打倒聖女マリーとホムンクルスの感情


 聖女マリーが俺の方へ何も持たずに走り寄ってくる。

 武器を持っていないというのは不気味だ。 

 何をしてくるか、どういう攻撃をしてくるのか。

 

「零! 下がって!」

 

 俺が聖女マリーの攻撃に身構えていると突然セシアが俺のことを蹴り後ろへと無理やり下がらせる。

 聖女マリーの拳は誰もいない空中を捉え、空中に穴が空く。


「あれはなんだ……?」

「ふふふ。これは聖女の誓いセイントウォールを手に全て集中させただけですよ」


 なるほどと俺は思う。

 全身に纏っているはずの聖女の誓いセイントウォールを手だけに集中して纏わせることで攻撃力を生み出す。

 不浄の存在に触らせない為の神の加護なら不浄の存在を消し飛ばす一撃を作り出すことも可能だということだろう。

 何か対抗する手段を探さねば一生追い回され、こちらの攻撃が通らない状態になりかねない。


「セシア、未来予知の才能ギフテッドで聖女マリーの行動を予測できるか?」

「それは……勿論。ただ未来を予知している間、動きが鈍ります。そこをつかれて狙われると無理です。しかしそれを守ろうと零が私を守ろうとしても勝てません」

「つまりもう1人必要ってわけか……」

「はい。ですが魔族の娘は外で防衛中ですし、もう1人のアテが我々にはありません。なので私の命と引き換えに未来を予知します。タイミングは拳に聖女の誓いセイントウォール全てを移した時です」


 これは俺も思っていた。

 聖女の誓いセイントウォールは確かに強い。

 不浄の存在というものを拡大解釈することで誰にも触らせない絶対的な領域を作り出すのと同じだ。

 噂では聖女という存在は攻撃的な才能ギフテッドを授かれないとされている。

 わざわざ守りに回しておけば絶対に触られることのない聖女の誓いセイントウォールを、攻撃に回すあたりその話は本当なのだろう。

 そして全ての聖女の誓いセイントウォールの力を拳に集約させているのであれば守りはないに等しい。

 そこをセシアの未来予知と俺の勇者の才能ギフテッドでつけば勝てる。


「よし。セシア、未来予知を頼む」

「はい。15秒後に右手が、その5秒後に両手に全ての力を集約させ勝負を決めにきます。そしてその攻撃から3秒後に全員死にますね」

「勝負は20秒か。わかった」


 俺は全神経を創造の才能ギフテッドで作り出した刀に集中させる。

 必中のカウンター。

 それが俺の狙いだ。

 攻撃してくるのがわかっているのならば攻撃してくる右手をすり抜け、5秒間間合いで待てばいい。

 刀と腕ではリーチも違う。

 ここで決める。


「じゃあ零君、消えましょうか!!!」


 きた。

 右の一撃。

 俺はこれを刀の唾でいなす。


「当たらない!?」

「どうした? 聖女さんよ。俺を消すんじゃなかったのか?」

「馬鹿にして! いいわ。全力でいかせてもらう!」


 聖なる力の雰囲気が両手へと集まる。

 聖女マリーの部屋だった場所はもはや崩れ落ち、原型を保ってはいない。

 俺はその不安定な足場を使って

 これは極東に伝わる才能ギフテッドの1つで、必中で必殺。

 放てば必ず決まる。

 だが発動条件が厄介だ。

 相手が自身の刀の間合いにいること。

 自分より相手の方が強いこと。

 最低この2つをクリアしないと打つことができない。

 そして普通は剣や刀を構え出した人間に不用意に近づく奴はいない。

 だが、相手が激昂していて価値を確信している場合は別だ。

 今の聖女マリーのように。


「愛しの零。私の零。ここで消えてください!」


 超質量を持つ、聖なる一撃が俺の横を掠める。

 それに対して居合の才能ギフテッドが発動した。

 確かに聖女マリーの聖女の誓いセイントウォールは強力だ。

 恐らく瞬時に拳から全身に力を戻せる自信もあるのだろう。

 

 この刀の前で瞬時などという遅さでは間に合わない。


『林崎流剣術 居合の型』


「しまっ……!」

「もう遅い。今まで傷付けた人間やホムンクルスの気持ちを想いながら後悔するんだな」


 俺の刀は目にも止まらぬ速さで聖女マリーの首を切り落とす。

 今回ばかりは手応えがあった。

 血飛沫が舞い散る。

 俺の勝ちだ。


「セシア、助かったよ……。俺ちょっと休むから後は任せた」


 こうして俺は戦いの消耗から気絶した。


◆◆◆


 私は悩んでいました。

 彼とは聖女マリーを殺すまでの関係。

 それが終われば殺し合う関係に戻ります。

 未来予知の元の持ち主や炎の魔法の才能ギフテッドの元の持ち主がずっと脳内で、零は殺すべきだと語りかけてきていました。

 今は聖女マリーが死んだので未来予知の才能ギフテッドや炎の魔法の才能ギフテッドは私の体から消えたのでそんな声もしないのですが、しかし事実として零は危険です。


「さて、どうしたものでしょうね……」


 私はすやすやと穏やかな顔で眠る少年零に顔を近づけました。

 別に愛しさを感じるとかそういうことではないのですが、他の人よりも美しい顔立ちが少しだけ気になったのです。 

 気がつけば私は零の額に口づけをしていました。

 何故でしょう。

 初めは愛しさなど感じていなかったのですが、見れば見るほど零の顔に愛しさを感じます。


「持ち主が死んだことで感情制御が壊れましたか……」


 私はそんな言い訳をし、もう一度ゼロの額にキスをしました。

 

「全く。姉さんが惚れたのも理解できます。零は人たらしならぬ、ホムンクルスたらしですね」


 そんなことを呟いているとどうやら外での戦闘も終わったようです。

 私には……いえ私達にはまだ目標があります。

 王を殺さねばなりません。

 私はその目標を達成する為に零を抱えて聖女の部屋の外へと足を踏み出しました。

 

 

——

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