胸の気持ちとグラス王とナルサス
「無事なんとかなったようですね」
「まあねー。これでも私は魔王の娘ですから! ところでそこの勇者は気絶してるの?」
「はい。聖女マリーとの戦いは苛烈を極めましたから。最後の一撃に全神経を集中させたのでしょう」
「それでセシアは零を殺してないんだ?」
「今はまだ私を道具と思っている王の殺害が済んでません。それが終わってから改めて考えます」
「ふーん……。さてはセシア、零に惚れた?」
「ほ……惚れたなんてことはあり得ません! 私と勇者は敵同士ですから!」
私は必死に否定する。
別に気絶した零を助けたのは零に惚れたからではない……と思う……多分。
大体こんな人類全員を殺すなんていう目標を立ててる奴に惚れるなんてどうかしてます。
姉さん願わくばこの心が少しぽかぽかしてくる感情の正体を教えてください。
多分絶対恋ではないと思いますから。
そんなことを考えながら私と魔族の娘は王の間へと走って向かっていた。
◆◆◆
「とりあえずここが王の間です。零を叩き起こすことも可能ですがどうしましょう?」
「んーたまには私がやろうかな」
「大丈夫ですか? 失礼ですけど前回戦った時はかなり力量不足に感じましたが」
「相変わらず失礼な奴だねー。私はこう見えてもそこそこ強いんだぞ?」
「心配ですのでついて行きます」
「いいって。それにセシア、君
「……バレてましたか」
「だって未来予知の
「わかりました。ただし零が悲しむので必ず無事に帰ってきてくださいね」
「勿論!」
こうして魔族の娘が王の間へと消えていった。
私の知っている限り王自体はさして強くはない。
ただ問題となるのが側近のナルサスだ。
奴は剣技の強さもさることながら闇属性魔法の
どうか無事に戻ってきますように。
私は人生で初めて神にそう祈った。
◆◆◆
私は王の間を奥へと進んでいく。
あんな啖呵を切った手前、無様に負けて帰ることはできない。
それに私達にはもう退路がない。
前に進むしかないのだ。
「こんな時の為に零と契約しといてよかった……」
私は零が寝ている間にこっそりと零が気絶している間に
勿論、事後承諾を取ったので問題はない。
零が主に普段使う才能は20の内3つだ。
全ての炎魔法が使える
全ての剣技が使える
そして強化や弱体化の魔法を使える
「本当に勇者って存在はずるいよねー」
私は思わず呟く。
普通は炎魔法の
例えば『炎の礼節を持って 飛び跳ねる火球を』。
これは《
普通の人間は《
だが零は別だ。
世の中に存在する炎魔法の
勿論、その分膨大な詠唱を覚えることが必要になるがそんなものは些細なデメリットでしかない。
剣技に関しても同様だ。
普通剣が使えたら他の武器は使えなくなる。
だが零は全てが使える。
これが勇者への神からの
私は気がつけば王の間の奥まで辿り着いていた。
「さてやりますかー!」
私は自分の頬を両手で叩き、やる気を上げる。
ここまできたらやるしかないのだ。
それが今の私の役目なのだから。
◆◆◆
「貴様が愛しのマリーを殺害した一味か!」
グラス王の前へと姿を現した途端に罵声が飛んでくる。
愛しのマリー……ね。
そのマリーちゃんが私の仲間に散々迷惑をかけてくれたんだけどそんなことは知らなそうだ。
「悪いけど話してる時間はないんだ。君には死んでもらうよ」
私は零から借りた強化の
『鼓舞の神よ 我に力を与えたまえ』
《
『炎の神よ 我に全てを燃やし尽くす 回る焔の一撃を』
《
前者は普通の強化魔法だが後者は違う。
自分自身の
「何故、貴様は3つも
「さぁ。何故だろうね」
私ははなから疑問に答える気はない。
狙うは首筋だ。
一撃で決める。
ゆっくりと炎を纏った短剣がグラス王の首筋へと迫る。
そして炎の短剣はグラス王の首筋を……跳ねない。
何かが邪魔をしてグラス王の首を切ることが出来ず私は困惑する。
人の首を落とすには十分な威力だったはずだ。
「グラス王困りますよ。僕のいないところで戦闘を始められては……」
王の間の更に奥から1人の痩せ細った病弱そうな男が出てくる。
見た目は正直弱そうだ。
だがあの一撃を止めたのがあの男だとしたら警戒しないといけない。
「おっと。お嬢さん、挨拶が遅れました。僕はナルサス。よろしく」
「これはご丁寧にどうも。私は……そうね。
「そうですか。では
刹那、ナルサスの姿が私の目の前から消えた。
———
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