16話 まだまだゴールデンウィーク

はふりんご「優太先輩、写真ありがとうございました! いいないいなあ別荘。今度は私とも一緒に遠出しましょっ」


M,Yuta 「うん。お土産いっぱい買ったから、帰ったら渡すね」


はふりんご「せっかくの連休、会えなくて寂しいですぅ……というより新人の私がシフト入りまくっているのですが、そこのとこ、どうお考えですか?」


M,Yuta 「すみませんでした」


はふりんご「しかも女の子ばっかりの旅行。さぞ先輩方はお楽しみなのでしょうね。むっきー!(憤怒)」


 5月3日月曜日、駅のロータリーにて。スマホから顔を上げて見ると、到着したバスの車内にはまだ人が乗っていなかった。運が良い。どうやらここが始点だったようである。


「はーいっ。まどっちゃんはウチの隣ね! 窓側どーぞどーぞ」


 先頭に並んでいた僕達はバス後方の、空席だった内の、2席が縦に並んだ合計4席を見つけて我先にと足早に。朝から全開フルマックスな理夢は、億劫そうに眉間に皺を寄せる円香を手招く。そうしてさっさと着席した2人の後部座席に、消去法的に僕と美央子も素早く腰掛けた。

 

 続々と押し寄せる人々、しかしまだ、少し時間が早いのかそれほどまでに混雑とは言い難い状況。座席は全て埋まっているが、まだまだ収納の余地を残す車内は圧迫感も強くない。


『ドアが閉まります。ご注意下さい』


 平坦なアナウンスの後に出発したバス。通学で使用しないがそれでも休日などには乗り慣れた乗り物。だが揺れる車内と新鮮な景色に、僕も最初は確かに、心が躍っていた。

 

 この別荘地は高原に位置し、夏は避暑地として多くの人々に親しまれているらしい。と言っても、それは恐らく昔の話かもしれないな。曲がりくねる山道、森林の中、舗装された道路を進む車窓から見渡して目立つ『売家』の2文字、錆びた看板。景色の壮観さはさておき、随所に散らばる盛者必衰の理は、何故だか僕の胸中をもの寂しい思いで埋め尽くす。


「優太、なーんか朝からずーっとLINEしてない?」


 早くもそろそろ景色に飽きたのだろう。前方に座る理夢が、その冷えた視線、どこか責めるような目付きを僕に叩き付けた。


「学校の後輩でバイト先の後輩。ほら、繁忙期にお休み貰っちゃってるから。そのお叱りを受けてるとこ」


 昨日の深夜。眠っていて気が付かなかったが、祝から『今何してますか』と『明日は暇ですか』などのLINEが届いていた。なんでもこのゴールデンウィークに僕などと遊んでくれる気だったらしい。しかしながら残念ながら叶わず血反吐の思いで『県外にいます』と忍びなく返し、起床から現在まで至るまで、区切りどころのないやりとりを続けているという始末である。


「にしても長くね。もしかして女の子なん?」


「うん。よく分かったね」


「やっぱり……もー、まどっちゃーんっ。優太がこんなハーレム旅行かましてるくせにまだ足りなくて女の子とLINEでいちゃついてるよー」


 失礼な。


「放っておいてあげて。優太はそうやって、好きな時にバイトを休めるよう手回しをしてるだけだから」


 前方窓際の席を占領する円香の口撃は、朝食後に受け止めるにはあまりに重く、捻った山道を行くバスの揺れよりも遥かに胃に衝撃を与えてきた。尤もこの様子であれば、本日は寝不足による頭痛及び吐き気、発熱や倦怠感などの症状は皆無らしい……良かった、じゃない、全く失礼な奴らめ。


「駄目だよ円香ちゃん。そんなこと言っちゃ可哀想」


 僕の右隣窓際で日の光を浴びながら、慈愛溢れる微笑みを浮かべる美央子を少しは見習ったらどうだろう。


「もし本当だとしても、それなら私達と一緒にこうして出掛ける為にしてくれてる事、でしょ?」


 いやでも、結局そのフォローだと僕が『手を回している』のが事実になってしまっている気がするのだが……気のせいかな? あれ、何か涙が。


「あっそ……昨日あんなに胸糞悪い怪談で怖がらせて楽しんでたのに、今は随分ポジティブな捉え方で結構」


 円香は美央子の渾身の気遣いにも軽く鼻を鳴らし、僅かにこちらへ傾けられた横顔は口角の端がが上がっているのが見えた。仮にも連休中に、こうして泊まりがけで旅行に来て、今から共に観光地に向かおうとしている集団とは思えぬ殺伐とした雰囲気、会話。


「ふふっ。円香ちゃんも怖がってくれたんだ?」


 しかし美央子のカウンターは、円香にとって予期せぬ一撃だったらしい。緩んでいた口元はキツく締め上げられ、後頭部からでも、きっと今頃眉間に思い切り皺を寄せているに違いないと分かる緊張を感じる。そうして円香が言葉を詰まらせた一瞬、沈黙は『怖がっていた』証拠であり肯定だった。


「別にちょっと……アレだっただけで怖いとかないし」


 それを自覚してしまったからこそ、視線を切った円香はこんなにも漠然とした、ほぼ意味不明な言い訳くらいしか手段が残されていなかったのだろう。どうやら普段僕を悪態で追い詰める時の冷徹さは、対美央子には発揮されないようである。


「恥ずかしがらなくていいよ、まどっちゃん。ウチも超怖かったし。ほら、手を出して? 握ってあげる」


「一緒にしないで。いらない」


「いやひどすぎな?」


 うん、えー、アレだ。噛み合っているようで噛み合っていないような、お互いを尊重しているようでそうでないような絶妙な関係だ。色々と懸念材料には事欠かないメンツであるが、悪くない集団にも思える。無愛想でコミュ障の円香を理夢が中和し、そんな2人を美央子が天真爛漫に突き刺す。トリオとして完成された構築。側から見ている分には寧ろ僕が邪魔者に……まあ、仲が良いのは良い事だよね?


 そうして色とりどりの小ボケ大ボケツッコミを、半ば傍観者気分で鑑賞し、到着した目的地。バスを降りると、行き交う人々の群れに対して送られたであろう円香の深い溜息が聞こえて来た。


 一本の巨大なストリート。そこかしこに植えられた、春らしい青々とした木々とは別に、道のその先に見える雄大に聳える山々が、壮大かつ暖かな印象と畏敬の念を僕へ与える。和風今風、異国風から教会の形をした建物まで、並んだ店先から突出した幾つもの食に関する看板。甘い匂いや焦げた香ばしさが鼻先を擽る度に、先程朝食を軽く済ませた筈の腹の虫が騒いだ。事前調査によるとこの場所、昔海外より到来した宣教師が別荘を建て、その後多くの著名人や外国人が訪れるようになり、商店街と呼べる通りに発展したということらしい。アウトレットとはまた趣が違う。瓦屋根と隣接するアンティーク調や、四角形の近代さ、かと思えばまた木造の古めかしい建築。このような時代や文化入り乱れる特有で特徴的な景観は積み重ねてられた歴史からのものなのだろう。


 うん。まあ要するに昨日に引き続き今日も買い物と買い食いをするってことだね……だけど今日は円香がいる。昨晩の話し合いで『ここへ行こう』と提案したのは美央子だ。気が回る彼女の事、恐らくアウトレットに行けなかった円香を気遣い、同種の場所を選んだのだと思う。理夢もそれに大いに賛成した。


 しかしそんな優しい2人だけど、残念ながら重要な点を読み違えている。


「この場所を? 今から? 歩くの? 私が? え?」

 

 円香の混雑嫌いが半端ない事を。自分達の意識と考えの距離を見誤っているのだ。その証拠にほら、


「まどっちゃん、なんか食べたいものある?」


 歩みを進めた矢先、理夢がそう聞いた。


「並んでない店のやつ」


 答えた円香へ苦笑した理夢が「そ、そっか」とお茶を濁し、続いて口を開いたのは美央子だ。


「円香ちゃん、あの雑貨屋さん行ってみない?」


 彼女が指差した店は全体的に白を基調としていて、店先に置かれた観葉植物が心穏やかに目を惹きつけるこれまた素晴らしい外観の一軒。先程バス内にて円香に圧倒的優位を保っていた彼女であればと思ったが、


「皆が行きたいなら私は付いてく」


「あ、うん……円香ちゃんは何か欲しいものとかはないの? 私昔ここに来た事あるから案内出来るよ?」


「枕が違ってよく眠れなかったから錠剤のカフェインが欲しい」


「そ、そっか薬局、かあ。あったかなぁ」


 ここまでいくと最早可愛げを感じる傍若無人ぶり……ちゅーか本当にこの子はこの先大丈夫だろうか。クラスでいじめられたりとかしてないだろうか僕は心配で……これで2人も理解しただろうな。円香に友達が皆無な理由とか。人付き合いのド下手具合とか。


 珍しく表情を引き攣らせる美央子と、頭を掻きむしり苦悩する理夢……どうやらここが僕の出番で、幼馴染としての腕の見せ所らしい。


「ねえ、円香」


 幼少期からの付き合いである僕にしてみれば、彼女の機嫌を取るなど造作もないことだぜ……と、僕がどうにかして何かしらをしようと考えて声を掛けた瞬間、


「まどっちゃん、こっちこっち!」


「え、ちょ何」


 こちらへ振り向いた円香の手を、取ったのは理夢だった。


「みおっち、優太。ごめんちょっと2人で回ってて? ウチらはアレ乗って来るからさっ」


 指差した方面に目をやると、そこには二人乗りの人力車が一台、運転手と共に停車していた。


「いや、私」


「いーからいーから。こーいうのは乗ってから後悔するの!」


 そうして理夢は「後で連絡するねー」と円香の腕を強引に引いて、というか引き摺って人力車へ向かって行ってしまった。いやあ、そんな事をしたら円香は絶対超不機嫌になると思うけど……しかしなるほど。どうやら理夢は円香の『可愛げ』を、持ち前の『慌ただしさ』で解決しようとしているらしい。効果的かどうかは不安が残るが、どうだろう。僕には試す気にもなれなかった手段だが、試さなかっただけで、もしかしたらあの子の対人能力の開花にはその強引さこそが必要だったりしたのかな? いや、結果はどうせ後で分かる、か。何にせよこれは新しい試み。まさか人力車に揺られ運ばれていく神妙な姿の円香がお目にかかれるなんて夢にも思わなかったよ。理夢が居なければ今後一生無かっただろうな。


「楽しそうだね、優太」


「うん。だってあんな顔をした円香を初めて見たからね。でもちょっと寂しい気もする」


「寂しい?」


「美央子も去年で知ったと思うけど、あの子には昔から親しい友達が出来なかった。クラスメイトともそれなりに仲良くやってる時期はあったけど、やっぱりそれなりで、皆あの性格を知るとすぐに距離を置いてしまうんだよ。だから僕は……円香にああいう存在がずっと欲しいと思っていたんだ。でもこう、いざ直面すると寂しくもある。達成感と喪失感を同時に味わっている感触。もしかするとこれが、娘に『彼氏が出来ました』と報告された父親の気分に近いのかもしれない」


 撫で下ろした胸にぽっかり穴が空いたような、そんな悪くない気持ち。


「優太がお父さん、かあ」


 小気味良い笑いが隣から聞こえて、向くと彼女は口元に指先を添えてはにかんでいた。その日差しに照らされた、どこか上品な振る舞いはこの風情ある場所に噛み合って溶け込んでいて、まるで絵画の一枚のようだと錯覚させられる。


「すごくあったかい家庭になりそう。テーブルでコーヒー片手に、絨毯の上でテレビを見ながら室内犬と遊ぶ子供を眺めてる。お母さんが洗濯を始めたら『代わるよ』って微笑む、そんな光景が簡単に想像出来る」


「おっと、その話の続きは絶対怪談にしないでよ?」


「ふふっ、しないよ」


 恋人を作るつもりすら皆無なのに、ポロッと溢れた一言からいきなり子持ちまで発展するとは全く恐れ入る……それにしても子供、か。将来設計について考えた事がない訳じゃないが、選択肢からはいつの間にか消していたっけ。


「美央子はきっと良いお母さんになるね。いつも笑顔で優しくて、でも時々恐ろしい話をするもんだから、家族は誰も君に逆らったりしないだろうし」


「むっ、ひどい」


 説教の代わりとして教訓を『怪談』で伝えるのは、『夜に口笛を吹くと蛇が出る』などよくある教育方法。怒鳴るよりずっと美央子らしい手段だと思うのだが、どうだろう。彼女の場合やり過ぎでトラウマを植え付ける光景は想像に難くないけど……というか道の真ん中で突っ立ってるのもアレなので、未来予想を適当に切り上げた僕達は「せっかくだから私達も」と観光する方針を固めた。


 まず向かったのは、先程彼女が指差した雑貨屋だ。白を基調とした外観の想像通り、店内もまた同じく白と緑が多い。清潔感と清涼感に溢れた空間、雰囲気、陶器など地元の工芸品やハンドメイトと思われる小物、衣類がそこかしこに。


「へえ」


 安いな。


 染め物を一つ手に取って、アウトレットとの違いに思わず声が漏れた。僕には審美眼なんて無いけど桁違い。出来や布地の手触りには遜色が無いように思える。改めて、ブランド品とは何かという哲学的な問いを自分に課してしまう程。であれば鞄類はどうか……これも安っ。2980円? お得過ぎるな。じゃああのコップは? 木製の食器は……いやいや、あまり商品に着目しているとまた彼女に『それ買ってあげよっか?』されてしまうからやめておこう。


「美央子は何か気になる物あった?」


 寧ろ先に聞いて買ってやろうか、くらいのテンションで声を掛ける。昨日は理夢の陽気さも複合したJKテンションについつい置いて行かれてしまったが、今日は2人きりだ。流石にアウトレットの悲劇は起きないだろう。


 そうして意気込んで見れば、彼女の視線の先には、何に使用するか用途の一切が不明な猫型の陶器がぞろりと並んでいた。


「これすっごい可愛いなあって」


 丸々と丸い猫が丸まったような陶器。一本の黒線で表現された目は和んでいるようにも思えたが、どこか太々しさも感じられる気がするが……まあ、これが可愛いのだろうな。


「『早く我輩を買うにゃ、美央子』」


「へ?」


「いやその猫がそんな感じの目をしてるなーって思ってさ」


「ふふっ、そうかな? グリザベラは『どうか私を買って下さい』って言ってるんだと思うよ? ね?」


 彼女は腰を折って僅かに屈むと指先で猫の額部分をツンっと。僅かに揺れて土台と音を鳴らした猫の表情は当然変わらないが、『何するにゃ』って言ってるみたいである。


「随分特徴的な名前を購入前に付けたもんだ」


 それからどうしてか、彼女は突いた指先を親指と擦り合わせる仕草をした。


「キャッツのグリザベラ。昔お母さんと舞台を観に行ったの。ずんぐりむっくりしてるからバストファージョーンズにも思えたけど、この子は多分、ずっと売れてない。だからグリザベラ」


 妙な行動に僕は思わず首を傾げたがなるほど。付着した埃の量を確かめる行為か。だから「売れていない」と……いやまあ、でも全然何言ってるか分かんないのだが。キャッツ? 


「って確かあれだよね、なんか猫が一杯出てくる演劇のやつ」


 やべ、全然会話についていけねえ。もう一年もクラスを共にする間柄だというのに。


「そう。グリザベラはね、昔はとっても綺麗で雄猫から人気の一匹だったの。でも今では老いてしまって、着ているコートもボロボロ。誰からも相手にされない可哀想な子、っていう設定の猫」


「へ、へえ」 


「ほら、この子にぴったりでしょ?」


 えへへと朗らかに笑う彼女の話は、その表情に見合わず皮肉的な内容だった。というかそもそも……1年前はこんな話をする子じゃなかった。内容もそうだが、相手が知らないと容易に推測出来る情報で会話をするような性格では無かった筈。もっと慎重に言葉を選び、簡易な表現を用いて、微笑みながら一歩引いた意見を立てる。それが皆の良く知っている美央子という人間。だが今はどうだ? 


「何だか変わったね、美央子」


 言うと彼女は僅かに見開いて、それからやはり少し笑い……手首の、僕が誕生日にあげたブレスレットを撫でた。


「うん……私ね、まあ去年の学園祭とかちょっとは色々あったけど、これでもずっと我慢してたんだ」


「我慢?」


「自分の意見や思った事を言えば、それがどんなに相手を考えた言葉でも傷付けちゃうかもしれない、間違ってるかもしれない。だってお父さんもお母さんも、いつもいつも、私なんかよりずっと正しかった。私なんかよりずっとずっと皆の方が優れているんだって」


 彼女は「でも」と続けた。


「優太に告白をしたあの日が初めてだった。初めて私は、私がしたいことを勝手にしたの……ふふっ、結果は失敗だったけどね」


「え、えーっと」


「全然。確かに凄く落ち込んじゃったけど……体は凄く軽くなって、春休みに婚約を破棄した瞬間にはそれよりもずっと良くなって、確信したの。自分の意見を通す事がこんなに嬉しい事だなんて知らなかったんだ、私」


 雑貨屋でするにはあまりにも真剣味のある話。しかしこれは、僕がこの旅行でどうしても知りたかった違和感の正体。そう思えば周囲の雑音は一気に消え失せていった。


「これは優太のおかげなんだ。優太を好きになっていなければ、優太がいなければ私はあのままずっと、誰かに思っている事を聞いてもらいたい、受け入れてもらいたいなんて考えもしなかったと思う。楽だけど、今なら何より辛いって分かる人生を選んでた。だからもう我慢しないって決めたの」


 なるほど。であれば彼女は確かに変わったのだろう……だがそれは人柄ではなく、表面と内面の割合の話。元々持っていた性質が顔を出しているだけ。しかしだからこそ、僕が混乱した原因となったのかもしれない。


「勿論優太にも、誰にも気持ちを押し付ける気はないよ? でもちょっとワガママで嫌な子にはなっちゃったかもだけど……どうかな今の私、イヤ?」


 忙しなく指先を絡めて、恥ずかしそうにもぞもぞ体を動かす彼女は告白の時そのものに近い様子だった。


「我慢せずに済むようになったのなら、それが一番良いよ。少なくとも僕は、君がありのままでいられる方が良いと思う」


「そ、そう? そうかな。えへへ……なら良かった」


 安堵した笑みを浮かべた彼女は、どうやら話が一段落したようで徐にスマホをポケットから取り出す。そして僕もまた太腿付近に振動を感じたので、恐らく理夢からほぼ同時に何か連絡が送られたのだろうと。確認すれば何枚かの写真が「人力車60分コース!! お昼にバス停集合で!!」というメッセージに添付されていた。そしてそこにはとんでもなくぎこちない表情でピースする円香と、隣に片手でハートの片割れを作る理夢の2ショット……なるほど、どうやら僕の娘はかなりお楽しみの最中らしい。


「昼、ね。思ったよりガッツリだ。円香が酔ってなければいいけど……まだ時間あるしそろそろ他の店も回ってみようか」


「うん。次は優太の行きたい店にいこ?」


「僕の行きたい場所で良いの?」


「もうっ、言ったでしょ? 私は我慢しないって決めたから、私は私が言いたい事を言ってるんだよ」


「?」


「だから、私は優太が行きたい場所に行きたいの。それで優太が楽しいなら私も楽しい。ほらね? 私は私の好きな事してる」


 何というか……これは、良い方向に変化したのかどうなのか。どうも欲望に忠実になったらしいが、屈託なく緩んだ表情や気品を感じさせる仕草から繰り出される、思わず心動かされそうになってしまう魅力的な発言は、数多の男性を虜にする魔性を孕んでいるように見える。小悪魔的で、魅力が増したようにも。


 これが素だというのだから余計に、アレだ。

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