次元の狭間と神

 元凶を探すとは言ったものの、捜査は難航していた。

 理由は単純であまりに怪しい人物が多すぎる。


「王都の城にいる才能ギフテッド持ちだけで数100人更に民間人まで含めるとキリがないねー……」

「そうだな……。誰がどの才能ギフテッドを持っているか把握できたらまた話は変わるんだが」

「そんな便利な才能ギフテッドがあったらもうとっくに——あっ」


 何かを思い出したのかのように梨花が声を上げる。

 俺はそんな梨花の様子を見て少し期待が高まっていた。


「そういえばなんですけど隠居した魔族にそういう才能ギフテッドを持つ人が居たような気が」

「本当か? ならすぐにその人を訪ねて聞こう」

「それができたら1番なんだけどねー。私が今の今まで忘れてたのにも理由があるんだよ。彼隠居するって言ったきり次元の狭間ディメンションウォールに引きこもっちゃって」

次元の狭間ディメンションウォール?」

「そう。人間の零は知らないかもしれないけど、この世界には高次元の世界、つまり神が住む上層世界と人間が住む下層世界の二層に分かれてんだ」

「つまり次元の狭間ディメンションウォールは上層世界と下層世界の狭間ってことか?」

「そういうこと。そして魔族というのはどちらにも居場所がない種族なんだ。だから神や人間どちらとも争う——まあこれは一旦置いておいて。通常、魔族は次元の狭間ディメンションウォールへと飛ぶ手段を持ち合わせてないんだよね」

「ならどうやって魔族は神へと争いを挑むんだ?」


 次元の狭間ディメンションウォールとやらを越えられないのであれば元々地上を侵略しようとしている魔族が、人間と争えても神と争えるとは思わない。


「それは簡単。神も全員が全員、上層世界を守ろうとしていないんだ。だから時々、わざと次元の狭間ディメンションウォールを飛び越えられる才能ギフテッドを授ける神が出てくる。それらを私達魔族は邪神と呼んで崇めていたんだ」

「なるほど……」


 そうなると理解できる。

 更にこの話を聞けば俺達勇者が何故生まれてくるのかも理解できる話だ。

 才能ギフテッドは神が人間へと与えるものだ。

 神は下層世界が魔族に滅ぼされては自分達の身も危ないという理由から勇者という存在を作り出し、魔族と対抗する手段を人類へと渡した。

 つまり世界を滅ぼしたい神と滅んでほしくない神の争いも同時にこの世界では起こっているということだろう。


「で、次元の狭間ディメンションウォールに飛ぶ手段を持ってないならどうやって接触するんだ?」

「零、焦りすぎだよ。ちゃんと聞いてた? 持ってないんだ」

「梨花は魔王の娘ということは……」

「私は次元の狭間ディメンションウォールへと飛ぶ才能ギフテッドを持ってる」

「なら……」

「ちょっと待って。次元の狭間ディメンションウォールはとてつもなく広いんだ。彼が飛んだ座標から数ミリメートルズレたところから移動するだけで数メートルのズレを引き起こしかねない」

「てことは旧魔族領まで行かないといけないってことか……?」

「そういうことになるね。魔王城に行きさえすれば座標をしてして飛べるんだけど……」

「魔王城か。確か今は前代の勇者パーティーに居た元聖女様がいるんだっけか」

「うん。あそこは神の世界との通信手段も色々とあるから」

「よし、じゃあとりあえず魔王城を取り返すか」

「いいの? 別に彼が飛んだ座標を探すほうが楽だと思うけど」

「楽とか楽じゃないとかじゃないよ。それに俺はいずれ全ての人類を滅ぼすんだ」


 俺は目標を見失ってはいない。

 人類全員を根絶させることに変わりはないんだ。 

 なら誰から殺そうが俺の勝手だろう。

 いずれ人類は全員死ぬのだから。


 ◆◆◆


「今代の勇者は魔王という明確な敵がいないからか荒れてますねぇ」

「なーに下層世界の人間全てで済むのであれば我らには被害は及ばんよ」


 真っ白い6対の羽根を生やした何かが覗き見の水晶で今代の勇者を覗き見ていた。

 2体とも人間が殺されていることに嫌悪感を抱く様子もなく、淡々と話を進める。


「そういえば今代の勇者と共に行動しているあれは次元の狭間ディメンションウォールに移動する才能ギフテッドを与えられてましたね」

「あぁ。一部の馬鹿がスパイスとか言って渡したアレな。もしあれで今代の勇者がこちらへと挑んで来たらお前はどうする? ルシフェル」

「何簡単な話だろう。我々が責任を持って殺してやればいい。勇者の力とて我々からすれば赤子と変わらんよ」

「ははは。随分と強気だな。痛い目を見なければいいがな」


 こうしてルシフェルと呼ばれた神はその場を後にした。

 神である自分が人間の勇者と汚らしい魔族の娘風情には負けないと確信して。


 ——

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