最強の追跡者
「えーと零、私に何かした?」
「何もしてない。そもそも梨花が勝手に俺のベッドに潜り込んできたんだろ。覚えてないのか?」
「うーん。何も覚えてないんだよねー」
俺はこれを聞いた瞬間に確信する。
梨花は酒を飲ませてはいけない人種だと。
「梨花……金輪際酒は俺が見ていない時は禁止だ」
「えー」
梨花がブツブツと文句を言っているが仕方ないだろう。
酒を少量飲んだだけで記憶が飛ぶようなやつを野放しにしたらどんなトラブルに巻き込まれるか判ったものではない。
ましてや今はなるだけ目立つのは避けるべきだ。
俺と梨花は再びホムンクルスの後を追う為に王都へと向かった。
◆◆◆
「零、気づいてる?」
「あぁ。
変装の魔法を使っているとはいえ、幾度となく侵入を繰り返していればいずれはバレるとは思っていたが、ここまで早いとは予想外だ。
「それでどうする? 路地裏に逃げ込めば巻けないことないと思うけど……」
「いや情報を吐かせる為に路地裏に逃げるんじゃなくて誘い出そう。大方目安はついているが」
「そうなの? じゃあとりあえずこっちに逃げよ。袋小路になってるから、知っていたら喜んで折ってきてくれるはず!」
俺と梨花は歩く進路を右へと急に変更し、路地裏へと姿を消す。
これで気配がこちらへと動かなければ気のせいということになるのだが。
残念ながら気配はこちらへと向かってきている。
しかも結構なスピードでだ。
「梨花、追ってきてる。しかもさっきより速度が上がっているような気がする。俺達を逃す気はないみたいだ」
「じゃあやるかないねー。とりあえずダガー投げてみるよ。
空中に梨花のダガーが放たれた。
俺は梨花がダガーを誘導しやすいように追跡者の位置を逐一伝える。
『1番は右へ 速射!』
『2番は緩急をつけて 後ろから!』
梨花のダガーが追跡者を襲う。
だが手応えがなかったようで。
「えー嘘じゃん。ごめん、全部落とされた」
「わかった。どうやらかなりな手練れみたいだな」
とりあえず相手の実力は梨花のダガーによる奇襲を全部落とせるレベルだということ。
それだけでもかなり強いことが窺える。
梨花本人も言っていたが、あの奇襲を見破れる人間はそうそういない。
「そろそろ行き止まりだけどどうする? 一応壁を飛び越えれば逃げれるけど……」
「いや迎え打とう。放っておいたらいつまでも追ってくるはずだ」
「りょーかい!」
俺は剣を梨花は大剣を抜く。
襲撃者は後、2秒もすれば俺達の元へと辿り着くだろう。
俺は迎撃するべく魔法を詠唱する。
『神羅を束ねし自然の神よ 侵入者を阻みし罠を!』
《
あの速度で突っ込んでくるなら間違いなく、罠を踏むはず。
俺はそう考え、罠魔法を使う。
これは本来家を留守にする間、侵入してきた侵入者を捕らえる為の罠だ。
狭い範囲しか起動しない関係上、先頭ではあまり好まれない。
だがここは袋小路だ。
動ける範囲の狭さでいえば家の庭と大差はない。
「くる!」
梨花の叫びと共にとてつもないスピードでこちらへと突進してくる追跡者。
俺は体を捻り、罠魔法の方へと誘導する。
そして追跡者は罠魔法の端を踏む。
かかったとそう思った瞬間、追跡者は体を後ろに捻り、返す刀で俺に追撃としてクナイを飛ばしてくる。
結果罠魔法は不発に終わってしまった。
俺はクナイを弾き飛ばし、一息つく。
「梨花気をつけろ。こいつ相当やるぞ」
「うん。顔は見えないけど間違いなく強者だね。私も魔法を解禁しないといけないかも」
改めて追跡者の風貌を眺める。
顔はローブに覆われていてはっきりとは見えない。
だが、女性っぽい体つきをしている。
身長はエリシアと同じぐらいでさほど大きくはない。
待て、
まさかこいつは……。
「気をつけろ。こいつ多分ホムンクルスだ」
「それって例の?」
「あぁ。身体的特徴がエリシアに似すぎている。それにあの身体能力。間違いない」
「なら全力でいかないといけないみたいだね」
梨花が魔法の詠唱を始める。
俺はその時間を稼ごうと追跡者へと切りかかる。
魔法を乗っけていない純粋な斬撃だ。
だが、簡単に避けられてしまう。
《魔を連ねし我が血を持って命ず 血脈を解放し我を本来の姿へと戻したまえ》
梨花の魔法が聞こえてくる。
聞いたことないような魔法だ。
『追跡者よ。塵となれ』
梨花が突進していく。
もはやその見た目はいつもの人間らしいものではなく、魔王そのものだ。
大剣も禍々しい黒い色を放ち、存在するだけで周りの正気を吸い取っていく。
だがそんな一撃すらも追撃者はひらりと交わす。
「梨花! 連携するぞ!」
『はい!』
俺と梨花はそれぞれ別の方向から追撃者へと剣を振るう。
追跡者は片手剣だ。
通常であれば片手剣では両方向からの攻撃を受け切ることは不可能といえる。
だが追跡者は梨花の斬撃を交わした後に俺の剣を軽々しく受け止める。
「お前が零か?」
ふいに追跡者が話しかけてくる。
俺は悩んだが、会話をすることにした。
ホムンクルスである可能性が高いなら情報は聞くべきだ。
「さてな。お前は何者だ? 随分と腕がいいみたいだが」
「私は……俺はアレ、僕はマル……セシア」
「今随分と色々な自己紹介が入りそうだったがセシアでいいのか?」
「それでいい。他はバグみたいなもの。私は貴方が零だという前提で話をする」
「勝手にしろ。それで目的はなんだ?」
「貴方、零の殺害及び復讐」
そうセシアが告げた瞬間、俺の剣が黒く染まる。
恐らく
俺は剣を捨て炎の
すると俺に捨てられた剣はクルクルとセシアの周りを飛び始める。
『射出』
そう一言口に出したのを俺は見逃さなかった。
剣は宙を舞い、俺の方へと向かってくる。
切っ先は心臓に向いていた。
不意を打たれた俺は間一髪で自分の剣を回避する。
だが、これは
空中を舞った剣は再び俺に狙いを定めて空から急降下してくる。
更にセシア自身も俺へ剣を突き立てるべく、走ってきていた。
「梨花、カバー……」
俺はふと目に入った梨花を見て絶句する。
魔法の姿をした梨花が血だらけで倒れていた。
頭での理解が追いつかない。
さっきまで元気だったはずだ。
一体何が起こった……?
俺はとりあえず体を捻り、自身の剣を炎の剣で焼き落とし、セシアを迎撃する。
「はぁぁぁ!」
「そんな攻撃、当たるわけない」
またひらりと交わされ、足を刺される。
こいつは化け物だ。
そもそも何故、俺と梨花の
本来、剣というのは振り下ろすまでは軌道がわからないはずだ。
なのにこいつは振り下ろす前から剣を避ける動作をしている。
まるで未来が読めているかのように。
「……撤退命令が出た。残念ながら今日はここまで。次あったら殺すから覚悟しといて」
そう言いながらセシアは王都の喧騒の中へと消えていった。
——
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