元いじめっ子の災難

 勇者学校を壊した俺は王都のスラム街付近の宿で数日間過ごしていると大通りの方でざわめきが聞こえてきた。

 どうやら勇者学校のこと、アレンの実家が滅んだことが色々と重なり噂が噂を呼んでいる状態らしい。

 アレンが帰ってくるまで勇者学校の正確な状態を認識できないようにしていて正解だった。

 そして遂に俺を討伐する為に聖騎士団を派遣すると言う噂も聞こえてくる。

 聖騎士団は世界で1番強いと言われる軍だ。

 逆に聖騎士団さえ滅ぼして仕舞えば、人類は俺に抗う手段を1つ失うことになる。

 今はそんな聖騎士団よりも戻ってきたアレンをどう調理するかの方が大切だ。


 ◆◆◆


 俺は全壊した勇者学校の跡地で踞って《うずくまって》座っているアレンを見つけた。

 今は自分の気配を消しているから見つかる心配はない。

 このまま闇討ちをかけ殺すのも一興だが、それではつまらない。

 折角ここまでこいつの心を折るためにお膳立てしてやったんだ。

 俺は敢えてアレンに話しかける。

 顔は変えているが声はそのままでだ。


「アレン元気だったか?」

「……お前は誰だ? そんな顔の知り合いは居ない」

「そうか。じゃあこれなら思い出せるか?」


 俺は顔にかけていた変装魔法を解く。

 解いた瞬間にみたアレンの顔はそれはもう傑作だった。


「お前はまさか零か!? なんでそんなまさかお前あの時確かに!」

「確かに死んだはずか? 残念だったな。俺は死んでない。お前に復讐を果たすまでは死ねなかったからな」

「復讐だと? 元はと言えばお前に力がなかったのが悪いんだろ!」

「少しは反省しているかと思ったが、どうやら何も変わってないみたいで安心したよ。これで安心してお前を殺せる」

「お前が俺をか? さっきから話を聞いてれば僕を馬鹿にするのもいい加減にしろよ!」


 アレンが発狂しながら俺に剣を振り下ろす。

 昔の俺なら一切反応できずに切られていただろう。

 だがこのぐらいの剣閃ならエリシアの方が早かった。

 俺はなんなくアレンの剣を受け止めてみせる。


「なんなんだ! なんでお前が、お前如きが俺の剣を受け止められるんだ!」

「お前が怠けている間に成長してるからだ。わかったら早く死んでくれ」


 俺はアレンの3倍の速度で剣を振り下ろし続ける。

 だが人を切った感覚が手に伝わってこない。

 アレンの才能ギフテッドの火属性幻影魔法で避けられていたようだ。

 折角、剣で楽に殺してやろうと思っていたのにそんなに逃げられたら俺もお前と同じ手段で殺したくなるじゃないか。


「炎を紡ぎ全てを焼き燃やし尽くす剣となり全てを焼き尽くせ」

《レーヴァテイン》


「なんで、なんでお前如きがその魔法を使える? それは選ばれた勇者にしか使えない伝説の魔法だ。つまり僕が使うべき魔法のはずなんだ……」

「なんでか。答えは今、お前が言った気がするがな」

「まさかお前!」

「そのまさかだよ。俺は今代の勇者に選ばれた。お前とは違ってな」

「そんな! 次期勇者はこの僕だ! お前なんかがなっていいわけがない!」


 何かアレンは喚き狂っているが知ったことはない。

 俺はこいつを丸焼けにして殺すだけだ。

 俺は《レーヴァテイン》をアレンに振り下ろす。

 今度こそ手応えはあった。

 俺の目の前でアレンが燃えている。

 あの日の俺のように。


「さようならだ、アレン。もう2度と出会うことはないだろうけどな」

「あついあついアツイ。零たすけ……」


 おそらく絶命したのだろう。

 途中から声は聞こえなくなった。

 金魚の糞もそのうち殺さねばならないが今の俺は最高に気分がいい。

 今日は見逃してやろう。


 ◆◆◆


 2つの影が勇者学校の跡地まで調査へと赴いていた。


「まだ見つかりませんか。私の故郷を滅ぼした罪を償ってもらわねばならないのですが」

「そう仰られましても相手は相当変装魔法に長けている様子。やはり見つけられるまでに時間は要します」

「分かってはいたことですが仕方ありませんね。っと、あれは」

「黒焦げの遺体ですね。勇者学校の崩落に巻き込まれたのでしょうか?」

「いえあれは。ふふふ。神もまだ私を見捨ててはいないらしいですね。この遺体私が供養しても?」

「ええ。寧ろ聖女様に供養していただけるのであればその遺体の方も喜ばれるでしょう」


 一緒に回っていた傭兵は当然彼女本性は知らない。

 まさかこの後この遺体を使って実験をしようと考えている彼女の心の中など考えようがない。

 なぜなら彼女は聖女なのだから。


——

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