第21話 冒険者ルイス。
ニールとイザベルは急ぎ、イザベルの弟が待っていると言う食べ物屋へと向かうのだった。
食べ物屋……子鹿亭に入店するや、少年から不機嫌そうな声が上がる。
「おせぇーよ。姉ちゃん」
ニールとイザベルは店員に断りを入れて、声を掛けてきた少年が座っている席に近づいていく。
声を掛けてきた少年はニールよりも十センチほど背の高く百五十センチ弱。
我の強そうな顔立ちでありながら……どことなくイザベルに似ていて、青い瞳、茶色の髪を短く切っていた。
「ごめん。ごめん」
イザベルが謝りながら声を掛けてきた少年に近づくと……イザベルの服装を目にして声を掛けてきた少年が驚きの表情を浮かべる。
「……ってどうしたんだよ? 姉ちゃんその格好、着飾って変なのぉ」
「い、いいでしょう? 私だってたまにはこういう服を着るわよ」
「ハハ」
「笑うなぁ! 馬鹿ルイス!」
イザベルと声を掛けてきた少年……ルイスは兄弟喧嘩を始めた。
ニールはイザベル……兄弟であるルイスと話していると印象がかわるなぁと考えながら、二人の間に立って仲裁に入る。
「まぁまぁ、店に迷惑だから」
「そ、そうだね。ニール君、そっち座ろうか」
ルイスの腰かける椅子とテーブルを挟んで対面する椅子を指さしてイザベルは、ニールと共に座る。
椅子に座ったニールを目にしたルイスが口を開く。
「ん? そいつが前に話していたニールか?」
「こんにちは。俺がニール・アロームス。イザベルさんと同じ職場で働いている」
ニールが軽く自己紹介すると、ルイスは小さく笑う。
「ふ、なんかナヨナヨしている奴だなぁ」
「な、ニール君になんてことを言うの! 馬鹿ルイス!」
ニールではなくイザベルがムッとした表情を浮かべて、ルイスに抗議した。
また、イザベルとルイスの兄弟喧嘩が始まりそうなのを察したニールはイザベルの服を引っ張る。
「まぁまぁ、ナヨナヨしているのは本当だから。それよりも冒険者について教えてほしい」
「良いぜ。何が聞きたいんだよ」
「えーっとまずは冒険者ってどんな仕事があるの?」
「ん? どんな仕事か? 依頼……クエストがあればなんだってやるぞ?」
「例えばどんなクエストがあるの? 危ないクエストとかあるの?」
「ふん……D級冒険者の俺は危ないクエストなんてやりたくても、やらせてもらえねぇよ」
ルイスはブスッとした不満げな表情を浮かべた。対するニールは驚きの表情を浮かべて、更に問いかける。
「え? そうなの?」
「あぁ、危険なクエスト……つまり金になるクエストはまだ下っ端にはやらせてもらえないんだよ」
「そうか。冒険者も信用が必要になってくるんだ……じゃ、ルイスはどんなクエストをしているの?」
「俺か? 俺は魔物が出て来ない森に入って、狩りや薬草を取ってくるクエストを受けているぞ?」
「一人で? 魔物が出ないとはいえ、森に行くのは危なくない?」
「パーティーメンバーと一緒に決まっているだろ?」
「へぇ、パーティーメンバー?」
「俺はダチと『シルバーベル』ってパーティーを組んでいる」
「おぉ、名前、カッコいい」
「お、わかるか? わかるか? ハハ、何日も考えたんだよ」
パーティー名を褒められたからか、急に上機嫌になったルイスはズイッと身を乗り出した。対するニールは若干引き気味になりながらも頷く。
「う、うん、そうなんだ」
「ナハハ、そうか分かるか。なんか食うか? 奢ってやる」
上機嫌で高笑いしているルイスに対して、それまで黙ってルイスとニールの会話を聞いていたイザベルが口を挟む。
「名前倒れにならないと良いけど」
「な、なる訳ないだろう! 俺はS級冒険者になってやるんだから」
「けど、そのパーティーメンバーはあの二人でしょ? S級冒険者なんて……やっぱりお父さんの伝手でどこか」
「伝手なんて使わねぇーよ。俺は冒険者で……ガッポガッポ金稼ぎまくるんだ」
「心配してあげているのにぃ」
「ふん、心配なんていらねぇーよ」
「もう知らない」
口喧嘩をしていたルイスとイザベルは互いにフンッとそっぽを向いた。
その時、ニールはフッと笑いだした。
ニールが笑ったことにルイスがムッとした表情を浮かべて問いかける。
「何、笑っているんだよ?」
「……悪い。悪い。いや、なんだかんだ言って仲のいい姉弟だなぁって思って」
「な、どこに目が付いているんだ。仲がいい訳ないだろう」
「な、仲良くなんて……」
ルイスとイザベルはほぼ同時に、ニールの言葉に対して否定を口にした。
二人に否定されてしまったもののニールは首を傾げる。
「そうかな? 仲良しに見えたけど」
「ふん、本当に見えたなら、病院に行った方がいいぞ」
鼻を鳴らしたルイスはテーブルにおいてあった木のカップを手に取って、水を飲みほしていった。
「まぁ、そう言うことにしておく」
「分かったならいい」
「それで……冒険者の話を戻すけど。若手には危険が少ないクエストが回されるのは分かったけど。冒険者になるにはどうしたらいい? 何か必要なモノはあるの?」
「必要なモノ? そんなモノないぜ。体一つでギルド会館に行って、説明を受けて……ギルドカードを作ってもらったら。それで冒険者だ」
「え、ギルド会館に行くだけなんだ。冒険者になるのはお金とか身分証とかいらないの?」
「あぁ、いらないぜ。身分なんて関係ない超実力主義だからな、冒険者ギルドってのは」
「なるほど。なるほど……」
「ところでお前も冒険者になるのか?」
「……一応、休息日に少しやりたいと思っているんだけど」
「んあ? 一日だけか?」
「そう。一日だけだから……おそらく他の人と組めない。そのパーティーとかには入らずに、一人で活動したいんだけど……できるのかな?」
「ソロで冒険者活動か……なかなか稼げないぜ? なんせ、魔物のいない森で動物を狩りするクエストすら回してもらえないかも」
「じゃ、どんなクエストが回されることになるのかな?」
「溝掃除や草刈り、買い物など……基本的に街中でやれる雑用系のクエストだな。まったく、金にならねぇの……銅貨十五、十六枚ってところだぞ?」
「銅貨十五、十六枚……なるほど……むしろ、そのくらいがいいな」
ニールは顎に手をあてて考えるような仕草を見せた。
「おいおい、一日働いて銅貨十五、十六枚って……悲しすぎるだろ。そんなんじゃ、二食分にしかならねぇーよ」
「んー危険なく稼げるならそれでいい。いや、いろいろ話を聞かせてくれてありがとう。先輩」
「!? せ、先輩……だと」
ルイスはダンッと勢いよくテーブルに手をついて、椅子から立ち上がった。そして、顔をグイッとニールに近づけた。
「え? 何か間違った?」
「いやいや、間違ってねーよ。全然間違ってないぜ。ふふ、後輩! 困ったら何でも俺を頼るといい! 腹が減っただろう? 奢ってやる。オッチャン、注文!」
先輩とニールに呼ばれたのが相当に嬉しかったのだろうルイスは店員を呼び止めると、食べ物、飲み物を注文していった。
その様子を見ていたイザベルは心配そうな表情を浮かべて……小さくため息を吐く。
「もう調子だけはいいんだから。ニール君、ルイスに何かあったらすぐに私に教えてね?」
「ハハ……分かった」
ニールは苦笑しながら頷き答えた。
その後、ニール達の前には大量には運ばれてくる。
料理の量にニールとイザベルは絶句しながらも、なんとか片づけて……お腹いっぱい過ぎて歩くのも苦しい状態になりながら帰ったのだった。
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