当てが外れる


「おーす。ちゃんと振ってるかぁ?」


先輩がやって来た。手土産にプロテインとシェイカーをぶら下げて。


「マジで?!オマエ、持ってたの?!」


僕が先日、ネットで購入した「マイ・シェイカー」を見つめながら、ひっくり返りそうなほど驚く先輩。そりゃそうだろう。もやしっ子で紫外線恐怖症、「弱者の象徴」のような僕がプロテインを飲むなんて、想像できるはずもない。


「ちょっと嫌がらせしてやろうと思ったのに、まぁいいや。これからもしっかり振れよぉ!」


そう言いながら勝手に冷蔵庫を開けると、ビールをグビグビ流し込む先輩。



――いや、分かってる。あなたは僕を変えさせるために「嫌がらせ」と称して「ヒント」をプレゼントしてくれたんだ。いつだってそう、あなたは口では言わずに態度で示す人だった。今回だってそうに決まってる。



自ら手を出すことなど一生なかったであろうケトルベルの世界。それが僕自身を大きく変えてくれるだなんて、先輩がいなければあり得ないことだった。


「いざという時に助けてくれる人」っていうのは、困ってから助けてくれる人を指すんじゃない。僕が困らないように、道しるべを与えてくれる人を指すんだ。



僕もいつかこの人みたいになれるよう、これからもケトルベルを振り続けよう――。

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