聖女マリーとの対峙
「ねぇ、この服走りにくいんだけどどうにかならないの……?」
「そうは言ってもな……。俺は服飾に関する
「私は持ち合わせてますが、可愛いのでそのままでいいかと」
「可愛い、可愛くないの問題じゃないと思うんだけどなぁ……」
王城の地下水路を進む俺達は今のところは警備兵の1人にも合わず順調に進めていた。
元々セシアからの情報でも警備兵は殆どいない話だったので聖女マリー側に作戦は気づかれていないようだ。
俺はひとまずそのことにほっと胸を撫で下ろす。
もしバレていたら地下から王城へと入った瞬間に蜂の巣になりかねない。
「それで上に上がってからの作戦はあるのか?」
「零と私で聖女マリーを魔族の娘がそれの援護と一般兵の相手をお願いします」
梨花が聖女マリーの相手をできないのは当然だ。
魔族が聖女と対峙するとほぼ勝てない。
それは神からの
勿論、それは勇者もだが俺は少しだけ例外だ。
そんなこんなで梨花は聖女マリーの相手をするには少し厳しい。
ならば変身魔法を使った時の破壊力を一般兵に向けた方が効果は高いと言える。
「賛成だ。梨花には聖女マリーを相手にするより一般兵を相手にした方がうまく立ち回れるはずだ」
「わかった。幸い今は聖騎士団もぐちゃぐちゃのはずだからなんとかなると思う」
こうして作戦の決まった俺達は地上へと上がれる階段を見つけ、セシアの先導で登ることにした。
◆◆◆
「ここが王城の中……か」
「はい。ここは王城端の図書館内部です。ここから少し歩いた先に聖女マリーの部屋があります」
俺は思わず唾を飲む。
緊張からか期待からか。
いやこれは安堵かもしれない。
やっとここまで辿り着いた。
だが失敗は許されない。
ここまで辿り着いたからこそだ。
王都を滅ぼすには聖女マリーを殺さないといけない。
「……零、怖い顔してるよ。気持ちはわかるけど……」
「ごめん。遂な……」
「零の目標を達成するにはここで失敗できないもんね」
「おう」
「零はどんな目標があるんですか?」
「この世界にいる人類全てを滅ぼす。これが俺の目標だ」
「ふふっ。面白い目標ですね。姉さんがついていくはずです」
「セシア、お前エリシアのこと……」
「さてどうでしょう。とりあえず今は聖女マリーを倒すことに全力を尽くしましょう。ここですよ」
走りながら話していた俺達は気がついたら聖女マリーの部屋の前へと辿り着いていた。
ここが俺の追い続けた聖女マリーの住まう部屋。
俺は覚悟を決めて扉を蹴破った。
◆◆◆
「あらセシアと……勇者零ですか。随分と乱暴な侵入者さんですね」
「御託は良い。聖女マリー、お前には死んでもらう」
俺は魔法を詠唱する。
『炎を紡ぎ全てを焼き燃やし尽くす 剣となり 全てを焼き尽くせ』
《レーヴァテイン》
これは神をも焼き殺すと言われる炎の剣だ。
詠唱が終わった瞬間に部屋の空気そのものが重たいものへと変わる。
「あら……。久しぶりの再会だというのに穏やかじゃないですね」
「当たり前だろ。お前は自分でやったことを覚えてないのか?」
「勿論、全部覚えてますよ? 可愛い可愛い零君に呪いをあげたり、マルコスをけしかけたり。でも仕方がないじゃないですか。私、貴方が欲しかったんですもの」
無邪気な少女のように聖女マリーは笑う。
まるでこちらのことを嘲笑っているかのような態度に俺は苛立ちを募らせる。
少し話を聞き出してから切ろうと思っていたが我慢の限界だ。
「いい加減にしろよ。お前はもう人の道を外れた化け物だ。死ねよ」
レーヴァテインを思いっきり振り下ろす。
炎は瞬く間に部屋を焼き切り、聖女マリーの正面に達する。
手応えはない。
まるで幻影魔法を切ったかのような手応えのなさだ。
俺は顔をあげて聖女マリーがいた方をじっと見つめる。
崩れた瓦礫の埃が晴れた先にいたのは無傷でピンピンとしている聖女マリーだった。
「全く、零君は相変わらず短気なんですから。ダメですよ? 女の子にこんなもの叩きつけちゃ」
そう言いながら聖女マリーは俺のレーヴァテインに触れ魔法をかき消す。
これは
この世界で使えるとされているのは1人。
「聖女マリー、お前まさか……」
「さてなんのことでしょうか? あーそうだ。セシアちゃん貴女の
聖女マリーがセシアに触れようとする。
セシアはそれを回避しながら腰につけていたスレッドから短剣を取り出し投げつけた。
だが攻撃は外れる。
聖女マリーに攻撃が当たらない原理がわからない。
「セシア、あれなんだかわかるか?」
「不明。わかりません」
「それはわからなくて当然でしょう。零達では攻撃を当てれないでしょうから教えてあげますよ。これは
聞いたことがある。
聖女は祈り、自身の何かを神へと生贄に捧げることで不浄の存在には触れることのできない領域へと自分を昇華することが出来ると。
それは希少性のあるものであればあるほどいい。
例えば指1本では普通に俺達でも触ることはできる。
恐らく腕でも脚でも目玉でも触ることはできたはずだ。
神にとっての生贄とはそれほど厳しい。
ならばこそ恐らく聖女マリーが捧げたのは聖女としての擬似的な処女ではないだろうか。
神にとってそれは神聖なものだ。
古来より生贄というのは神の番い探しと言われることもあるぐらい特別とされる。
それを捧げるということは神に永遠の忠誠を誓うようなもの。
例え俺が勇者であっても触れることは困難になる。
「やっと気がつきましたか。さて種明かしも済んだところで2回戦といきましょうか」
———
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