いヤツじゃないの?」


「ふん、ガキがそんなくだらないこと、気にしてんじゃねーよ!」


「すみません。すみません。では、言葉に甘える……ありがとう」


「うるせー。うるせー」


 女性の店員は照れたのか……顔を少し赤くして、カウンターの奥の部屋へ入って行ったのだった。


 それから、いくつかの数打ちのナイフから二本を選んで……血吸を含めて三本のナイフの会計を済ませたのであった。


「じゃ……また」


「待てよ」


 会計を済ませて店を出ようとしたニールを女性の店員が呼び止めた。ニールは振り返って答える。


「え? 何か?」


「ガキ、名前は?」


「……ふふ、名前を聞くときは自分で名乗ってかららしいよ」


「ふん、シャロンに聞いてねーのかよ。私はこの店の店主であるストーリア・コダードだ」


「俺はニール・アロームス」


「ニールか分かった。いいか、武器は売るが……十分に気を付けるんだぞ」


「ありがとう。それじゃ」


 小さく笑ったニールはストーリアに向けてペコリと頭を下げる。そして、武器屋を後にするのだった。

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