メイド服と聖女
セシアからの連絡は翌日の朝にきていた。
どうやら地下に王族専用の脱出通路があり、そこからなら警備も手薄で侵入が可能らしい。
「とりあえずはセシアを信じるしかない……よね」
「そこは恐らくだが、大丈夫だとは思う。聖女マリーは元々性格が最悪でホムンクルスのみならず人間すら道具としかみてない人間だ。そんな人間がホムンクルスを大切に扱っているとは考えにくい」
「だからそこに漬け込む隙があったわけだねー。セシアは聖女マリーの所有物から解放されたいと思ってると」
「そういうことだな。つまりセシア自身もかなり追い詰められてるはずなんだ。ホムンクルスの寿命という観点から考えてもな」
ホムンクルスの寿命は短い。
通常の人間が平均70年ぐらい生きるとするならばホムンクルスはその半分以下だ。
本能的に何か生きた証を残したいという思いを持つ、ホムンクルスにとっては短すぎる期間とも言える。
だからこそホムンクルスは主人という存在に縛られることを嫌う。
完全な主従関係を意志や感情を持ったホムンクルスと結ぶことは不可能だ。
そんなことは聖女マリーもわかっているはず。
なら何故、聖女マリーはホムンクルスばかりを使うのだろうか。
俺はその疑問の答えがわからず少しの不安を抱えたままセシアとの集合場所へと向かった。
◆◆◆
「きましたか」
待ち合わせ場所は王都外れの墓地だ。
墓地には先にセシアが到着していた。
周りを見渡しても敵の気配はない。
念の為、梨花にも探知をしてもらうが敵影はなかった。
「どうやら本当に協力してくれるらしいな」
「酷いですね。私は一度言ったことは守るタイプのホムンクルスですよ。少しは信用してくれても……いえ、無理なお願いですね……」
心なしか前回会った時より雰囲気も口調も落ち着いている気がする。
支配が解かれるかもしれないという期待からかそれとも何か別の理由があるのか。
考えてもわからなかった俺は直接尋ねることにした。
「セシア、前回と随分口調が違うがどうしたんだ?」
「そうですね……。半分は溜まっていた鬱憤が少し晴れたこと。そしてもう1つは貴方達に対する細やかな期待……でしょうか」
「期待か。ならその期待には応えないとな。案内してくれ」
「はい。魔族の方、貴女も行かれますよね?」
「勿論。何かダメな理由でもあるなら残るけど」
「いえ、これを着て欲しいと思いまして」
そう遠慮がちにセシアの手から差し出されたのはメイド服だった。
俺は頭の中で何故と考える。
だが、少し考えれば答えは案外と簡単だった。
聖女という職業自体が魔族に特攻を持っている。
つまり梨花が聖女マリーと対峙した時に魔力の質で魔族だとバレる確率が高い。
その為の偽装としてメイド服なのだろう。
あのメイド服は着ている者の魔力の質を誤魔化す。
つまり梨花が魔族だとバレるまで時間をかけれるということだ。
「梨花、それは着た方がいいぞ。別に俺の趣味とかそういうわけじゃないんだけどな?」
「あー、その言い方はなんか怪しい。……まぁ零がどうしてもっていうならいいけど」
「じゃあどうしてもってことにしといてくれ」
「お2人でイチャつくのは良いのですが、もう少し後でやっていただけますか?」
「すまん。じゃあ行こうか」
こうして俺と梨花はセシアの案内で王城へと侵入する為の地下通路へと向かった。
◆◆◆
マリーは普通の少女だった。
生まれた時から何も持たず、何もない。
少し特別な村の生まれのただの平凡な少女。
でもある日、急に彼女の運命は変わった。
禁忌であるとされたその実験は不幸にもただの少女であるマリーの体を通して成功してしまう。
マリーは普通の少女だった。
いや普通の少女であろうとした。
それが更にマリーという人間を歪め、普通の少女だったマリーは気がついた時には消えていた。
「ままならないものですね……。私の人生というものは」
月明かりの下、1人の少女が屍の上でぼやく。
別段、彼女とて悪魔のような聖女になりたくてなったわけではない。
もう一度だけ言おう。
マリーは普通の女の子だった。
将来の夢はお嫁さんで、きっと平凡な生活をして一生を終える。
そんなことを考えることすらあった。
だけどもうそんな平凡な夢を追うことは許されない。
何故なら彼女は聖女だから。
「明日は一体何が起こるんでしょうね。私の未来は聖女になったその時から真っ黒。セシアにはどう見えているのでしょうか……」
聖女マリーは自分の未来予想を自嘲気味に笑う。
彼女の夜は始まったばかりだ。
——
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