埋葬と金魚の糞と

 元クラスメイトや教師、それにアレンに対する復讐を終えた俺はエリシアの埋葬先を探しに港町まで来ていた。

 港町の理由はホムンクルスに生前というのも少しおかしいかもしれないが、あいつは俺の復讐が終わったらいつか海沿いの綺麗な町で過ごしたいと言っていたのを思い出したからだ。  

 馬鹿なやつだ。

 ホムンクルスはそんなに寿命が長くないなんて自分でもわかってただろうに。

 港町の入り口はさまざまな商人が出入りするからかセキュリティは甘く身分証の提示もなく、入ることができた。


 ◆◆◆


「ここがいいかもしれないな」


 俺は港町の奥にある丘の上まで来ていた。

 なんでもここで見られる夕陽がこの町の観光地なんだとか。

 ふと見上げると丁度、夕陽が登っているところだった。


「……久しぶりに心が動いたかもしれないな。本当に綺麗だ」


 俺は夕日を堪能してエリシアの首を埋めた後、心の中でここを滅ぼすのは王都を滅ぼし、全てが終わった後にしようと誓う。


「こんな景色一つに流されるなんて俺も案外まだ人間らしい部分が残ってたのかもしれないな」

『そんな感傷に浸ったら余裕なんてあるのかのぉ?』

「その声、ヨルか。俺の復讐はひと段落したはずだがまだ何かあるのか?」

『ふははは! 聖女であるマリーを殺せておらず、王都もも滅ぼせてないのにひと段落だと? 笑わせるでないわい』

「そうは言ってもその2つはそう簡単にどうにかなる問題でもないだろう?」

『それはそうじゃ。だから聖騎士を全て殺せ。お前ならできるはずじゃろ?』


 そういいヨルは姿を消した。

 俺は課された課題の大きさに少し戸惑う。

 だが、いずれは聖騎士を殺さないといけないことも事実だ。

 俺は一先ず聖騎士長の顔を拝む為、王都へと再び赴くことにした。


 ◆◆◆


 カツカツカツと薄暗い階段を降りる音が聞こえる。

 どうやら来客のようだ。


「これはこれは聖女様。本日は如何なされましたか?」

「これをなんとか使い物にしてくれません?」

「これといいますとその手に持ってらっしゃる人間の残骸ですか?」


 聖女は無言で頷く。

 有無を言わさない迫力がそこにはある。

 元より金をもらえるのであれば仕事は選ばない。


「はぁ……。わかりました。ただしこれは神に背く実験。王都に何か起こっても知りませんからね」

「死者の蘇生。確かに神の教えには叛いているかもしれませんが、悪を倒す為であれば神も許容してくれましょう」

「そう貴女が仰られるのでしたら止めはしませんが」


 聖女は神の使いでありながら禁忌の実験に手を染めたのだった。


 ◆◆◆



「見つけたぞ。零!」


 王都へと侵入した俺は突然の不意打ちに咄嗟に剣を構える。

 襲撃者の顔は見えない。

 だが変装魔法を見抜く力とあの声は……。


「よくも俺の故郷とアレンと王都を!」

「その声と能力、金魚の糞か」

「俺の名前はメイサー•エルだ!」


 再び振り下ろされる剣。

 だが今まで見てきた誰よりも遅くて軽い。


「なぁ、エルって言ったか。お前努力をしたことはあるか?」

「あるに決まってるだろ。毎日50回は素振りをして色々とアレンの訓練にも付き合っていた」

「50回、50回か。ははは!」

「何がおかしい!」

「悪い悪い。いやどうりで弱いはずだと思ってな」

「弱い? 僕が?」

「お前以外誰がいるんだよ。今まで相手をした中でお前は一番弱い。だからパッパッと俺の前から消えてくれないかな? 俺は今忙しいんだ」

「そ……んな」


 エルはがっくりと膝を地面に落とす。

 毎日素振りを50回やる程度のことは努力とは言わない。

 今はこんな雑魚よりも王都が消し飛んだ原因と聖女の行方を追うほうが先だ。


「動かないのなら死ね。邪魔だ」


 俺は珍しく何も魔法を使わずにエルの首を刎ねる。

 こいつが本当にここまで何もできないやつだとは思わなかった。


——

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