帰郷の思いと殺意

「にしても零あの子、殺して良かったの? 何かこの国の聖女の名前読んでた気がするんだけど……」

「気のせいじゃないか? 俺には全く聞こえなかったが」

「魔族の耳舐めないでほしいね。身体能力はその……普通の人間よりは全般的に高いんだよ」

「俺には負けたけどな」

「うー……絶対それを言われると思ったから言いたくなかったのにぃ……! でもあの時は魔法の才能ギフテッドも隠してたから全力でやれば私が勝つ、と思う」

「へーいうじゃん。じゃあ今からやるか?」

「別に私は今からでも——ってそういう話じゃなくてマリー様ってはっきり言ってたけど?」

「なんで聖女マリーの名前を出したのかがわからないな。相応のリスクがあると思うんだが」

「多分だけど私達が訪れる前に聖女マリーが、あそこへ行ったんだと思う。で、戻ってきたと思ったから名前を呼んだ。私の推理どうかな?」


 俺は一理あると思う。

 実際、聖女マリーがすぐ戻るといったことを言い残しその場を去ることは十分考えられる。


「その推理はかなり当たってる可能性が高い——がどうするんだ? 王都の正教会にでも殴り込むか?」

「それは多分私達2人でも無理だね。だけど聖女マリーは零のこと狙ってるなら確実にホムンクルスを差し向けてくると思うんだよ。タイミングはわからないけど……」

「だが奴は一度俺にホムンクルスを差し向けて失敗している。同じ過ちを繰り返すとはあまり思えないんだがな」

「それは確かに……。だけど逆にパワーアップさせてもう一度ぶつけてみようって考えたりはしないかな」


 幾ら聖女マリーが自分の力を過信しているとはいえ、一度失敗した作戦をもう一度仕掛けてくるとは考えにくい。

 あり得るとすればそれはエリシアよりも強く、マルコスと同等かそれ以上の力を持っている時ぐらいだろう。


「とりあえず備えはしておこう。梨花は絶対に1人で行動しないでくれ。俺もなるべく単独行動は控える」

「そうだね。暫くは一緒に動くのには賛成だよ」


◆◆◆


 どうしてこうなったのだろうか。

 俺は自分のベッドで抱きついてくる梨花の姿を眺めながらぼーっと考える。

 一緒に行動すると決めた俺達は宿へと向かった。

 勿論、王都で泊まるわけにはいかないので少し離れた村だ。

 そして梨花が作戦成功の記念だなんだと言い出し、酒を開けた。

 そこからは地獄だった。

 梨花は酒にめっぽう弱い。

 そのことは聖騎士団にいた頃に聞いていたのだが、ここまでとは思わなかった。

 数滴飲んだだけでベロベロに酔い、挙句俺の布団に潜り込みすやすやと寝息を立て始める始末だ。

 更にタチが悪いことに人のことを抱き枕にしてくるせいで俺も身動きが取れない。

 布団から叩き出して床に寝かせようかと思案していた時、ふと梨花の寝言が聞こえてくる。


 「うぅ……お父さん、お母さん……」


 それを聞いた俺は途端にベッドから追い出すことはできなくなってしまう。

 別に梨花に対して情があるわけではない。

 ただこいつも間違いなく、人類の被害者だ。

 俺はそう思い、気持ちを落ち着かせ寝ることにした。


◆◆◆


「ふふふ。これでほぼ完成ですね」


 聖女マリーこと私は自分の研究室に篭り、セシアを弄っていた。

 様々な才能ギフテッド人形ホムンクルスに搭載し、エリシアの比にならないほどの剣才を発揮させる。

 元々火属性魔法の才能ギフテッドは有していたようで魔法の才も問題ない。


「そういえばこの前、聖騎士団長のマルコスが死んだと聞きましたね。あの才能ギフテッドは使えそうです」


 私は死んだ人間から才能ギフテッドを取り出す権限を神から付与されている。

 これも一種の才能ギフテッドと言えるだろう。

 だからこそ尚のこと零が欲しい。

 たとえそれが死体であっても。

 そして人形ホムンクルスを更に魔改造していく。

 もはや魔改造された人形ホムンクルスには元のアレンという人間の憎しみ以外の感情は残っていなかった。

 

「零、お前だけは必ず……」

「今誰か何か言いましたか?」


 起動すらしていない人形ホムンクルスが喋るわけもないかと私は作業へと戻る。

 騎士団長マルコスの才能ギフテッドをセシアに載せ替えた。

 いつか零を必ず殺す為に。

 

——

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