月が追いかけてくる(明日・これで満足・冬)
身をつんざく寒さにマフラーを少しきつめに巻き直した。手袋をしていても、ダウンジャケットのポケットに手を突っ込んでいても、指先は冷たい。今日は今年一番の大寒波だそうだ。なんでこんな日に限って外にいるのだろうかと自問自答する。だからって寒いものは仕方がない。たまたまそんな日に当たってしまっただけなんだ。
歩いているとたまたまコンビニの灯りが目に入った。ありがたい。あったかい飲み物でも買おうと、自動ドアをくぐった。
缶コーヒーを手に取ってそのままレジに向かう。ついでに煙草も買った。ライターはいつも鞄の中に転がっている。深夜の店員はどこか気怠げで自分の鏡映しのようだ。他人から見た自分もこんなかんじなのだろうとぼんやり思って金を払った。
もう一度自動ドアをくぐると北風に押された。俺はすぐに缶コーヒーのプルタブを開け、喉が焼けない程度に冷ましながら飲んだ。缶を握る手もじんわりあたたまっていくのがわかる。むき出しの頬にも当てて、使い捨てカイロのようにあちこちで熱を感じた。
飲み干した缶コーヒーはそのままコンビニのゴミ箱へ放り込み、灰皿の前で一服して、灯りから逃げるようにまた夜道を歩き出した。
冬というのはどうしてこうも人を孤独にさせるのか。夜が長いからだろうか。暗闇が人を不安にさせるというのなら、いつまでも追いかけてくる月とはなんと皮肉なことか。逃げても逃げても付きまとわれて、それでも永遠に消えることはない。これが無常というやつならなんて厄介なのだろう。
それでも俺は闇の中を進む。目的地? そんなの俺にだってわからない。しいて言うなら、今ここに存在することが目的そのものだ。
そろそろ日が変わる。今日が明日になる。明日は今日になる。
それでいい。
俺はこのまま歩みを止めず、いつか自分の安息地を見つけるんだ。それがどんな結果になっても、ね。
充足感が足下から這い上がる。いいんだ、俺は満足してるよ。いい人生だった、ってね。
創作お題メーカーより 桜良ぱぴこ @papiusagi
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