感情がないはずの人形と元凶探し

「おい梨花! 大丈夫か!?」


 俺はセシアが撤退した後、慌てて倒れている梨花に駆け寄る。

 腹と胸の辺りに切られた後があり、そこからの出血で血溜まりができていた。


「あぁ零。大丈夫……だと思う」

「喋るな。まず血を止めないと!」

「だから大丈夫だって。この体は才能ギフテッドで作った幻想みたいなものだから。これがいくら傷ついても私自身が死ぬことは絶対にないから」

「ということは人間の姿をしている時は普通に死ぬってことか?」

「まあそうなるね。本来の私の姿はいつも零が見てる私だから」


 なるほどと納得する。

 変身を使う才能ギフテッドは幻影の才能ギフテッドと同じで術者本人にはダメージを与えられない。

 ただし幻影の才能ギフテッドと違うところは本体自体が別のモノと化している為、変身体を壊さない限りは術者本人にダメージを与えることはできないということらしい。


「それは結構ずるいな……。梨花と敵対することがなくてよかったよ……」

「だって才能ギフテッドだし。ただし発動条件も一応きちんとあるんだ」


 梨花がいうには聖騎士団長マルコスとの戦いで使わなかったのは正確には使えなかったのだと教えてくれた。

 条件の詳細は話せないが、どうやら複数の複雑なプロセスを乗り越えてやっと発動することができるらしい。


「強い才能ギフテッドにはそれなりのデメリットが付き纏うからねー。その点、零の才能ギフテッドは強いのにデメリットなさそうだよね」

「言われてみるとそうだな……」


 俺はその言葉を聞き、少しだけ不安になるのだった。


◆◆◆


「セシアよ。どうして勝手な行動をした?」


 私は帰還命令に従い、大人しく王城へと帰還した後髭面の偉そうなおじさんに怒られていた。

 どうやらこの国で1番偉い国王とかいう人物らしい。


標的ターゲットがそこにいたからとしか言いようがありません。私は標的ターゲットを殺す人形ですから……」

「今日は勝手な行動をするなと命じたはずだろう? 今後も勝手な行動を繰り返すようだと処遇を考えないといけなくなるぞ?」


 私だって別にしたくて命令違反をしているわけではない。

 標的ターゲットを見つけた瞬間に私の中の何かが奴らを殺せと八つ裂きにしろと語りかけてきたのだ。

 感情の制御など元々感情がない私達ホムンクルスには出来ない。

 気がついたら標的ターゲットと接触し、戦闘をしていた。


「まあまあお父様、その辺りで。セシアも反省しているようですし」

「マリーがいうならそうしよう。いいか? 2度と命令に背くんじゃないぞ。お前はわしらの人形なんだからな!」


 それだけを突きつけられると私は部屋から追い出される。

 勝手に呼んでおいて勝手に追い出すとはやはり人間は自分勝手だ。

 そもそも私は私だ。

 誰のものでもない。

 私を戦えるようにしてくれた聖女マリーには感謝はしているが、モノに成り下がったつもりはない。


「いずれは奴らも私の手で……」


 そう考えるセシアの目はもう正気のそれではなかった。

 

◆◆◆


「梨花はあのホムンクルスと戦ってみてどうだった?」

「んー完全に

「やっぱり梨花もそう思うか。俺も自分の攻撃を何回か思い返してみたんだが、どう考えても常人なら避けられない攻撃を簡単にしかも剣を振り下ろす前に避けられていた」

「でもあれもあったよね? 武器を乗っ取るやつ」


 俺は自分の武器がセシアに奪われた光景を思い出す。

 あれは間違いなく、才能ギフテッドによるものだ。

 武器の軌道の曲げ方といい、梨花のダガー投げに近いものを感じる。


「あれは間違いなく才能ギフテッドだ。でもそうするとセシアも複数の才能ギフテッドを持っていることになるな」


 俺自身が複数の才能ギフテッドを使えるし、梨花も使えるので忘れがちだが、人間は一生で1つしか才能ギフテッドを授かることができない。

 それはホムンクルスとて例外ではないといえる。

 エリシアであれば剣の才能ギフテッドだ。

 叡智の書アカシックレコードに接続できることは才能ギフテッドではない。


「未来予知の才能ギフテッド、人の武器を乗っ取ることができる才能ギフテッド。私としてはまだもう1つぐらい隠し玉がありそうに思えるけど……」

「上2つだけでかなり厄介なのにこれ以上増えるとなると少し対策が必要だな」


 俺はセシアの対策を考えるべく、物思いに耽る。

 そうして考えていると思い出されるのは聖騎士団長マルコスの存在だ。

未来を見れる才能ギフテッド

……。


「なぁ、梨花。俺嫌な予感がするんだが1つ可能性の話をしていいか?」

「奇遇だね。私も恐らく同じことを考えてたよ」

「セシアに誰かが聖騎士団長マルコスの才能ギフテッドを移し替えたんじゃないか?」

「私もそう思う。未来を見るなんて代物が世の中に幾つもあるわけがないし、そもそも剣を振り下ろす前から避けれる精度の才能ギフテッドを持っていて話題にならないわけがない」

「そうすると誰かはわからないが、死んだ人間の才能ギフテッドを移し替える才能ギフテッドを使えるやつがいるってことか」

「そうなるね。零は心当たりないの? なんか凄い恨まれてたみたいだけど?」

「全くないな。人の才能ギフテッドを見れるやつにあったことあるけど」


 ここで気になるのが才能ギフテッドを他人に移した才能ギフテッド使いが命を落とすとどうなるかだ。

 無理やり才能ギフテッドを使用者にくっつけている状態に近い。

 となると元凶を叩けばセシアも弱体化するのではないかと俺は思う。


「それはあり得るかも。零って時々すごい発想するよね」

「だろ? 頭の柔らかさだけが取り柄だったからな」


 こうして俺と梨花は暫く元凶探しへと勤しむこととなった。


——

 いつもご覧いただきありがとうございます。

 よろしければ星、ハートブクマ等いただけますと嬉しいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る